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コモビジョンのここがスゴい!伴走支援者から見た5つのポイント〜中期事業計画策定事例の解説〜

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コモビジョンのここがスゴい!伴走支援者から見た5つのポイント〜中期事業計画策定事例の解説〜

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では「コモビジョンのここがスゴい!伴走支援者から見た5つのポイント〜中期事業計画策定事例の解説〜」と題し、前回の記事で解説した中期事業計画の作成について、実際に私が策定過程に伴走したNPO法人コモンビートさんの事例を元に解説します。

 

コモビジョンとは

commonbeat.org

コモビジョンとは「100人100日ミュージカルプログラム」など特色ある表現教育活動に取り組むNPO法人コモンビートさんが2021年11月に新たに発表された団体が目指すビジョンと、ビジョン実現のための各事業の役割や関係、ビジョン実現までの道のりを示したものです。

各種経営指標の目標値や目標達成のためのアクション・施策などをまとめた中期事業計画というものは必ずしも対外的に公開せねばならないものではないのですが、単に利益や売上ということではなく、社会課題の解決や社会的な価値の創造という社会的な成果を、多くの市民の理解や参加を促しながら目指していくNPOとしては中期事業計画はなるべく組織外部にも公開していくことが望ましい場合が多いと考えています。

コモンビートさんのコモビジョンは自組織の掲げるビジョンに込めた想いや社会的な意義・背景、そして実現までの中期的な視点から見た道のりの仮説をわかりやすく公開している事例として多くて、非常に優れていますので、ぜひ多くの方に見ていただきたいです。

コモビジョンのここがスゴい!伴走支援者から見た5つのポイント

ここからはコモビジョンの何がどうすごいのかを、実際に伴走支援に入らせていただいた外部支援者の視点から解説してみたいと思います。大きく5つの観点から解説します。基本的にコモビジョンのページを先に読んでいただいていることを前提に解説を進めていきますので、特にNPO関係者で中期事業計画の策定に関心をお持ちの場合には、以下を読み進める前にコモビジョンをお読みいただくことをオススメします。

①ビジョンの解像度を上げる「中期ビジョン」

ビジョン実現のロジックの画像

コモビジョンページに掲載されている画像

まず一つ目は「中期ビジョン」という視点です。当時コモンビートさんが掲げていたビジョンは「多様な価値観を認め合える社会の実現」というものでした。

コモンビートさんの中期事業計画の策定過程においては、事業とビジョンのつながりを確認・整理するためにロジックモデルというフレームワークを活用した議論に多くの時間を使いました。事業とビジョンのつながりを確認するためには、上流(ビジョン)と下流(事業)の両方からの検討が必要で、伴走支援者としての私からは次のような問いかけを行いました。

上流からの問い:(当時の)ビジョン「多様な価値観を認め合える社会」が実現したと言えるためには社会の何が変わっていれば良いか?

下流からの問い:各事業はどのような成果を出していて、それはビジョンの実現にどのようにつながっているのか?(より具体的には例えば、中核事業であるミュージカル事業のこれまでの参加者はプログラムへの参加を通してどのような変化をしていたか?、など)

こうした問いに向き合う中で出てきたのは以下のような点でした。

「多様な価値観を認め会える社会」が実現していると言えるために社会的に変わっているべき要素について考えてみると、社会全体の大きな指標や尺度で測らざるをえず、自組織の事業で直接的に影響できる・コミットできる範囲を超えており、ビジョンの実現には距離がありすぎるのではないか

この真正面から向き合うのはなかなか容易ではない事実に対して、一方で以下のような点も力強く議論されていました。

掲げているビジョンに対して確かに距離はあるかもしれないが、それでもこれまでのプログラム参加者たちには確かに変化が起こっているし、その変化は自分たちの掲げているビジョン実現までの途上にある変化である

このような議論がなされてくる中で私から提案させていただいたのが「中期ビジョンの検討」でした。ビジョンが大きすぎるからといって縮小したものに変更するのではなく、最終的なビジョンの実現に向けてまず到達を目指すべき点を明確にしてみようということです。「多様な価値観を認め会える社会」が社会的な理想を表しているとしたときに、中期ビジョンでは「まずコモンビートのプログラムに参加した人たち自身やその周辺でどのような変化が起こっていれば良いか(最終的なビジョン実現につながっていると言えるか)」を考えてみましょう、という問いを投げ、コモンビートの皆さんから出てきたのが上記の矢印の図で言うと右から2列目の表現です※。一番左の「自分らしく・たくましく違いを認め合える人生み出す」というのはコモンビートの各事業が生み出している直接的な成果で、ロジックモデルの要素で言えばアウトカムです。この成果が出せている確信はコモンビートの皆さんには当初からあり、この成果の先にどのような変化が続いてくるとコモンビートとして「多様な価値観を認め会える社会の実現」に寄与していると言えるのかを検討したということです。

NPOが掲げているビジョンというのは非常に大きなものであることが多いです。それ自体はまったく悪いことではなく、理想の社会や地域の姿を自信を持って描いていただきたいのですが、実際に事業で出している成果とビジョンの間に距離がありすぎるとビジョンが適切なゴールとして機能しなくなってしまいます。ビジョンの解像度を上げるために中期ビジョンを検討するというのは有効な視点だと考えています。

※実は公開当時はもう少し違った表現だったのですが、本記事執筆のために改めてページを見ていたらよりブラッシュアップされた表現になっていました。代表の安達さんによるとコモビジョン公開後の一年での事業成果や新たな事業展開なども踏まえて更新したものだそうです。公開後も検討・勉強と修正を続けているのが素晴らしいですね。

②同時にビジョンをさらに一段高く押し上げる最終ビジョンを掲げる勇気

2つ目のポイントは「地球とひとりひとりのウェルビーイング(Well-being)」という元々掲げていたビジョンの更に上位のビジョンを設定したことです。

ポイント1で解説した通り、当時の議論では元々掲げていたビジョンである「多様な価値観を認め合える社会の実現」に対しても、まだまだ距離がありすぎるという課題認識の下に中期ビジョンの検討を行っていたのですが、中期ビジョンについて組織内で議論を深めていただくよう宿題をお渡しした次のワークショップの場でコモンビートの皆さんから出てきたのは、中期ビジョンの表現とともに、ビジョンを一段押し上げたいという、私の予想を超えた想いでした。

確かにビジョンの解像度を上げる議論や事業・活動を届けたい対象者やエリアについて話をしている中では、Well-beingやダイバーシティ&インクルージョン、日本だけでなく世界規模・地球規模でといったキーワードは頻繁に出てきていたのですが、ビジョン実現までの遠さを改めて認識していくような議論をしながらも、同時にあくまでも自分たちが本当に実現したいことをビジョンとして言葉にするというのはNPOとして本当にあるべき姿だなと感じ、伴走支援をしていた私の方がハッと気付かされるような勇気と覚悟のある新ビジョンの策定となりました。

③検討MTGの徹底と内部共有の丁寧さ

3つ目のポイントは、中期事業計画や新ビジョンを策定することに対してのコモンビートの皆さんのやりきる姿勢と丁寧さです。

まずやりきる姿勢について。当時私とのワークショップには各事業のマネージャークラスのメンバーが参加していただいていました。ワークショップの頻度は月に1回で、全体で半年程度の期間を使いました(ワークショップ以外に、団体内議論の進捗確認や今後の進め方を調整するためのう打ち合わせも別途月一回実施)。ワークショップの場でワークや議論は当然行うのですが、議論はそれだけでは終わらず、毎回宿題としての議論や調査が追加作業として発生していました。中期事業計画等の検討過程では宿題が発生することは多いので必ず事前に説明はするのですが、通常の業務も持ちながらなのでなかなか宿題の議論に十分時間を割けないということも少なくないのですが、コモンビートさんはこの辺りが非常に徹底していました。

私とのワークショップ以外にもワークショップ参加メンバーで議論する場を週に1回固定で確保し続け、さらに週一の打ち合わせまでに各自で検討や調査などがあれば分担して進めてくる、というペースを5ヶ月に渡って続けていました。とにかく時間をかければいいという訳ではありませんし、組織の体制やメンバーの構成によってそこまで物理的な時間をかけられないということは当然あると思いますが、少なくともどの程度のコミットをするのかという決めや覚悟はある程度事前に持っておくことが必要だと感じます(し、ある程度はコミットする覚悟がないと作りきれないと思います)。コモンビートさんの場合には、中期事業計画策定に対してそれだけのパワーと時間を掛けてやるんだ!ということを代表の安達さんがしっかりとアナウンスして、メンバーの皆さんのコミットを引き出していたように思います。

組織内でどんどんと議論が進んでいくので、私との月イチのワークショップの間にもチャットで質問やフィードバック依頼などをたくさんしていただき、議論が深まっていきやすい要因となっていました。

また、ワークショップに参加していないメンバーへの共有等も非常に丁寧にやっていらっしゃいました。ビジョンや中期計画という組織として大きな部分の議論ということで、ワークショップで議論している内容は理事の皆さんにも共有し、フィードバックをいただきながら進めましたし、各事業の現場を担うメンバーへの共有なども適宜行いながら進めており、非常に丁寧な印象を受けました。

計画策定過程の進め方や体制の考え方などについては、代表の安達さんがご自身のnoteで全9回で公開されていらっしゃいますので、ご興味のある方はぜひこちらもお読みください(伴走支援者の活用について組織側の視点で書かれた記事もありますし、ミーティングの設計や理事会のガバナンスなどはNPO経営者の方としてはおそらく私の記事よりも実践的に参考になる部分が多いかと思います)。

note.com

④事業の成果に向き合う「調査・研究」チーム

4つ目のポイントは中期計画づくりそのものというよりは組織の体制の話に関わるのですが、調査・研究といった役割の考え方です。

中期事業計画は完全に決まったフォーマットがあるわけではないですし、組織の状況や課題によってどのような議論やアウトプットにするべきかは都度変わって然るべきだとは思うのですが、中期的な視点からの「目標値」を決めることや、その前提として「成果指標」と「測定方法」を検討することを最終的な完成物の一つとして意識しながら進めていくということは多くあります。

成果指標や測定方法をどのように検討し決めるのかはもちろん私が伴走支援者として議論や検討のサポートをする部分ではあるのですが、ロジックモデル等で事業の成果について議論を深めていくと、事業・活動の成果として感じ取るべき成果指標は取捨選択するとしても非常にたくさん出てくきますので、そのすべてをワークショップの中で議論し尽くすことは簡単ではなく、団体内で継続議論が必要になることが多いです。

また、中期計画やその目標は作っただけで終わってしまったは意味がなく、実際に事業の中で測定や振り返りをどのように行っていくのかという運用面こそが重要といえますが、そこまで伴走させていただけるケースは少なく団体の皆さんで担っていただくことになります。

こうした指標や測定方法の議論、あるいはその後の測定や振り返り(評価)を組織内で誰がリードしていくのかというのが悩ましい課題になることもよくあるのですが(そしてそこが決めきれなかったり、バラバラになったりすると中期計画自体が形骸化につながる要因になる恐れがあります)、コモンビートさんでは組織図の中に「研究室」という部門があり、この辺りの議論を研究室で担当することがスムーズに決まりました。ポイント①で紹介したような事業の成果を踏まえて中期ビジョンの表現をブラッシュアップするといった柔軟で着実な運用ができていることも、事業の成果やビジョンの実現度合などを確認する専門チームがあるからこそなのではないかと感じています。

調査・研究部門の設置は、ビジョン実現力を高めたいNPOにはぜひ参考にしていただきたい点です。

⑤コモビジョンページの作成と公開

5つ目は「コモビジョン」という外部に公開する形にまでまとめ上げたことです。先にも述べた通り中期事業計画自体は必ずしも外部公開しなければならないという訳ではありません。それでも自分たちの掲げているビジョンをどのように捉え、その実現までに道のりをどのように考えているかを外部に向けてしっかりと伝えていくということは、NPOとしてはとても大切な姿勢だと感じます。

コモビジョンのページ自体の作成は、私の伴走支援が終了した後に組織内で検討・作成を進めていただいたものです。中期事業計画の議論自体をまとめ上げることも簡単ではないですが、それを外部公開できる形にまでやりきった姿勢は本当に素晴らしいなと感じます。そして、作成は大変だったと思いますが、作成したことの効果も大きなものとなっているのではないかと思います。

コモンビートさんの場合でいえば例えば事業の内容から「ミュージカルの団体」と認識される場面も少なくないと思いますが、このコモビジョンがしっかりとまとまっていること、伝える準備が整っていることによって、「何のためにミュージカルプログラムをやっているのか」といったことがプログラムの参加者にも、ミュージカルを見に来る方にもより伝わりやすくなります。そして、文脈が伝わった状態でプログラムへの参加してもらえるようになると、アウトカムや中期ビジョンにつながるような意識や行動の変容はより起こりやすくなります。ビジョンの実現力が増す、ということです。

中期事業計画とビジョンの実現力を高めたければ、外部にしっかりと公開し、宣言するというのは非常に大切なポイントだと感じます。

そして新ビジョン実現に向けた新規事業の創出へ

さて、本記事ではここまでコモンビートさんのコモビジョンを題材に中期事業計画作りのポイントについて解説してきましたが、コモンビートさんでは現在新たな事業の推進に向けてクラウドファンディングに挑戦中です。本記事をここまでお読みいただいた皆さんにはぜひ、クラウドファンディングのプロジェクトページもぜひお読みいただきたいです。なぜなら、今回クラウドファンディングで推進しようとなさっている事業自体もコモビジョンや中期事業計画につながる動きとして出てきているものだからです。

camp-fire.jp

※2023年8月15日追記

上記のクラウドファンディングについては無事に目標達成し、2023年6月30日に支援募集を終了しました。そして次の段階として、この新規事業プロジェクトを継続的なものにしていくための基盤を支えるためのマンスリーサポーター100人を募集する新たなキャンペーンが開始されています。ぜひこちらのキャンペーンも応援をお願い致します。

syncable.biz

(2023年8月15日追記ここまで)

プロジェクトの内容は詳しくはぜひプロジェクトページをご覧いただければと思いますが、コモンビートさんの中核事業であるミュージカルプログラムについて、身体障害なども含めあらゆる人にログラムへの参加や鑑賞の機会をつくっていくためのアクセシビリティを整えるための取り組みです。

すでに触れてきた通りコモビジョンの議論の過程では「ダイバーシティ&インクルージョン」の観点についての議論が多くなされていて、さまざまなマイノリティ性を持つ人の参加が保障できていないというのは重要な議論のポイントにはなっていましたが、実際にそこに踏み込む事業を立ち上げたというのは本当に素晴らしいことだなと感じます。

中期事業計画作りやその中心的なワークであったロジックモデルの議論ではビジョンと事業のつながりを確認・整理していくのですが、確認・整理をした結果としてビジョン実現のためにはまだ不足している事業や協働が必要なステークホルダーが見えてくるということは少なくありませんが、実際にその実現に向けて新たな事業の立ち上げに進んでいくというのは決して簡単なことではないと思います。

このプロジェクトの内容を伺ったときはコモビジョン策定に関わらせていただいた一人としても嬉しくなりましたし、コモンビートの皆さんを改めて尊敬しました。クラウドファンディングの成功を応援していることはもちろんですが、このプロジェクトの意義や背景についてもNPO運営に関わる皆さんに私なりの視点でお伝えしたいと思い、今回の記事を書かせていただきました。ビジョン策定や中期事業計画作り、そしてビジョンの実現度合いを高めていきたいと考える多くのNPOの皆さんの参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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