こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本日は「デジタルファンドレイジング実践6ステップ【ステップ毎のやるべきこと解説】」と題し、NPOのデジタルファンドレイジングへの取り組み状況を6つのステップに分けて解説します。デジタルファンドレイジングへのチャレンジを検討するNPOの方が、どこから、何を目標に取り組み始めれば良いのかを判断する際の参考にしていただけると幸いです。
- デジタルファンドレイジング実践6ステップ
- STEP1:2つの基本知識と目標設定
- STEP2:技術的環境の整備
- STEP3:Webマーケティング施策の企画実施
- STEP4:PDCA体制の確立
- STEP5:ファンドレイジングチームの強化
- STEP6:デジタル活用強化による成果拡大
- まとめ:自組織が「デジタル」に関してどのステップまで進みたいのかを考えるべし
デジタルファンドレイジング実践6ステップ
NPOコンサルタントとしてさまざまなテーマでのご支援を行う中で最も多くのご依頼をいただくのがファンドレイジングに関する相談です。多くの組織が事業・活動の継続、発展のための資金をどのように調達していくかを悩んでいます。ファンドレイジング戦略や実践につなげていくための具体的な計画はどのように考えれば良いのか、計画を実行に移す段階での細かな施策の検討や振り返りの体制はどのように作れば良いのか、などなど。そして、昨年から今年にかけては新型コロナウィルスの感染拡大により事業・活動やファンドレイジングの施策が例年通りに実施できず、インターネット活用を中心としたファンドレイジング戦略の確立をしなければならないが、やはり、何をどこからやれば良いのかわからず困っているというお悩みも多くお聞きしました。
そのような「何を、どこから?どこまでやれば良い?」という悩みを抱える組織の皆さまが、自組織の現在位置を確認し当面の目標として何に取り組めば良いのかのヒントになるよう、「デジタルファンドレイジング実践6ステップ」を解説します。
STEP1:2つの基本知識と目標設定
STEP2:技術的環境の整備
STEP3:Webマーケティング施策の企画実施
STEP4:PDCA体制の確立
STEP5:ファンドレイジングチームの強化
STEP6:デジタル活用強化による成果拡大
この6つのステップは私自身が多くのNPOのファンドレイジングに関わってくる中で、NPOのデジタルファンドレイジング取り組み状況・段階を6つに分けて整理したものです。私はこれまでに財政規模数十万円でファンドレイジングに始めて挑戦するという団体から、財政規模数十億円の団体に至るまでさまざまな規模の、さまざまな状況のファンドレイジングに伴走してきました。ファンドレイジングへの取り組み状況はさまざまで、組織体制のあり方も一様ではないので、もちろんすべてを画一化して捉えることはできませんが、それでも組織としてのファンドレイジングへの取り組みという点に関しては、その発展段階をある程度の共通性・再現性をもって整理できると考えており、これから解説する「デジタルファンドレイジング実践6ステップ」は私がこれまでに関わってきた多くの組織のファンドレイジング体制の進化がどのように進んでいくのか、その共通点となる部分を整理したものです。
自組織が現状どこの段階にいるのか、を見極めながら目を通していただけると幸いです。
STEP1:2つの基本知識と目標設定
概要:ファンドレイジングとWebマーケティングに関する基本的な理解があり、目標と目標達成のための指標(KPI)を決めることができる
最初のステップは「基本知識と目標設定」です。基本知識があり、その上で自組織に適切なファンドレイジングの目標設定ができるということ。
まず「基本知識」についてですがデジタルファンドレイジングというテーマに向き合うためには大きく分けて2つの基本知識が必要です。ひとつには「ファンドレイジング」、そしてもうひとつが「Webマーケティング(デジタルマーケティング)」です。先日書いた「デジタルファンドレイジングとは?新たな言葉をどう受け止めるか」でも書いた通り、デジタルファンドレイジングとはデジタルマーケティングの知見を活かしたファンドレイジングのことですので、ベースとなるWebマーケティングやデジタルマーケティングの知識が必要ですし、NPOとしてファンドレイジングに取り組むためにはファンドレイジングという考え方の基本的な視点を組織として学ぶ必要があります。
2つの分野に関する基本知識、組織としての共通認識を持った上で目標設定を行います。目標設定自体やり方や視点について話し始めると非常に長くなってしまいますので今回の記事では深く立ち入りませんが、ファンドレイジングに関する目標を設定する上で必要な要素について簡単にお伝えいたします。
- ファンドレイジング目標金額と期限(今年度◯◯万円の資金調達を行う、でも良いですができれば◯年後までに◯◯万円の財政規模となる、という立て方ができると良いです)
- 年度別、財源別の目標金額設定(寄付・会費収入でいくら、助成金収入でいくら、など)
- 特にWebマーケティングに関する指標(KPI)設定(マンスリーサポーター目標数とそのために必要なWebサイトアクセス数や集客施策に関する目標指標など)
初めて組織としてのファンドレイジングに挑戦するという状況であればこれらすべてをいきなり明確に定めることは難しいかと思いますので、ある程度は概算で数値目標を決めてしまいあとはやりながら精度を高めていくということも実際には多くありますが、本来であれば上記のようなことを時間をかけてでも組織内でしっかりと議論をするべきです。そして、これらのことを明確に決めるためにはそもそも組織として中長期で何を目指していくのか、どのような事業・活動をどの程度実施していく必要があるのかという「ビジョン・ミッション」や「中期事業計画」の明確化も必要です。「そこまで時間をかけて議論していられない」という状況が少なくないことも分かりますので、そもそも論はそこそこに次のステップに進んでいっても構いません(し、実際多くの組織が最初はそうだと思います)が、自組織には議論が不十分な部分があるということは組織内でしっかりと共通認識を持ち、いつのタイミングでその議論を行うのか、どのような状況になればその議論に向き合えるのかということまではある程度議論をしておくのが良いと思います。
STEP1クリアのためにやるべきこと例
ファンドレイジングに関する基礎知識がない → まずはファンドレイジングに関する研修を受けましょう。担当者1人だけがファンドレイジングの知識や視点を取り入れるだけではなかなか組織としての目標設定や意思決定はしにくいですので、できれば経営陣も含めたコアスタッフが全員で研修を受けるか、コンサルタントやファンドレイザーに依頼し組織内でのファンドレイジング研修会を実施して主要メンバー全員に一気に共通認識をつくることがオススメで、その上でビジョン・ミッションや中期事業計画にまで立ち戻って議論が必要なのか、それともある程度目標設定はできるので次の段階に進めれば良いのかを判断しましょう。
Webマーケティングに関する基礎知識がない → 基本的な研修の受講がオススメであることはファンドレイジングと同様ですが、取り急ぎWeb施策に関しては担当者1人だけで進めるという場合にはその担当者の方がお一人で各種研修を受講することや書籍等でスキルトレーニングを行うことも有効です。
STEP2:技術的環境の整備
概要:基本的な指標を計測するための技術的な環境が整っている(ツール導入・設定)
続いてのステップは「技術的環境の整備」です。ファンドレイジングに関する基本的なツール、システムと、Web上の指標を計測するためのツールや必要な設定を完了し、STEP1で検討した目標や指標の現状や進捗を確認できるようにする段階です。この段階に対する理解が不十分なことが、NPOだけでなく中間支援などの支援者の側にも多いように感じています。技術環境やそのトレンドはどんどんと変わっていきますし、専門度合いも高い分野ですので、NPO内の担当者がすべてを勉強してついていくというよりは専門家への依頼・委託を考えた方が早く、安く済む場合が多いです。
以下にごく基本的なシステム・ツールについて記載しました。導入していないものや読んでも理解できないものがあれば専門家への相談をオススメします。
ファンドレイジングに関する基本的なシステム
- 決済システム(簡易に登録できる「寄付プラットフォーム」か「決済システム」かをメリット・デメリットを理解した上で選択し導入する)
- 決済システム上で必要な寄付メニューを作成することができている
- 顧客管理システム(最初期では不要なことも。使いこなすのが難しい場合もあるのである程度ファンドレイジングを実践してから選んでも良い)
Webマーケティングとその計測に関するツール・システムとその設定
- スマートフォン対応したWebサイト
- GoogleAnalyticsの導入
- 「寄付決済」など必要な指標をGoogleAnalytics上で確認できるよう「目標設定」する
- GoogleSearchConsoleの導入
- GoogleTagManager(最初期には不要なこともあるが、早めに導入しておく方が便利。導入している決済システムによっては「目標設定」のために必須となる)
STEP2クリアのためにやるべきこと例
計測すべき指標(KPI)を明確にし、計測のためのツールの設定やツール・システム同士の連携を行うことが必要です。利用している決済システムや取得したい指標によっては、GoogleAnalyticsの管理画面上だけでは設定ができずHTMLソースを編集することや、JavaScript等のプログラミング言語の知識が必要になることもあるためWebエンジニアやエンジニアリングスキルも持ったファンドレイザーに相談することがオススメです。
STEP3:Webマーケティング施策の企画実施
概要:目標を達成するために必要なWebマーケティング施策を立案し、実行できる
三つ目のステップは「Webマーケティング施策の企画実施」です。目標を立て、目標の進捗をしっかり計測できる状況になれば次は実際に目標に近づくための施策を考え、実行するということです。
この段階で実施する企画は組織の特色や強み、活動の中で培ってきたステークホルダーによってさまざまですが、具体的には例えば「各種SNSの活用」「メールマガジンなどメールマーケティングの実施」「ブログなどその他オウンドメディアの活用」といった各種Webマーケティング施策の他、「寄付キャンペーンの企画」「寄付者向け説明会などイベント企画」といったNPOならではの施策や、オンラインとオフラインを組み合わせるようなもあります。年間のファンドレイジング目標を達成するために、いつどのような施策を実施するのか、どの程度の施策を実施すれば目標が達成できるのかを考えられるようになることと、それぞれの施策でどの程度目標に近づけるか(いくらぐらい集められるか)の試算ができるようになることが求められます。
STEP3クリアのためにやるべきこと例
「ファンドレイジング戦略立案」など目標金額と施策案までをセットで検討することのできるコンサルティングを受けることがオススメです(例えば私の場合、全3〜6回程度のワークショップやコンサルセッションからなる支援計画をお作りすることが多いです)。あるいはお知り合いの組織でファンドレイジングに組織的に取り組んでいらっしゃる先輩NPOがいれば、その組織の方にアドバイスを求めることも良いでしょう。
STEP4:PDCA体制の確立
概要:実行した施策の分析・改善を継続的に行う体制が確立できている
四つ目のステップは「PDCA体制の確立」、つまり施策を企画・実施したならしっかりと振り返りを行い、改善すること、そして実行と改善を繰り返していくことが必要ということです。
クラウドファンディングの実施経験など、インターネット上でのファンドレイジングのチャレンジ経験は持っているが、なかなか組織として継続的にファンドレイジングを実施する体制にはなれていないという組織も少なくありません。組織としてファンドレイジングを続けていくためには、組織内の定常的な活動の中にファンドレイジングを取り入れていくことが必要ですし、少しずつファンドレイジング成果を伸ばしていくために取り組んだ施策のうまくいった点/うまくいかなかった点を振り返り、改善する視点・文化を取り入れることが必要です。具体的には「ファンドレイジング会議」のようなファンドレイジング戦略・計画の進捗を確認し、目標達成のためのアイディアを話し合う機会をつくり、適切に機能させていくことを目指しましょう。
このSTEP4までをクリアすることができれば、組織として継続的にファンドレイジングに取り組むことができている状態といえます。これからファンドレイジングに力を入れていきたい組織の方はまずはSTEP4までを目指せると良いですね。また、この段階で自組織ならではのデジタル施策、つまりデータ活用の仕方を基本的な施策実施の中に組み込めていることが理想です。”デジタル”な施策の視点をどのように考えるかについては先日書いた「NPOでも対応するべきデジタルマーケティング5つの特徴」をまずは読んでみてください。
STEP4クリアのためにやるべきこと例
組織内で適切にPDCAを回してファンドレイジング力を高めていくためにはファンドレイジングに関する「伴走支援コンサルティング」を受けることがオススメです。組織内で自走できるファンドレイジングチームや文化を確立するためには、施策実施→分析・振り返り→改善策の実施→分析・振り返り→再目標設定→施策実施→…、といったサイクルを一定期間以上続けることが最も有効です。私自身の支援経験では最低でも半年、できれば1〜2年程度の伴走支援を受けていただくとしっかりとしたチームや組織文化が定着することが多いと感じます。
STEP5:ファンドレイジングチームの強化
概要:施策実施の「質」「スピード」と「規模」を増していくための適切なチーム体制を描き構築することができる
STEP5とSTEP6は応用編です。組織としてどのようにファンドレイジングに取り組みたいか、どのようなファンドレイジング組織を作っていきたいかによって、STEP5に特に力を入れる場合もあれば、STEP5を飛ばしてSTEP6にチャレンジする場合もどちらも考えられます。
まずSTEP5は「ファンドレイジングチームの強化」、つまり自組織内に力強いファンドレイジングチームを育てていきたい場合に力を入れるステップです。STEP4までである程度継続的なファンドレイジングには取り組めている状態ですので、その段階まで来ると、自組織のファンドレイジングの強みや特に注力するべき施策などが明確になっているはずです。その強みを伸ばしたり、あるいは弱みとなっている部分を補うためにチームを鍛える段階です。
例えば、「Webマーケティングの施策の精度や分析力を高めるために企業等でWebマーケティングの実務経験を豊富に持つ人材を雇用する」「Webマーケティング施策の実施スピードを上げるためにプロボノ・インターンを採用し、施策の取り組み数を増やす」「マーケティングオートメーションツールを導入して施策実施の自動化を進める」といった形です。ファンドレイジング戦略と組織戦略をあわせて検討することが必要です。
STEP5クリアのためにやるべきこと例
どのような施策が自組織の勝ちパターンなのか、何を強化していきたいかによって目指すべきチーム体制はまったく変わってきます。目指すべきチーム体制が明確になっていれば、その目標目指して「新規採用」や「外部委託」「自動化(のためのシステム導入など)」を進める必要があります。チーム体制の方向性をしっかりと描くところから取り組むことが課題となっているようであればデジタルマーケティング施策やあるいは組織開発の分野に明るい方に相談を行うようにしましょう。
STEP6:デジタル活用強化による成果拡大
概要:広告へのチャレンジなど施策の幅を広め、ファンドレイジングの成果をさらに高めていくことができる
最後の六つ目のステップは「デジタル活用強化による成果拡大」です。例えば「インターネット広告へのチャレンジ」や「ヒートマップ分析、Webテスト実施などによるWebページ改善」「継続率(退会率)向上など既存寄付者との関係強化に関する指標設定と施策の開発」といった形です。施策の種類にもよりますが、より深くデータを分析することやより専門性の高い施策に取り組むことが必要となります。自組織内の特定のスタッフが専門性を高めるためのトレーニングを受けるなどしても良いですが、デジタルマーケティングに関する施策は専門性が高くトレーニングに時間やコストがかかりやすかったり、施策のトレンドが次々と変化していくことも多いため、他業務との兼務をしているNPO職員ではスキルトレーニングが追いつきにくい場合もあります。そのような場合には、外部の専門家に委託をすることも有効です。例えばインターネット広告のチャレンジをする際に「広告代理店に入ってもらい広告戦略の企画や広告運用に関してアドバイスを得る」といった形です。将来的に自組織に取り込むべき専門性がどこまでで、どこからは外部リソースをうまく活用した方が良いのかを検討しながら選択できるようになりましょう。
STEP6クリアのためにやるべきこと例
取り組みたい施策分野の専門家や専門組織(広告であれば代理店や広告に強いWebマーケッター、ランディングページ等の改善であればWebディレクターやコンバージョン改善に強いWebデザイナーの方など)に相談することがオススメです。その際、将来的にそれらの専門性を組織に取り込むことを想定しているのであれば組織内の担当者へのトレーニングなども合わせて行ってもらえるかどうかなども確認しながら依頼先を選定できると良いかもしれません。
まとめ:自組織が「デジタル」に関してどのステップまで進みたいのかを考えるべし
いかがでしたでしょうか。デジタルファンドレイジング実践6つのステップと題し、6段階に分けて施策の取組状況や次にやるべきことを整理してみました。まずは6つのステップの概要と自組織が現状どの段階にいるのかを理解していただければ幸いです。その上で考えるべきことは「どこまでやるべきか」と「いつぐらいまでにやるべきか」です。「どこまでやるべきか」という点について特に意識していただきたいのは、必ずしも全6ステップすべてをクリアしなくても良いということです。デジタルファンドレイジングやその前提となるデジタルマーケティングは施策の内容によっては非常に専門性が高くなります。使いこなせば成果は出やすいですが、求められる知識量が多くなりますし、コストやデータの量(≒ファンドレイジング実績)がそれなりに必要になることも少なくありません。そこまでのファンドレイジング規模が必要ではない場合もきっとあります。
「デジタル」という新たな言葉が登場し、上を見れば最先端の施策にどんどんと取り組んでいる組織が増えていることに焦ってしまう場合もあると思いますが、焦ってもなかなか成果は出にくいですので、落ち着いて腰を落ち着けてしっかりとファンドレイジングに取り組んでいきましょう。どこまで、どのように取り組んでいけば良いのか悩んでしまう場合にはご相談に乗れますのでお気軽にご相談いただければと思います。