堤大介のブログ - 朝ぼらけタイガー

NPOなど公益組織のコンサルタント。NPO関連の話題の他、読んだ本のレビューなどを書きます。

レビュー : 『ファンベース』NPOマーケティングの楽しさと可能性を強烈に再認識できる本

ワタクシ、好きな本を見つけるといろいろオススメてして歩く癖を持っております。ここ最近書評自体はすっかりご無沙汰になってしまっていましたが、本は読み続けていますし、リアルで会った方たちと本の話をする機会があればすかさず本をオススメして生活しております。そんな私がここ最近、NPO界隈で人に会ったときに一番オススメする機会の多かった本。

 

ファンベース (ちくま新書)

ファンベース (ちくま新書)

 

 

(私の持つオススメ癖のことも含め)ファンとは何ぞやということや、ファンを大切にすることはどんな意味を持つのか、ファンとどう接すれば良いのか、などなどファンについて書かれたさとなおさん(著者の佐藤尚之さんの愛称です)の新刊です。

 

すでにいっぱい良いレビューはあるので今更私が書くことはあまりないのですが、NPO界隈の人たちにはもっともっと読んで欲しいと思っておりますので、この本で語られる「ファンベース」をNPO文脈から少し書いてみたいと思います。

 

NPOに関わる人に読んでもらえると嬉しい本です。
特に、ファンドレイジングを始めとするマーケティングに関わる人は必読!

 

ファンベースとは - ファンとは何か、ファンに向けた施策とは何か

タイトルからも分かるようにこの本は「ファン」について書かれた本です。
では、この本がいうファンとはそもそも何か。著者のさとなおさんは次のように定義します。

 

ファンとは「企業やブランド、商品が大切にしている『価値』を支持している人」

 

さらに、こうも言っております。

 

(単に現在の「価値」を支持しているというだけでなく)その延長線上にある、もっといい「未来の価値」にも強く期待しているし、それを企業と一緒に夢見たいと思っている

 

ファンとはそのような存在であると。


では、NPOが提供する「価値」とは何でしょうか。

 

事業を行いサービスや商品を提供するという意味では企業もNPOも変わりませんから、その価値はいろいろです。文脈によりいろいろな価値を提供していると思いますが、特にNPO的に大事にしなければいけない部分としてはまず何よりNPO活動が目指す社会的な成果、つまり社会課題の解決はNPOに期待される社会的な価値でしょう。ファンが期待する「未来の価値」とは、事業を通じて社会課題が解決された状態、のことだといえます。NPOとそのファンの関係はその未来の社会や地域の状態に対しての共感から生まれているものである、ということです。

 

NPOの世界でよく使われる言葉遣いに直せば、これはつまり「ビジョンへの共感」です。各NPOが描くビジョンに共感し、一緒に夢を見てくれるのがファンであるということ。

 

自分たちが「作りたい未来への共感」。それを示してくださっているのがファンであると。NPOに関わっている人であれば実感をもってイメージできるのではないでしょうか。

 

本書はそんな「ファン」に支えられるということを「ベースに」事業を作っていきましょう、ということが書かれています。

 

NPOの「顧客」とは

『ファンベース』の細かい内容に入る前に一点だけ。NPOの顧客について。

 

「ファン」とは顧客の中の一部、特に共感度が高く提供する価値を感じ取ってくれる人のことを言いますが、一般企業とNPOでは顧客の意味合いが異なります。

 

企業の場合、顧客とは商品やサービスの書い手のことを指します。そして商品やサービスを提供する対価をいただくことでビジネスが成り立ちます。


一方でNPOの場合、商品やサービス、事業・活動の対象となる受益者も顧客ですが、それだけでなく寄付者やボランティアといったNPOを支える立場の「支援者」という関わり方の顧客がいます。つまり顧客が2種類いるということ。

 

これはNPOが行う事業ではサービスの提供を行う受益者に対価を支払う能力がない場合もあり(社会的弱者を対象とした活動など)、この場合に事業の継続を支えるための「支援者」という存在が必要になるためです。そのためマーケティングも受益者向けのものと支援者向けのもの2つに分けて考える必要があります。

 

本書で扱われるファンベースの概念は受益者向けマーケティング、支援者向けマーケティングどちらにも適用することができると思いますが、どちらかというと、まずは支援者向けのマーケティング、つまり寄付者やボランティア向けのマーケティングであるファンドレイジングに適用して考えた方が分かりやすいと思います。

 

特に寄付型のNPOの場合、事業の成り立ち自体が支援者=ファンによって支えられているという点が非常に明確です。つまりNPOはファンベースのビジネスそのものである、ということ。

 

ファンの増加はビジョン実現に近づくことそのもの

先ほどNPOが提供する価値は掲げているビジョン=作りたい未来の社会の中にあると書きました。ではビジョンが実現している状態とはどのような状態なのか、どうなっていけばそのような理想の未来の社会に近づいていくのか。


取り組んでいる社会課題によってそのロードマップは様々だと思いますが、少なくとも一つ言えることはそれは多くの方が賛同してくれて初めて実現するということ。

 

誰も賛同してくれない、共感してくれないビジョンが実現するわけはありません。
逆に、賛同者・共感者が増えるということ、仲間が増えるということ、ファンが増えるということはそれ自体が実現したい未来の社会に近づくことそのものだといえます

 

ですので、支援者、つまり寄付者やボランティアに支援してもらうということはビジョンに共感した仲間になってもらうということであり、ファンドレイジング(狭義には寄付等による資金調達、広義にはボランティア等比金銭的支援や人材も含めたリソース調達全般)はビジョン実現のための仲間集め、ファン集めの活動であるということです。

 

「ファンを増やしたい」と言うその前に

普段、そのような意識でファンドレイジングができているでしょうか?

そこまでの意識をもって寄付の必要性を伝えたり、ファンになって欲しい、仲間になって欲しいと言えているでしょうか?

 

そして、寄付やボランティアなどの支援をしてくれる仲間になってくれた方に対してはどのような関わりをしているでしょうか?


ファンとして丁寧に扱うことができていますか?そもそも自分たちのファンをどのように丁寧に扱いたいかということを考えることができていますか?

 

今いるファンを大切にできていないにも関わらず、新しいファン(支援者)をもっと見つけないと!と言っていませんか?

 

本書はこうした点に対して大きな示唆を与えてくれます。例えばファンを大切にできているか?という点に対しては次のような表現でその問題点を指摘しています。

 

デートで情熱的に口説いてきたのに、そのあと会話もお誘いもしてこないヤツ!

 

皆さんの団体はそのような「ヤツ」にはなっていないでしょうか。

 

ファンと会話する手段はありますか?
会話の前にまず自分の近況を伝えていますか?
年次報告書やニュースレター、あるいはメールマガジン、LINE、SNS等を使った実績や成果の報告はどの程度できているでしょうか。

 

できている皆さんは、今度は「会話」をする機会や方法があるか、考えてみてください。


ファンの声を聞く場はあるだろうか。支援をしてくれているファンがいま何を考えているか、皆さんのことをどう思っているか、ちゃんと把握できているだろうか?

 

釣った魚に餌をやらないようなヤツになっていないでしょうか。

 

クレジットカードや銀行の自動引き落としで毎月、あるいは毎年寄付を行ってくれるサポーターは非常に心強い存在です。事業の安定性的にも。ビジネスの経済的な成功の鍵は顧客にいかに継続的に購入してもらうかであり、この意味で継続課金の仕組みや商材を持っているビジネスは非常に強いです。だから経済的観念だけで突き走っているサービスは退会の方法が分かりにくかったり、めんどうだったりするのです。お金を払い続けてくれる顧客が一人でも多く欲しいから。

 

でも、そんなことをしたくて継続寄付の仕組みを用意しているわけではないですよね。
自団体に、そして自団体が取り組んでいる社会課題に継続的に関心を持ってもらうために、一緒に解決していくという気持ちを表明してもらうためにその仕組みを作っているのだと思います。だとしたら、ちゃんとその心強いファンにしっかりと向き合いましょう。ファンとの関係を育てていきましょう。

 

著者はこんな風にいっています。

 

関係を進展させ、好きになってもらうためには、デートのあとが大切

 

皆さんの団体とファンとのデートはどのようなコースがあるでしょうか。

 

寄付者として参加してくださった方とより関係を深めていくためのデートコース、つまり寄付者の方がもう一歩、もう一歩と団体と関係を深めていく機会や方法はあるでしょうか。


例えば単に金銭的な寄付だけでなく、時間ができたときにボランティアに参加してもらうとか(そのための案内ができているか)、寄付者や会員限定のイベントに参加してもらうとか(きちんと招待できているか)、どんなルートがあるでしょうか。そのルートは一人ひとりに合わせたものになっているでしょうか。寄付者やボランティアなどの支援者がより社会参加をするためのしかけ、工夫をきちんと用意できているでしょうか。

 

そういうことを、ちゃんと考えていきましょう。

 

考えてないのに、考えるつもりもないのに、ファンドレイジングしたいなんて軽々しく言わないでください。

 

ファンベースを強化するキーワード

本書に書かれている『ファンベース』の考え方を表すキーワードを紹介します。

 

「共感」を強くする(P102)

 A ファンの言葉を傾聴し、フォーカスする
 B ファンであることに自信をもってもらおう
 C ファンを喜ばせる。新規顧客より優先する

 

「愛着」を強くする(P125)

 D 商品にストーリーやドラマを纏わせる
 E ファンとの日常的な接点を大切にし、改善する
 F ファンが参加できる場を増やし、活気づける

 

「信頼」を強くする(P147)

 G それは誠実なやり方か、自分に問いかける
 H 本業を細部まで見せ、丁寧に紹介する
 I 社員の信頼を大切にし「最強のファン」にする

 

「共感」→「熱狂」される存在になる(P176)

 J 大切にしている価値をより前面に出す
 K 「身内」として扱い、共に価値を上げていく

 

「愛着」→「無二」の存在になる(P190)

 L 忘れられない体験や感動を作る
 M コアファンと共創する

 

「信頼」→「応援」される存在になる(P207)

 N 人間をもっと見せる。等身大の発言を増やす
 O ソーシャルグッドを追求する。ファンの役に立つ

 

それぞれ本文も読みながら私は「そう、それだそれ!」ともう痛くなるほどに膝を打ちまくりながら読んでいたのですが、こうして項目を並べただけでもワクワクしてくるNPO関係者も多いのではないでしょうか。ファンドレイジングにおいて自分がやっているのは、やりたいのはまさにそういうことだ、と。

 

ファンベースのキーワードをNPO文脈で捉え直す

上述したファンベースの考え方はどの項目もファンドレイジングにおいても大切にしたい考え方ばかりです。なので、ファンドレイジングに関わる皆さんは本当にとにかく本書を読んでみてほしいのですが、もう少し分かりやすくするために、上記のキーワードをNPO文脈で噛み砕いたり組み合わせるとどういうことなのか、考えるべきポイントをいくつか提示してみたいと思います。

 

支援者の共感ポイントを把握できているか?

あなたの団体に寄付者やボランティアがいたとして。その方たちはきっとあなたの団体に対して共感して支援をしてくれています。ではその共感とは具体的に何に共感してくれているのかと聞かれて説明できるだろうか。活動内容や受益者への共感、それは間違いなくあります。ただ、それだけではない。NPOへの支援という行動の裏側にはもっとたくさんの思いがあります。


例えば単に活動や団体への共感ということよりもむしろ「代表者への共感」で成り立つNPOは意外とたくさんあります。とある団体の代表の方の講演にいって参加者の方とお話をしてみたら、その代表の講演をすでに10回以上聞いている、という方にお会いしたことがあります。話の内容も変わるとはいえ10回はすごい。歌手のLIVEと似たような感覚なのかもしれません。

 

また、色々な団体さんで寄付者の方へのインタビューを行っていると、支援者の方たちはなぜその団体を支援をしているのかについて色々お話してくださるのですが、寄付の理由は思っている以上に細かったり、深かったりする。10年前のとある講演でスタッフのAさんが◯◯という発言をしていたことに共感をしたとか、◯◯の事件があったときに新聞に寄稿していた記事が印象に残っているといった広報活動をピンポイントで覚えていてくださることもある。そしてその言葉の中には自分たちが思ってもみなかったポイントで共感していることもあるし、さらになぜその共感に至ったのかという点まで掘り下げると本当に千差万別です。直接支援者の方に声を聞いてみるしかありません。なぜなら一人ひとりの経験、大げさに言えば(大げさでもないけれど)人生と、NPOの何かしらが触れ合った結果として共感という感情や寄付なりボランティアという行動にいたっているからです。

 

一人ひとり理由やきっかけが違うのだったら、それ以上考えても仕方ないと思ってはいけません。自分たちが伝えたいと思っていることがきちんと伝わっているのか。伝わっていないのだとしたらそれを伝えるにはどうすれば良いのか考えなければなりません。そして自分たちが考えていなかった意外なところで価値を感じてくれているのであれば、それを強化したり、より伝えていく方法を考えましょう。広報の見直しの非常に良い機会になります。自分たちのファンにささる言葉遣いはどんなものだろうか。伝え方はインターネットを使うのが良いのか、チラシやDMなど紙を使うのが良いのか、対面のイベントが良いのか。

 

そして、同時に大事なのが「何に共感しているのか?」の把握を特定の支援者と団体の関係だけで終わらせてしまうのではなく、支援者同士で支援の理由を可視化したり表明したりする機会を作ること。本書では「ファンはその商品やサービスのファンであることに自信がないからその背中を押してあげることが重要」ということが書かれていますが、NPOの支援なんてもうその極地みたいなものです。特に日本ではまだ寄付を公にしないという場合も多く、他の寄付者がどのような思いで支援をしているのかに触れる機会はとても少ないので、ぜひ考えて欲しい。報告書やHPに寄付者の声を載せて公開することもできますし、会員限定のコンテンツとしてインタビューなどを載せるというのも良いですし、対面のイベント等を企画するという場合もあります。どういうものが嬉しいのかも、直接支援者との対話の中から作り上げることができると最高です。

 

自分たちの活動のストーリーを持っているか?

ストーリーにもいろいろな形がありますが、まず多くのNPOが持っているはずなのに可視化されていないことが多いのが団体立ち上げストーリー。活動を立ち上げたのは何故だったのか、立ち上げにはどんな苦労があったのか、というお話。どの団体にも必ずあるストーリーですし、団体への共感の根幹をなす場合も多いのに、しっかりと公開されておらず、一部の関係者しかそれを知らないということも多い。もったいなさすぎます。HPで、報告書で、説明会で、いろいろな場で話しましょう。

 

例えばとある団体では新規のメールマガジン読者に定期的な通常号を送り始める前に、ステップメールで団体の立ち上げストーリーを代表の言葉で4回に渡って送っています。いま行っている活動や目指しているビジョンがどのような経緯で生まれたものなのかきちんと伝えてある程度の共通言語、共通認識を作った上で通常の活動報告等の情報発信を行うということ。支援者の方が団体と接点を持つタイミングはバラバラです。どのようなタイミング、方法で自分たちのストーリーを伝えることができるとその後の情報発信が伝わりやすくなりそうか考えてみると良いと思います。

 

その他にもしっかりとストーリーで伝えるべき部分はたくさんあります。

 

 受益者ストーリー:自分たちの活動により困難を抱えた受益者はどのように前へと進んでいくことができるのか
 ビジョンストーリー:ビジョン実現という未来に向かってどのように進んでいくのか。ファンにどのように関わって欲しいのか

 

こうしたものをきちんと整理しておくと、伝わりやすくなりますし、さらに口コミやシェア等でさらに拡散してもらいやすくなります。

 

職員の顔や考えを見せることができているか?

FacebookTwitterでの情報発信でただひたすら寄付のお願いを続けたり、淡々と「活動しました」と写真を上げ続けるだけの投稿になっていないでしょうか。「発信するネタがない」という悩みをよく聞きますが、ネタはいくらでも作ることができます。まず自分たちが高級なネタであるという自覚を持ちましょうNPOの支援者にとって、NPOで働くスタッフは「すごい存在」であることが多いです。自分には時間や、熱意、専門性などいろいろなものが足りなくて職員にまではなれない、という理由で支援をしてくださっている方はけっこういます。その人たちにとって、スタッフが日々どのように考え、仕事をしているのかというのはとても魅力のあるコンテンツになるのです。


会議の風景のような地味なものであっても、そこに職員の正直な気持ちや真剣な気持ちが表れていれば伝わります。代表やスタッフが書く活動に関してのコラムなどは非常に強力なコンテンツです。NPOのスタッフは活動分野について専門知識を持っていることも多いので、その知見はコラムという形であっても専門性のある独自コンテンツとしてSEO効果も高くなりやすいです。ニュースレターや年次報告書でも職員の声は人気のあるコーナーだったりしますし、SNSでもたまに投稿するオフィスでのランチ風景にたくさんの反応があるというケースもあります。そればっかりになってしまっては本末転倒ですが、裏側的な情報を求める支援者は少なくありません。SNS毎の特性など媒体の特徴も見ながらですが、自団体の場合どのような形で自分たち自身を見せていくことができるのか考えてみましょう。


他にもいくつもあるのですが、あまり長くなってもしょうがないのでこの辺で。

 

以上。

すごく長くなってしまいましたが、NPOマーケティングに関わる人にとっては非常にワクワクする本だと思います。書かれていることのほとんどが自分が普段ファンドレイジングを始めとしたNPOマーケティングで大切にしている/大切にしたいポイントであり、あぁ自分の仕事はなんてワクワクする仕事だろうかとその楽しさや可能性を感じ直すことのできる本です。

 

 

ファンベース (ちくま新書)

ファンベース (ちくま新書)