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新世代寄付サービス5つの特徴はファンドレイジングの未来をつくるのか①

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新世代寄付サービス5つの特徴はファンドレイジングの未来をつくるのか①

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では、「新世代寄付サービス5つの特徴はファンドレイジングの未来をつくるのか」と題し、前回の記事でご紹介した6つの寄付サービスに共通する特徴について分析してみたいと思います。

 

6つの新寄付サービスから見えてくる共通する特徴

前回の記事では「キーワードは共感から応援へ?スマホで気軽な新世代の寄付サービス6選」と題し、2020年以降にリリースされた6つの新しい寄付サービスそれぞれの特徴を紹介しました。今回は、6つのサービスを見てくる中で感じた共通した特徴や傾向について検討していきます。また、それらの傾向がファンドレイジング全体にとってどのような意味を持つのかについても考えてみたいと思います。

まだお読みいただいていない方はぜひ先に前回の記事をお読みいただければと思いますが、前回ご紹介したサービスは以下の6つでした。

エイドル
Pay it Forward Project(ペイフォワードプロジェクト)
solio
メルカリ寄付
1TAP SAVE LIFE
オトナリ

これらのサービスに共通する特徴を5つの観点でまとめてみました。

  1. 若者向け
  2. 少額・気軽
  3. スマホ特化
  4. 応援・感謝
  5. 可視化・シェア

5つの特徴について順に解説していきます。

特徴①若者向け

まずひとつ目の特徴は「若者向け」という点です。特にこの点を全面に出してデザインされているのが「エイドル」「ペイフォワードプロジェクト」で、この2サービスについてはリリース時のプレスリリースの中でも主に若者世代向けのサービスであることを謳っています。

Z世代の課題意識の醸成
10代20代の方々にとってNPOへの支援は一般的ではありません。一方、どこにお金を使うかは価値観の表明でもあります。Z世代がNPO支援を当たり前のものとしていくことで、社会課題意識と主体的な意思を持つきっかけを作ります。

(エイドルのプレスリリース「たった50円から社会課題解決のためのNPOサブスク支援ができるアプリ「エイドル」掲載11団体とリリース日決定のお知らせ」より)

事業開始の背景
 社会貢献意識の高まりから、寄付市場が拡大し、Z世代やミレニアル世代を中心とした若年層においては、クラウドファンディングや応援消費といった新しいお金の使い方が広がりつつあります。
 一方で、日本の寄付市場は諸外国と比較すると小さく、また寄付者の年代が高年齢層に偏っていると いう現状があります。こうした状況を踏まえ、若年層にとっても、寄付がより身近なものになるよう、ユーザー 同士のつながりを形成する新しい寄付サービスを開発しました。

(Pay it Forward Projectのプレスリリース「クレディセゾン子会社のオムニバス、若年層を対象とした寄付プラットフォーム「Pay it Forward Project®️」提供開始」より)

他のサービスは明確に若年層向けを謳っている訳ではありませんが、他に合わせ持つ特徴やデザイン等からいずれも比較的若年層を意識していると言えるように感じています。(メルカリについてはコロナ禍以降50代以上のユーザー割合が高まり年代別の利用者割合は同じ位であるという調査もありますが、そもそも世代間で人口の母数が異なるので若者世代の方が利用率は高いということは少なくとも確かかと認識しています)

ミレニアル世代やZ世代などは上の世代に比べて社会貢献意欲や高いといった言説はアンケート調査なども含めてよく見られますが(私自身もミレニアル世代ですが、ソーシャルセクターに浸かり過ぎていて世代的な感覚はよくわからなくなっています)、両世代はデジタルネイティブ(インターネット普及以降に育った)世代でもあります。そして、このデジタルネイティブな若者世代を主なユーザーとして想定していることが以下に紹介する他の特徴にも影響してきます。

特徴②少額・気軽

2つ目の特徴は「少額・気軽」です。

寄付に慣れていない方やNPOに詳しくない方にとって、寄付という行為のハードルは決して低くありません。少額から始められることや気軽にできることを表現することはファンドレイジング、寄付マーケティングの業界では長くあれこれと工夫されてきたことで、例えばマンスリーサポーターなどの月額の寄付について「1日あたり33円」などと負担感を小さく見せる表現をとったり、古本の買取寄付など金銭的な負担なく関わり始めるきっかけを提供するなど多くの方法があります。もちろん従来採られてきた表現や手法は今でも効果的ですが、新世代の寄付サービスは「少額・気軽」という側面をギリギリまで押し進めていると感じます。

少額という点が際立つのは「エイドル(50円〜)」「メルカリ寄付(1円〜)」「オトナリ(100円〜)」です。メルカリ寄付はサービス体験としては企業ポイントの寄付にも通じる部分があるので1円から使えるという感覚自体はわかりますが、エイドルの月額寄付50円はなかなか斬新でした。団体が直接寄付者を募る場合にマンスリーサポーターを50円からにしてしまっては管理コストの方が大きくなってしまうでしょう。エイドルにしろ、単発寄付のメルカリ寄付・オトナリにしろ一回の寄付あるいは一人の寄付者を得ることやその金額よりも、そこに生まれる寄付体験やその後の寄付者との関係やそこから広がっていく最終的なインパクトの大きさに期待した設計といえます。

一方の気軽さについてですが、紹介している6つのサービスはそれぞれUI・UXは工夫してありいずれも残念ながら低すぎる寄付業界の平均レベルから考えれば圧倒的に気軽(「1TAP SAVE LIFE」なんてサービス名からして究極に気軽・手軽です)なのですが、単純な手間という話以外にも着目すべき面白さがあります。

solioではユーザーが選ぶのは「支援したい社会課題のジャンルだけ」ということで「寄付する団体を選ぶのが難しい」という悩みを解決しています。

1TAP SAVE LIFEで気軽になっているのは支援するまで(1タップ)もそうなのですが、むしろ寄付した後の「報告」の気軽さという点が注目に値します。1TAP SAVE LIFEではどの子どもを支援するかを事前に寄付者が選び、その後もその子の治療の状況や病院の様子などを継続的にフォローすることができるようになります。自分の寄付が何に使われたのか、役に立ったのか知りたいという寄付者の声にどう応えるか(あるいはNPOとしていかにそうした点に関心を持ち続けてもらうか)は寄付者コミュニケーションとして大きな課題の一つですが、そこを全体のデザインで飛び越えていこうという狙いになっています。全体的に評価がわかれそうなデザインだなと感じるのですが、どのように感じるでしょうか。

ペイフォワードプロジェクトについてはまた違った気軽さを演出しています。そのコンセプトは「友人・知人へのお礼を寄付に代える新しい寄付プラットフォーム」です。いつ、何のために寄付するのかという寄付の文脈自体を気軽なものに作り変えていこうという狙いです。大きくは少しずつ知名度が広がっているバースデードネーションなどのP2P寄付の文脈を汲むものとして捉えることができますが、starbucks等のeギフトを気軽に贈る文化や、アーティストやクリエイターへのオンライン上での投げ銭文化など非営利セクター以外での文脈も合わせたような発想に感じるところが面白いですね。

若干気になるのは主に若者世代を主要ユーザーと想定している寄付サービスがいずれも少額を謳っていることの背景です。基本的にはデジタル技術や決済システムの発展により少額の決済からでも利益を出せる目処が立ってきたということだと思う(寄付に限らず個人投資等のFinTech系のサービスで先んじてこの流れがあります)のですが、若年層の貧困化が進んでおり少額からでも寄付できるのではなく少額ではないと寄付できないという状態を表しているのではないか、という穿った見方もできます。寄付業界全体としては主に高齢者層を想定した遺贈寄付の拡大が模索されているのとは対象的なこの傾向を、皆さんはどのように捉えるでしょうか。

特徴③スマホ特化

3つ目の特徴は「スマホ特化」です。これは文字通りですし、記事が長くなってきましたので簡潔に述べます。若者層を狙って、気軽に寄付をしてもらうサービスとしてスマートフォンから操作するものであるというのはある意味当たり前の話です。これは特別に若者層向けにサービスやWebサイトを作っているわけでなくとも、寄付の話でなくても、個人の利用や閲覧を想定している場合にはほとんど全年代的にスマホファーストで考えるべきです(もちろん実際にアクセス解析しながら判断した方が良いのは当然ですが)が、特に「エイドル」「Pay it Forward Project」「メルカリ寄付」「1TAP SAVE LIFE」についてはそのサービスがスマートフォンのネイティブアプリとして提供されており、単に表示をスマホ対応させるという意味を超えてスマートフォンに特化していると言うことができます(ネイティブアプリではないsolio、オトナリについてもレスポンシブデザインでスマホにも対応している、という訳ではなく基本的にスマホのみを意識したデザインとなっています)

特徴④応援・感謝

4つ目の特徴は「応援・感謝」です。

これは特に面白いなと感じた点です。個別のサービスをそれぞれがリリースされたタイミングで見ていたときにはそれ程強く意識しなかったのですが、今回複数のサービスをまとめて見直して見る中で改めて感じました。

ファンドレイジングにおいて重要だと言われるキーワードに「共感」があります。社会課題で厳しさや辛さを感じている当事者へ、あるいは団体が取り組む社会課題の解決のための活動・事業や団体が目指すビジョンに対して共感をして欲しいという呼びかけです。これはファンドレイジングやNPOの広報においてはある意味前提のようなものでもあり、今回ご紹介したサービスも当然寄付者の共感という点は押さえています。

私が新世代の寄付サービスから感じた「応援・感謝」というのは「共感」という感情から具体的な行動へと一歩踏み出すことを求める感覚だったり、当事者と並び一緒に立ったり歩いたりという形で寄付者の立つ位置やスタンスが変わっているという印象を受けたことをまとめた表現です。

例えばフローレンスさんのオトナリでは、プレスリリース文において

ユーザーが自分で課題を選択することで、その課題の解決に投資する感覚で寄付することができる仕組みになっています。

という表現がなされています。フローレンスの駒崎さんには『「社会を変える」お金の使い方――投票としての寄付 投資としての寄付』という著作があり、以前から寄付という行為が自分自身も社会課題の解決というアクションを行う仲間に加わることであるということを訴えていましたが、その辺りの感覚がサービス上にも表現されています。

こうした感覚は一番新しくリリースされたPay it Forward Projectにも共通しており、「寄付ってなんだろう」というページには以下のような表現が見られます。

わたしたちは寄付を通じて、いわば「社会がもっと良くなるといいな」という「気持ちのバトン」を社会課題の最前線で活動するNPOのみなさんにパスすることができるのです。

また、Pay it Forward Projectはサービスの軸として自分のお礼の気持ちを寄付に変えるというコンセプトになっており、寄付という行為と自分の感謝という行動が具体的にリンクしていることを前提としています。

エイドルはサービスの流れの説明の中に、

応援したいNPOに支援をする

といった形で「応援」のキーワードを直接使っていますし、トップサポーターというインフルエンサーが自分自身の影響力を使って社会課題の解決にフォロワーを巻き込んでいくというサービス設計も近年の推し活や応援消費といった文脈に通じるものがあると言えます。

ファンドレイジングにおける「共感」を得る手法としては長く社会的弱者等の「かわいそうな」状況・状態を訴求することが大きな成果を出してきていることには批判も少なくないですし、そうした手法に頼らざるを得ないことに悩みながらファンドレイジング業務に取り組んでいる関係者も多くいます。この構造は単に業界の慣習や成功体験というだけでなく、人間の認知的な特性も含んだ複雑な話なので簡単に解消できる訳ではありませんが、それでもポジティブなイメージのファンドレイジングが力を持ってくる可能性があるのだとすれば大いに期待したいところです。

「応援」などのポジティブなイメージによる訴求はファンマーケティングなどの文脈にも通じるものです。佐藤尚之さんの『ファンマーケティング』はファンドレイジングに関わる方にも非常に参考になりますので未読の方はぜひお読みください。

daisuket-book.hatenablog.com

特徴⑤可視化・シェア

5つ目の特徴は「可視化・シェア」です。これも他の特徴との関連の中で表れてくる特徴です。

まず可視化についてはスマホに特化したデジタル前提のサービスであることとも関わっており、サービス上で自分の寄付額などが集計されるサービスが複数あります。

ソーシャルポートフォリオサービスであるsolioはこの点を軸にサービスが設計されていると言えます。自分がどのような社会課題に対してどの程度の割合で、どれくらいの支援を行ってきたのかというポートフォリオを作成することができるというのがサービスの売りです。

また、可視化というキーワードにはもう一つの意味もあります。自分が寄付をしたという事実や込めた想いをSNS等でのシェアによって周囲に明らかにするという意味です。寄付ページや寄付の完了ページで寄付を促すこと自体はSNSが全盛となって以降10年以上当たり前のように行われてきたものですが、新世代の寄付サービスは4つ目の特徴として「応援・感謝」を持っているという点が従来と異なる点です。日本には寄付などの社会貢献的な行動を名を明かさずに行うような「陰徳の精神」が良しとされる風潮もありますが(裏返って著名人の寄付が「売名行為」と揶揄される悲しい風潮も一部あります)、社会貢献意欲が高くSNSに慣れ親しんでいる若者世代を主な対象にしつつ、寄付という行為をよりポジティブな文脈に置くことで寄付を行い社会課題の解決に参加していることをシェアする行動が当たり前になっていく可能性は十分にあるでしょう。

Pay it Forward Projectはこの辺りを特に強く意識しているようで「寄付のバトン」「寄付の影響力」といった形で自分自身の寄付額よりも自分の寄付という行動をきっかけにどのようなつながりが生まれたのかということの方を可視化しようとしているようです。

1TAP SAVE LIFEでは、本記事執筆時点でSNSと連動したキャンペーンも実施しておりよりストレートにSNS上でのシェアや可視化といったアクションによる盛り上げを狙っています。

ポジティブなソーシャルアクションがSNS等を中心としたシェアのつながりからどこまで広がり、社会課題解決の力を促進していくことになるのか、私自身もソーシャルセクターとインターネットの両方に長く関わってきていながらもまだ大きな成功例は見つけられていないのですが、新たなサービスによる盛り上がりに期待していきたいところです。

 

 

かなり長くなりましたので、これらの特徴を踏まえたファンドレイジング全体の中での期待や課題・懸念などの総括的な分析については次回にしたいと思います。

 

2023/04/14追記:後編の記事を公開しました!

 

www.daisuketsutsumi.com

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。記事を楽しんでいただけたら、ぜひSNS等でシェアいただけますと嬉しいです。

 

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