NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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新世代寄付サービス5つの特徴はファンドレイジングの未来をつくるのか②

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新世代寄付サービス5つの特徴はファンドレイジングの未来をつくるのか②

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事は「新世代寄付サービス5つの特徴はファンドレイジングの未来をつくるのか」という前後編の記事の後編となります。

※前編の記事はこちら↓

 

www.daisuketsutsumi.com

 

今後のファンドレイジングにつながる期待と感じる課題

前回の記事では、6つの新世代の寄付サービスに共通する特徴を5つの観点(①若者の向け、②少額・気軽、③スマホ特化、④応援・感謝、⑤可視化・シェア)から分析しましたが、後編ではこれらの特徴から今後の日本のファンドレイジング全体の中でどのようなことが言えるのかについてさらに掘り下げてみます。大きく「期待」「課題・懸念」を一つずつ挙げた上で、期待を大きくし、課題・懸念を乗り越えるための鍵になりそうなポイントについて触れていければと思います。

期待:新たな寄付者層や寄付体験の開拓、寄付への新たなイメージの付与

まず、期待については特徴の分析の中でも触れた通り、寄付に対してのポジティブなイメージを広げることで新たな寄付者層を広げていくことです。新世代の寄付サービスはデジタルネイティブで社会貢献意欲の高い若年層を主な対象とし、そうした世代が寄付や社会貢献以外の文脈で慣れ親しんでいる文化(可視化やシェア、応援消費や推し活・投げ銭など)も合流させることで寄付によって社会課題の当事者やNPOを支援することに対してこれまでとは違った文脈やイメージを付けていける可能性があります。

シェア(共有)することや他者へ貢献することに価値を置く発想や文化は近年新たな技術や取り組みが進んできているWeb3の潮流の中でも基本的な発想として言われることでもあります。日本の寄付市場が小さいという話はファンドレイジングに関わる方であればもはや聞き飽きた話かとも思いますので、これまでとは違った角度から寄付という行為や体験の面白みや価値に注目が集まったり広がっていく動きを作っていくことを新しいサービスには期待していきたいと感じます。

さらには推し活やプロセスエコノミー、応援消費といった文脈やとも関わり合って寄付するという行為のイメージが広がっていくことも期待したいですし、もう少し言えば単に寄付するというところを超えたもう一歩踏み出した「参加」まで促していくような新たな市民性の醸成までを期待してみたいところです。オンラインコミュニティやサロン的な文化、あるいは副業・リカレント教育・リスキリング、そして人生100年時代などさまざまな文脈から仕事や家庭以外のつながりや学びの場を持つことの意味合いや価値は広がっていくと思いますので、その一つのきっかけや選択肢として寄付、そして市民活動・地域活動への参画といったところまでを新たな形で切り開いていくようなサービスはいろいろと作っていけるはずです。

課題・懸念:認定NPO以外が除外されることの影響をどう考えるか

続いて課題・懸念です。5つの特徴の中では特に「少額・気軽」に関わる懸念で、初心者にとっての寄付のハードルを下げるために中小のNPOが除外されるという構造が見受けられるということについて考えてみたいです。

先日の記事でご紹介した6つのサービスの中ではsolio(認定NPO法人、公益社団法人、公益財団法人のみ対象)とPay it Forword Project(認定NPO、または所轄庁における同等の基準を満たす公益法人)は明確に法人格を限定しており、認定を取得していないNPOは登録することができません。メルカリ寄付については法人格ではなく独自の基準でサービス側で選定した上で掲載しているようです(詳しくはこちら)が、ジャンル分けや検索等もなくシンプルに一覧で寄付先が並んでいるUIですので仮に中小のNPOが掲載されたとしても大きく寄付を集めることは難しいでしょう。1TAP SAVE LIFEとオトナリはそもそも個別の団体が独自に開発しているものですので他のNPOが利用することはできませんので、6つのサービスの中で中小のNPOも登録できる可能性があるのはエイドルのみとなります。

こうした新世代のサービスが寄付体験を順調に伸ばしていったとして、その新たに広がる寄付の恩恵を受けられるのはすでに一定以上の寄付獲得能力のある団体だけということになって良いのでしょうか

エイドルについてはサービス上では掲載基準は公開されていませんが、サービスリリース時点から認定以外のNPOや非営利型の一般社団法人も掲載されていました。

エイドルのリリース時のプレスリリースには成し遂げたいこととして次のように記載されていました。

1.NPOの苦労をなくす

世の中をよりよくするために動いているNPOのみなさまは、強い想いを持って社会貢献をしているにもかかわらず、多くの時間を資金集めに費やされています。エイドルはNPOの苦労を軽減するプラットフォームを目指します。

私自身もこれまでに複数の寄付プラットフォームの運営、開発に関わってきましたのでわかりますが、寄付プラットフォームや寄付サービスをつくる際に思い描くことの一つがこのNPOの財源不足の課題を解決したいというものでしょう。では実際に寄付集めに大きな課題を感じているのはどのような団体かというと中規模小規模のNPOで、その多くは当然認定を取得していません。認定を取得できる程の団体はそれまでにある程度の寄付を獲得していたり、獲得できるだけの組織としての力を身に着けているからです。(大規模の団体が寄付を必要としていない、不要だという話ではありません。念の為。)

せっかく新世代の寄付サービスによって若年層の寄付人口が広がっていくとしてもその行き先が大きな団体だけに限られてしまうのは個人的にはもったいないと思いますし、「NPOの苦労をなくす」とミッションを掲げているエイドルも50円の定額寄付を増やしていくというやり方でどれだけの団体の財源不足という課題の解消につながっていくかは疑問が残ります。

とはいえ、では新世代のサービスがすべてどんなNPOにも門戸を開き掲載されるNPOの数が無尽蔵に増えていけばいいという訳でもありません。「どのNPOに寄付すれば良いかわからない」という課題に逆戻りするだけになってしまいます。solioが登録できる団体を認定NPOや公益法人に限定しているのはこの課題を解決するためだったからです。

でもじゃあエイドルだけで中小のNPOの財源不足問題は解決していいくのでしょうか。一口月額50円の寄付者が一体何人集まれば良いのでしょう。なかなか難しい問題ですが、皆さんはどう考えますか?

新世代寄付サービスに期待したい気軽な寄付の「次の一歩」

ではどうすればいいのでしょうか。

そもそもNPOの財源不足という課題も、寄付市場が小さいということも若年層の寄付の促進も全部がイコールでつなげる問題ではないですし、それぞれ複雑です。細かく見ればそもそもそれは本当に解決すべき課題なのかという話も出てくるものもあります。まぁあまり細かく複雑な話に入っていくとどこまでも話が長くなりますので、解決すべき課題は何なのかという話は追々別に書ければと思います。

この記事では細かな構造分析はいったん省いて、私なりにどんなファンドレイジングの未来が描きうるのかを簡単に書いて締めたいと思います。寄付者側の動きとして例えば以下のようなことが段階的に進んでいったら良いとしましょう。

A:新たな寄付体験により寄付者人口が増える

B:良い寄付体験をした人が自分で寄付先を探して寄付を行う人が増える

C:寄付以外にもボランティアなど他の参加の仕方も模索する

先日の記事で紹介した6つの新世代寄付サービス(エイドル、Pay it Forword Project、solio、メルカリ寄付、1 TAP SAVE LIFE、オトナリ)は基本的にAの部分にそれぞれのやり方で取り組もうとしているといえます。でもそれだけでは上述の通り寄付が受け取れる団体は限定されてしまったり、金額としては大きなインパクトが望めなかったりします。大切なのはAで終わらずにB、Cへとステップアップを促していくこと。ですので次に期待したいのは、各サービスのユーザーである寄付者が最初の寄付のきっかけを得たあとにさらに寄付やNPOへのコミットを高めていくこと(Bへステップアップすること)を促すような働きかけをを行うことです。例えば気軽に少額から寄付の楽しさを知ったり、信頼できるNPOを知ることができたのであれば、次は自分なりに信頼できるNPOを探すためのヒントや視点を提供して新たなチャレンジを促してみるといったことが考えられます。

そして、そうしたステップアップが発生するためには「寄付して良かった!」と寄付者一人ひとりが感じている必要があります。そこで鍵を握るのは寄付をしてくれた後の寄付者と寄付サービス、寄付者とNPOのコミュニケーションをどのようにデザインしていくかということになるでしょう。

従来の寄付サービスやプラットフォームでは寄付が発生した後の寄付者とのコミュニケーションは基本的に団体側が実施する形式が多いです。いただいた寄付金をどのように使い、どのような成果を出したのかは団体側でないとわからないことですので、完全に団体の手から離してしまうのは本質的に意味不明なことになってしまうと思うのですが、サービス側からもある程度団体が成果報告をしやすくすることを含めてこの辺りをうまくデザインしていかないと(サービスによりますが)サービスリリース時の世界観を作りきれないことになるでしょう。実際、過去にこの辺りがほったらかしになってしまったサービスはありますので頑張ってほしいところです。

NPO側をエンパワメントする寄付サービスに期待したいこと

先日の新世代サービスの中には紹介しませんでしたが、近年NPO業界の寄付を強力に支えているサービスが成長しつつあります。Congrant、Syncableの2つの寄付プラットフォームです(ここにReadyforさんを加えても良いかと思います)。両サービスは目線が寄付者側というよりはNPO側にあって、小規模のNPOが寄付を募る環境(クレジットカード決済による寄付など)を整えてくれています

上記3段階のステップアップが起こってくるためには寄付者の側が新たな寄付先を探したり、寄付に前向きになるというだけでは不十分で、受け取り手となるNPOの側も適切な情報発信や機会の提供によって寄付募集を行っていくことが必要です。

中小のNPOでこれから寄付を増やしていきたいNPOは、単に寄付を受け付けられる環境を整えただけで勝手に寄付が集まってくるということにはなりません。寄付者に見つけてもらい、この団体にこそ寄付したいと思ってもらえるような発信を行う必要がありますが、何をどこからやれば良いのかわからないという団体は非常に多いですので、実際に寄付を集めるためにどうすれば良いか、組織基盤自体を整えることを促進するような取り組みがより必要になるでしょう。すでにCongrantであれば領収書発行機能など管理系の機能の提供、Syncableであればマンスリーサポーター募集のキャンペーン実施の支援など、それぞれこの辺りをサポートする取り組みは始まっていますが、せっかくのWebサービスですので、サービスの機能やデザインの面からユーザーである団体の担当者の学習や組織としてのアクションを促していくような機能の開発も期待していきたいところです。(機能面だけでない直接的なユーザー育成、啓発の取り組みも必要でしょう。もちろん私がご協力できることはします)

まとめ:寄付サービス自体もビジョンを明確に示して欲しい!

いずれにしても寄付者向けのサービスにしろ、NPO向けのサービスにしろ、鍵をにぎるのは寄付をしてくれた後のコミュニケーションをどのようにデザインしていくかということになるでしょう。そしてコミュニケーションをデザインしていくためには、そもそもそのサービスが何を目指し、どのようにそこに近づこうとしているのかを明確にすること、つまり各サービスのビジョンやミッションが問われることになります。NPOはビジョン・ミッションが重要だと言われますが、NPOに関わるサービスとしてもこの辺りがしっかりしていないと大きな社会の動きを作っていくことは難しいのではないでしょうか。

寄付を気軽に募ることができるようになり、初めての寄付を新たな角度から促す魅力的なサービスがたくさん出てきている状況だからこそ、寄付サービスに関わる人も、NPOでファンドレイジングに関わる人も、そして寄付をする人も、寄付をした後のコミュニケーションがどのようなものであれば良い寄付体験が広がっていくのか、寄付が広がっていくことでどのような社会になったら嬉しいのか、ぜひ考えていっていただけると良いなと思います。

 

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