NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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NPOがPeer to Peerファンドレイジングに力を入れるべき2つの理由

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NPOがPeer to Peerファンドレイジングに力を入れるべき2つの理由

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事ではバースデードネーションやチャリティランナーで注目を集めるPeer to PeerファンドレイジングがNPOのファンドレイジングにとってどのような意味を持つのかについて解説します。結論から言うと、P2Pファンドレイジングは「共感を高める」と「共感を広める」というファンドレイジングの本質ともいえる意義を非常に強く持つ施策であり、ファンドレイジングに力を入れるすべての団体が考慮すべきものです。

 

 

本記事の対象者

本記事は主に以下のような方を読者として想定しています。
 
  • NPO等の公益組織でファンドレイジングを担当している方
  • 公益組織のファンドレイジングをサポートする立場にある方
 
特にすでに団体である程度ファンドレイジング経験を積まれている団体の方の方が、自組織の事情に当てはめて発想しやすいかと思います。
 
応援している団体のためにPeer to Peerファンドレイジングのキャンペーンを立ち上げてみたいと考えている方やそもそもPeer to Peerファンドレイジングとは何か?について知りたい方は以下の記事にPeer to Peerファンドレイジングの基本的な考え方や種類、具体的な寄付の集め方などを詳しくまとめていますのでそちらをご覧ください。
 
 

Peer to Peerファンドレイジングはステークホルダーピラミッドと相性が良い

2019年は日本のファンドレイジング業界でもPeer to Peerファンドレイジングがある程度一般化した一年だったように感じています。Peer to Peerという言葉自体が全面に出ることはあまりありませんが、バースデードネーションや誕生日寄付、あるいはチャリティーランナー等の取組みについてはSNS上などで見かけたことがあるというNPO関係者は多かったのではないでしょうか。ただ、まだまだPeer to Peerの持つ大きな可能性は十分には発揮されていないとも感じています。
 
SNSなどでPeer to Peerファンドレイジングの取り組みを見かけた方の中には、最近流行りのちょっと変わったファンドレイジング施策という印象を持っている方も少なくないかもしれません。バースデードネーションなど記念日をきっかけに行うものやチャリティランナーのように何らかのチャレンジを掲げて行うものなど、通常のファンドレイジング施策と比べると少し変わった切り口の取り組みが多いことは確かだと思います。そしてSNSで私たちが見かけるものは、NPOの経営者やスタッフが「誕生日のお祝いに寄付をお願いします」というぐらいの投稿が少なくありません。もちろんそうした機会をしっかりと使って寄付のお願いをすること自体はとても大切なことですが、NPOの経営者やスタッフが自組織の寄付の必要性を伝え寄付を募る事自体は当たり前のことともいえます。
 
当たり前のことではあるけれどちょっと繰り返しは言いにくい寄付のお願いを言いやすくする工夫
 
もし、Peer to Peerファンドレイジングの広がりがそれぐらいで留まってしまっては非常にもったいないと考えています。
むしろ、Peer to Peerファンドレイジングは非常に本質的で基本的なファンドレイジングの考え方に通じるものであることをお伝えできればと思っています。
 
普段からファンドレイジング戦略や施策の立案に携わっている方は「ステークホルダーピラミッド」という考え方をご存知の方も多いかと思います。
例えば以下のようなものです。
 

ステークホルダーピラミッド

 
団体と関係を持つ様々な関係者を関係の濃さに応じて階層分けをして位置づけるという考え方で、上にいけば行くほど団体のビジョン・ミッションに対しての共感度や貢献度が高く、下に行けば行くほど潜在的な関わり方です。そして、左に行けば行くほど金銭的な関わり方、右に行けば行くほど非金銭的な関わり方を表しています。
 
ステークホルダーピラミッドをベースとしたファンドレイジング戦略では、ピラミッドの下層から上層へ登ってもらえるようにそれぞれの関係性やタイミングに応じたコミュニケーション施策を考えたり(例えば、「HP訪問者には継続的に関心を持ってもらうためにメルマガの登録を促す」「メルマガ読者にはまずは単発の寄付やイベントに来てもらえるように情報をお伝えする」「イベント参加者には参加後のお礼メールでマンスリーサポーター入会のお願いをする」「マンスリーサポーターには支援のお礼と報告の際に寄付の口数を上げてもらえるよう依頼する」といったような施策)、あるいはそもそもピラミッドのベースを広げるために取り組む社会課題や団体の活動の認知拡大のための取り組みを考えたりすることになります。
 
団体が取り組む社会課題や行っている事業の内容、そしてそもそもどのようなビジョンを掲げているかなどによってステークホルダーの数やあり方、団体との関係性も様々であり、だからこそファンドレイジング施策のあり方も多種多様となるのですが、潜在的な関心から徐々に共感を深めピラミッドの上層に登っていってもらいたい、そういう人を増やしたい!という姿勢はどの団体にも共通することではないかと思います。団体や団体のビジョンへの共感を深めピラミッドを登ってもらえる人が増えるということは、それだけ団体のビジョンに深く共感している人が増えることであり、見方を変えればそうした共感度の高いステークホルダーが増えること自体がビジョン実現へ一歩近づくことを意味するとも言えます。それぐらい、ステークホルダーピラミッド起点の発想はファンドレイジングやNPO的な考え方を親和性が高いものだということですね。
 
では次に、このステークホルダーピラミッドに対して、Peer to Peerファンドレイジングが持つ意義について考えていきましょう。
 

Peer to Peerファンドレイジングが持つ2つの意義

①既存寄付者に「寄付額を引き上げる」以外の別の「応援の機会」を提示できる

Peer to Peerファンドレイジングで寄付を募る人

Peer to Peerファンドレイジングには「寄付を募る人」と「寄付をする人」という2つの役割が登場します。例えば誕生日に寄付を募るバースデードネーションは「私に誕生日プレゼントをくれる代わりに、私が応援している◯◯という団体に寄付をしてください」という形式ですが、この場合誕生日を利用して寄付の呼びかけを行うのが「寄付を募る人」です。
 
団体の代表者やスタッフなど団体の直接関係者が寄付を募るということも多いですが、Peer to Peerファンドレイジングとしての本質は「寄付を直接募るのではなく寄付を呼びかけてくれるファンドレイザーを募り、増やす」ということ。つまり、団体のスタッフではない個人が団体のために寄付を募る活動が発生するように促すことが大切です。とはいえ、団体のために寄付を募ることを誰でもお願いすればやってくれるかというと、そんなことはないですよね。自分の身の回りの人に、特定団体への寄付を薦めるというアクションを行ってもらうためにはその団体に対しての信頼や団体の掲げるビジョン、実施している事業に対しての深い共感性が必要です。
 
では、あなたの団体に対して信頼感や共感性を持っている人とは誰でしょうか。この問いについて考える際に見てほしい(もしまだ無ければ作って欲しい)のがステークホルダーピラミッドです。ステークホルダーピラミッドの上層に位置づけた人たちこそがきっと最もあなたの団体を信頼し、共感してくれている方たちではないでしょうか。つまりステークホルダーピラミッドの上層に位置する人こそ「寄付を募る人」の第一の候補者であるということです。(そこには理事や団体スタッフも位置づけられれているはずなのでそうした方たちが率先してP2Pファンドレイジングの取り組みを実践すること自体はまったく本質からはずれていません。ただ、それだけで終わってしまってはもったいない、というのが本記事でお伝えしたいことです)
 
ステークホルダーピラミッドの上層に位置する人にPeer to Peerファンドレイジングという支援方法を提示できるということは、団体への継続的な関わりを促し続けていく長期的なファンドレイジング戦略、コミュニケーション戦略にとっても非常に大きな意味を持ちます。
 
ファンドレイジングは団体のビジョン実現、ミッション達成のために継続的に実施していくものです。社会課題の解決のための事業を継続し課題解決のスピードを挙げていくためには、団体のビジョン・ミッションに共感し、寄付という形で課題解決に一緒に参加してくれる方を募り、しかも継続的に参加し続けてもらうことが必要です。
 
これはファンドレイジングの思想としては基本的なことですが、実際ファンドレイジングの現場では「寄付のお願いをし続ける」というのはファンドレイジング担当者にとっても寄付者にとっても簡単なことではありません
 
過去に寄付をしてくれた方に、年度末の寄付目標金額達成のためにもう一度寄付をお願いし、翌年度には新規事業のためのクラウドファンディングを実施したためさらに寄付を呼びかけ、数カ月後にはまた別の寄付キャンペーンを実施し…と。
 
もちろん支援者側がどのように感じるかを考慮しながらコミュニケーションを設計していくことが大切ですし、寄付コミュニケーションの前提として「今までの寄付で何ができたのか、どんな成果・変化があったのか」「ビジョン実現のために次に何をやる必要があるのか」といった寄付の必要性やビジョン実現までの道のりを丁寧に伝えていくということは当たり前に必要です。それでも、その当たり前を踏まえ丁寧に実施したとしても、「寄付のお願いをし続ける」ということが時には苦しくなることもあります。
 
なぜならNPOが掲げるビジョンはとても大きく、その実現に向けた変化はゆっくりとしか進まないことが多いから。ゆっくりとでも変化を感じられるのであれば良い方で、その変化が感じ取りにくかったり、うまく示しにくかったりすることも少なくないでしょう。寄付者の側としても、いくら共感が大きかったとしても寄付に回せる金額には個人個人で限度があり、それ以上金銭的な支援をすることはできません。
 
そうした中で、大きな変化にともに立ち向かってくれる大切な支援者に、単純に「もう一度寄付をお願いします」「(継続寄付の)増額、増口をお願いします」と言い続けるだけではない、新たな参加(支援・応援)の機会として「寄付を募る側に回ってみる」という選択肢を提示できることはファンドレイジング担当者にとっても、寄付を寄付者にとってもとても大きな意味を持ちます
 
また、既存支援者の方がPeer to Peerファンドレイジングのキャンペーンを立ち上げてくださる場合、そのキャンペーンページには既存支援者の方自身がなぜその団体に共感し応援しているのかという想いや団体との出会いについて改めて考えてくださる機会にもなります。団体に対しての共感の想いを改めて自分の身の回りの方に伝えられるよう言葉にするという経験や、実際に寄付や応援・共感のコメントが集まるという経験は、団体に対しての共感性をさらに高めることにもなります。
 
あなたの団体をずっと応援してくださっているマンスリーサポーターの方、長年ボランティアとして関わってくださっている方などできる範囲の関わりをずっとしてくださっている方に、「支援金額の増額」という資金面からの要請だけではなく、本当にその人にあった、その人が参加しやすい機会を提示するためにPeer to Peerファンドレイジングが選択肢の一つに入ってくるとステキなことだなと思います。(裏を返せば誰彼構わず依頼するというものでもありません。寄付を募ることになる方自体がその仕組やその行為自体に魅力を感じてくださることが大前提です)
 
 

②団体からの発信では届かない人とつながるチャンスが広がる

Peer to Peerファンドレイジングで寄付をする人

では続いてPeer to Peerファンドレイジングが持つ意義の2つ目です。
 
先程Peer to Peerファンドレイジングには「寄付を募る人」と「寄付をする人」の2つの役割が登場すると説明し、「寄付を募る人」に対しての意義について考えました。続いては「寄付をする人」について考えます。Peer to Peerファンドレイジングの寄付キャンペーンにおいて寄付をするのはどんな人でしょうか。
 
少し具体的に考えてみましょう。
 
例えばとある団体で長年マンスリーサポーターとして支えてくださっているAさんが、自身の誕生日に団体への寄付を募るためのバースデードネーションキャンペーンを立ち上げたとします。Aさんはキャンペーンページに自分がその団体とどのように出会い、何に共感して寄付をしたのかを書きます。そしてなぜ誕生日という機会に改めて団体のために寄付を募る取り組みをしたいと思ったのかを言葉にします。一人でも多くの人に団体の活動やその先にいる受益者のこと、社会課題のことを知ってほしいという想いを込めます。そしてそれをFacebookやTwitterで投稿します。
 
AさんとFacebookやTwitterでつながっている方がその投稿を読みます。Aさんとフォロワーさんの関係もさまざまですので色々な反応があるはずです。もちろん中には単純に「誕生日なんだ、おめでとう!」という気持ちで寄付やコメントをしてくださる方もいらっしゃると思いますが、中には
 
Bさん「AさんがNPOに寄付していることを初めて知った。想いを持って寄付してるんだね。私からもお祝い寄付してみよう」
Cさん「その社会課題はニュースでは知っていたけど周りの人が関わっているなんて知らなかった」
 
といった形でAさんのバースデードネーションの取り組みを通して初めて団体のことや取り組まれている課題について知ったり、考えてくださるという方もいらっしゃるかもしれません。
 
このときにぜひ考えていただきたいのは、BさんやCさんのような人たちには団体側の普段の情報発信だけではなかなか伝わりにくい人たちであるということです。団体のホームページやSNS、あるいはチラシの他、メディア掲載などあらゆる手段をもって団体や取り組む課題について広報を行っても、団体や社会課題に対しての関心や接点を得ることは簡単なことではありません。「自分の身近な知り合いの誕生日」というまったく違う切り口だからこそきっかけになる可能性があるのです。
 
そしてAさんのバースデードネーションキャンペーンを作成してくださったのが、Syncable等のPeer to Peerキャンペーンの専用機能を持つプラットフォームであれば、団体側にもバースデードネーションを通した寄付者さんの情報が伝わりますので、後日団体からもお礼等のコミュニケーションを取ることが可能です。
 
ステークホルダーピラミッドの観点からいえば、Aさんのバースデードネーションを通して、ピラミッドに新たに参加してくれる潜在的な支援者が広がるということになります。(ピラミッドの中にはすでに「単発寄付者」という関係性が存在していることも多いかと思いますが、Peer to Peerファンドレイジング経由の寄付者を通常の寄付者と同じに扱うのかどうかは慎重に判断した方が良いです。上述の通り必ずしも団体のことを詳しくは認知・共感していない可能性もあるからです)
 
 

まとめ

以上、本記事ではPeer to PeerファンドレイジングがNPOのファンドレイジングにとってどのような意味を持ちうるのかについて考えてきました。
ステークホルダーピラミッドというファンドレイジング戦略の基本的なフレームワークに則って考えると、非常に本質的な価値を持つ可能性があるということを感じてくださった方がいれば幸いです。
 
2020年、日本のファンドレイジング業界においてPeer to Peerによる面白い取り組みと素敵な寄付体験が広がりますように。