NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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「とりあえず環境分析」はNG!中期事業計画はどのように作れば良いか?

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「とりあえず環境分析」はNG!中期事業計画はどのように作れば良いか?

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では「「とりあえず環境分析」はNG!中期事業計画はどのように作れば良いか?」と題し、NPO経営者からの相談の多い中期事業計画作りについて解説します。

 

「中期事業計画作り」は難しい?

NPOに限らず組織の経営をしていると「中期事業計画を作った方が良い」という話というか情報はよく見聞きすると思いますし、中期事業計画を作りたいと考えていらっしゃる方も少なくないかと思います。実際私にもよくご相談やご質問をお寄せいただきます。

「中期事業計画を作りたいので支援して欲しい」

「中期事業計画を作りたいが何から始めれば良いかわからない」

「中期事業計画作りにチャレンジしてみたけれどうまくいかない」

などなど。

作った方が良いとか作りたいという話はよく聞く一方で「実際に中期事業計画をつくった」という話や「良い中期事業計画の作り方」といった話や情報はあまり見かけません。特にNPO向けのものとなるとなおさらです。

中期事業計画を作ることは難しいのでしょうか。難しいとしたら特に何が難しくて、どこでつまづいてしまうのでしょうか。本記事ではよくお寄せいただく相談や、これまで私自身が計画づくりのご支援をしてきた経験を元にどのように考えればよいかを整理してみたいと思います。

研修でお伝えしている中期事業計画を考えるための4つのステップ

以下は私が研修講師として中期事業計画の作成についてお話するときに使用しているフレームワーク「中期事業計画を考えるための4つのステップ」です。その名の通り4つのステップで整理しています。

中期事業計画を考えるための4つのステップ

  1. 存在意義:自組織のビジョンは明確か?
  2. 現状把握:自組織を取り巻く環境や組織内部、受益者について十分に把握しているか?
  3. 目標設定:ビジョンと事業のつながりは明確か?
  4. 達成方法:成果を創出するために必要な資源や体制は明確か?

この4つのステップ(の検討)を順番に進めていけば概ねどんな組織であれ中期事業計画を作ることはできる、と私は考えています。ただし、各ステップを進めていくために、どのくらいの時間やパワーがかかるかは組織の状況によってバラバラです。この「組織によって異なる」というところが、当たり前のようではあるのですが、落とし穴になっていることが多いなと感じます。どういうことか順番に解説します。

計画作りが頓挫しやすい「とりあえず環境分析」

まず、中期事業計画作りを自分たちで進めようと思って調べ始めた組織の方や実際に取り組み始めた組織の方が、一番初めに手を付けやすいのが「環境分析」です。

「中期事業計画 作り方」

などのキーワードで検索して調べてみると、色んなWebページが出てきて、上記の私が示した4つのステップのようなステップや手順が出てきます。そして、だいたい2番目ぐらいのステップで、現状分析や環境分析が出てくることが多いですね。ここをとりあえず皆さんやってみる訳ですね。

具体的には、いわゆるビジネスフレームワークのようなものを活用した分析に取り組むケースが多いです。

  • SWOT分析(強み・弱み分析)
  • PEST分析
  • ビジネスモデルキャンバス

などを活用するケースが多いですね。検索して出てくるWebページでもこれらを紹介しているケースが多いです。また、これらのフレームワークは慣れていないとなかなか分析がスムーズにできないこともあるため、実際に自組織で取り組んでみたという場合は、プロボノさんなどビジネスセクターでこれらのフレームワークを使うことに慣れている方がサポートに入っている(あるいは主導して作成している)ケースも多いように思います。

もちろんこれらのフレームワークはしっかり活用すれば十分に効果的です。実際の中期事業計画作成支援のステップの中でもこれらのフレームワークを活用したワークを取り入れています(NPOが活用しやすい様にフレームのカスタマイズはしていますが)

ただし、しっかりと活用すれば、です。残念ながらそれなりに時間やパワーを投入して頑張ってシートに記入してみたけれど、いまいちピンとこないというか、やる前から分かっていたようなことばかりが出てくるというか、「で、だからどうすれば良いの?」という状態になってしまうことが少なくないように感じます。

なぜ、そうなってしまうのか。それは「とりあえず環境分析」をしてしまうからです。

内部環境を分析するものにしろ、外部環境を分析するものにしろフレームワークによる分析は現状を把握するためのものです。今自分たちはどこまでできているんだろうか。どこに、どのような状態でいるんだろうか。つまり、現在地点を確認するための分析です。

なぜ現在地点を把握することが重要というか意味を持つかというと、それがゴールに向かうための重要なヒントになるからです。ゴールがどこなのか、どこに向かいたいのかが定まっていて初めて、今どこまで来ることができているのか、という現状の把握に意味が出てきます。このままのペースで進んで大丈夫なのか、もっとペースアップが必要なのか、今持っている装備や体力で大丈夫なのか、どの道を選んでいけば良さそうなのか、などなど。

なぜ、多くのNPOの中期事業計画作りが「とりあえず環境分析」になってしまうかというと、検索して出てくる最初のステップは多くの場合「ビジョン・経営理念の明確化」なのですが、それは問題なくできていると判断してしまうからです。

でも、本当に「ビジョン」に問題はないのでしょうか。多くのNPOの支援に関わってきた経験から感じているのは、ビジョンに何の問題もないという組織の方が少ないということです。

まず問うべきは「ビジョン」です。「とりあえず環境分析」をしてはいけません。

同じ「中期事業計画作り(の支援)」でも組織の状況によってやるべきことは異なる

ここからは、私が中期事業計画作りの支援を相談されたときに、どのように支援内容・支援計画を作成するのかという観点から解説していきます。依頼内容が同じ「中期事業計画作り(の支援)」だったとしても、組織の状況によって実施すべき内容や進め方は異なります。これは私のような外部支援者に依頼せずに組織内部で進めていく場合にも活かせる視点かと思いますので、参考にしていただければ幸いです。

基本的には先にご紹介した「中期事業計画を考えるための4つのステップ」に沿って進めていくという考え方なのですが、組織の状況によってどのステップにどの程度のパワーや時間をかけていくべきかが変わってくると考えていて、打ち合わせやヒアリングを進める中で以下のような観点で組織の状況を見極めながら大まかな支援計画やスケジュール案を作成します。

1. [①存在意義に関して]ビジョンに問題はないか?

 →問題ない → 2へ
 →そもそもビジョンが不明確、定まっていない → ビジョンの見直し、再策定
 →ビジョンはあるが、共有されていないor浸透していない → ビジョンの共有方法、浸透方法の見直し

まず一番最初に確認すべきは何をおいてもビジョンです。ビジョンというのは組織が目指すゴールとしての地域や社会の理想の状態であり、ゴールが定まっていなかったりゴールとして機能していない状態でその他のことをあれこれと検討してもなかなかうまくいきません

とはいえ、「ビジョンに問題があるか?」という問い方は非常に雑で、本当にビジョンが組織のゴールとしてメンバーや事業のパワーを引き出すものになっているかどうかを見極めるのは難しいのですが、それでもよく発生する問題というのも確かにありますし、ビジョンに関して何ら問題を抱えていないという組織の方が少ないと多くの組織に関わってくる中で感じています。

例えばですが「そもそもビジョンが不明確」というケースが実はよくあります。特に対人支援系の活動等では目の前の受益者に寄り添いながら活動が自然発生的に立ち上がってきて、事業や組織は形になってきているけれど、改めてビジョンやミッションをメンバーとともにしっかりと検討したり確認したことはなかったというようなケースです。立ち上げ期の混乱が一段落して、さぁ次はどこに向かっていこうかというときに指針となるビジョンがない場合(もちろん明文化はされているけれど策定するときにそこまで時間とパワーをかけておらず魂がこもっていない、など)、改めてこの点に向き合わないと中長期視点での計画は考えようがないということになります。この場合、中期事業計画自体よりもビジョン・ミッションの再策定に重きを置きつつ、新たなビジョン・ミッションに基づいて何に注力したいのか検討する、というような計画策定をすることが多いです。

他にも「ビジョン自体は明確にあるが、そのビジョンの共有度合いや浸透度合いに課題がある」というケースです。活動歴がそれなりに長かったり、スタッフさんやボランティアさんなど関わるステークホルダーが多めの組織で発生することが多い課題で、経営陣やコアスタッフと現場スタッフ等の間で意識の乖離が起こっているといったことが考えられます。この課題の可能性が考えられる場合は、支援計画の中で共有度や浸透度合い自体を確認しつつ対処法も合わせて検討するようなワークの実施をご提案したりします。

2. [③目標設定に関して]事業はビジョンの実現、ミッションの達成に寄与するものになっているか?

 →問題ない → 3へ
 →事業とビジョンが明確に結びついていない、結びついているかどうかわからない
 →ビジョンにつながっているものもあれば、そうでないものもある
 →そもそも事業づくりが不十分
 →ビジョンにつながる事業もあるが、他にも実施すべきことがある
 →設立当初と状況が変わり成果が出なくなっている

ビジョン自体に問題がなさそうであれば次に確認するのは、実施している事業・活動は掲げているビジョンの実現に確実に寄与するものになっているか、という点です。

いくら素晴らしいビジョンを掲げていても、あるいはどんなに着実な事業運営ができているとしても、その事業で創出する成果がビジョンの実現に近づいていなければ、いつまで経ってもビジョンを実現することはできません。この「ビジョンと事業のつながりの確認」はビジョンや事業の内容、活動分野の特性、組織体制のあり方などさまざまな側面によって本当に組織によってそれぞれという感じではあるのですが、中期事業計画作りという観点から考えるとこの点こそが本丸だと個人的には考えています(中期計画というのはビジョン実現のために中期視点で何に力を入れていくべきかについての計画ですので)し、多かれ少なかれどんな組織・事業であれ見直すべき点が見つかります。

見つかる課題は上に少し例を書いたようにさまざまです。事業がどのような成果(社会的成果、ソーシャルインパクト)を創出しているのか or 創出するべきかという問い自体をしっかりと検討したことがないという組織の方は少なくないですし、ビジョンとのつながりという大きな視点からの問いはなかなか普段の事業・活動を必死で運営し続ける中では向き合うことが難しいものです。

この点を確認したり検討するために私がよく実施をご提案するのは「ロジックモデルの作成」です。ロジックモデルは個々の事業や活動がミッションの達成やビジョンの実現に論理的につながっているかを確認するためのフレームワークです。社会的インパクトマネジメントや評価の文脈でもよく使われたり、最近では助成金の申請書にロジックモデルの記載が求められることも増えているのでご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、どのように活用するのかという応用範囲が広いフレームワークで、講師やファシリテーターによって、あるいは目的によって使い方にも幅があります。

私が実施する場合も組織の状況によりどこに力点を置いて実施するかを検討しながらご提案したり、ファシリテーションしたりしますが、事業とビジョンのつながりの明確化という観点ではロジックモデルの構成要素でいうと「(長期or最終アウトカム)」と「インパクト」をどのように表現できるかという点の検討を丁寧に実施することが多いです。ロジックモデルの解説によってはそもそもアウトカム止まりでインパクトの議論や検討が省略されることも多いようですが、中期事業計画の検討という文脈では個人的にはインパクトとビジョンを連動させて、この点をこそ考えるべきだと考えています。

3. ビジョン実現に向けて中長期視点で目標や事業計画が立てられるか?

ビジョンと事業のつながりの検討にも問題がなければ、次に確認するのは目標設定や計画です。この点がしっかり検討でき、成果物にまとめることができるとグッと事業計画っぽさが出るのですが、1と2の問いをすっ飛ばして無理やり数値的な計画だけを作っても絵に描いた餅になってしまうので、注意が必要です。

ここで言う目標は、成果としての目標設定(いつまでにどの程度の成果を創出できればよいのか)と事業としての目標設定(目標とする成果を創出するためにどの程度の事業実施が必要となるのか)の2段階で検討する必要があります。ロジックモデルの構成要素で言うならアウトカム指標とアウトプット指標の両方での目標設定が必要になるということです。事業の内容や目標達成に向けて取り組むべき内容によってはアウトプット目標の方を指して「計画」という方が適している場合もあるかと思います。

4. 中長期目標、計画を実行するために必要な資源、体制が整っているか?

4点目の問いは「必要な資源や体制」についてです。3点目で確認したような目標・計画を実行するのに、どのような資源が必要でその資源をどのように調達すべきなのか(ファンドレイジング計画)という問いや、適切に計画を実行するための組織やチームの体制はどのようなものかという問いについて検討することが必要です。

※ちなみに、「中期事業計画を考えるための4つのステップ」の中では2つ目のステップである「現状把握」について確認する問いがありませんでしたが、実際には中期事業計画策定のワークショップの中に現状把握的なワークを盛り込むことは少なくありません。ただし、雑に「現状把握はできているか?」と問うことにはあまり意味がないと感じていて、環境分析的なワークをビジョン見直しの材料やヒントにするために深堀りした方が良い場合もあれば、ビジョンと事業のつながりを強化したり整理するために活用した方が良い場合もあると考えています。どこに課題がありそうなのかによって、同じ環境分析なフレームワークでも分析視点や活用方法が異なるので、この意味でも「とりあえず環境分析」だけを行っても意味がないといえます。

まとめ

このような点について打ち合わせの中で確認したり、ワークショップの中にこれらの点を確認しつつ検討するようなワークを検討した上で、いつまでに検討が必要か、関われるメンバーは誰か、予算はどの程度かなどの要素も考慮しつつ支援計画を作成することになります。

1のビジョンに関する確認で課題が感じられるようであれば、中期事業計画作りという冠は意識しつつもビジョン確認に重きを置いたワーク設計をしますし、1〜3まではある程度検討や確認ができていたりスムーズで実行力を高めていくためのファンドレイジング計画や体制作りに重きを置いた設計になるという場合もあります。

そしてもちろん実際にはワークショップなどを進めてどのような意見や課題が見えてくるかというのはやってみないとわからない部分もありますし、想定以上に時間がかかるものが出てくることも少なくありません。そのためあまりガチガチに計画しすぎず、とはいえある程度事前に予定できるようにというバランスを見極めながら検討するのですが、実際は予定通りいかないことも多いのが実情です。(私の力不足もあると思いますが)

組織によってまちまち、というヒントになるようなならないようなまとめで恐縮なのですが、NPOというのは本質的にそれぞれが独自性を持っているものだと考えているので、それぞれのNPOへのリスペクトを大事にしながらお手伝いをさせていただいているという次第です。いずれにしても、「とりあえず」ということでそれっぽくフレームワーク分析だけを試みることはそれなりに時間やパワーがかかる割にその後につながらないものになってしまうことが多いですので、注意しながら取り組んでいただければと思います。

少しでも参考になれば幸いですし、疑問点やお力になれそうなことがありましたらお気軽にご連絡ください。

 

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