こんにちは。NPO支援家の堤大介( @22minda )です。本記事では「マンスリーサポーター制度は一口いくらにするべきか?」と題し、NPOのファンドレイジング施策として年々多くの団体が力を入れるようになってきているマンスリーサポーター制度について個人的な考えを解説します。
- 寄付の主要施策の一つとなったマンスリーサポーター制度
- コンサルティング時に「一口500円」を勧めることはほとんどない
- 単価を下げれば間口は広がるが、平均単価も下がり財源安定への道のりは長くなる
- 寄付者コミュニケーションにもコストがかかるし、かけるべきである
- 「一口500円」で設計すべき場合も、ある
- マンスリーサポーター制度を導入する際に考えるべきこと
寄付の主要施策の一つとなったマンスリーサポーター制度
マンスリーサポーター制度とは、主にNPO等が募る月額の寄付会員制度です。SNSやオンライン広告を始めとしたオンライン上での情報発信やファンドレイジング施策が大きな影響力を持つようになったことや、CongrantやSyncableといった導入しやすい寄付プラットフォーム(初期費用がかからず、維持費用も安く、クレジットカード決済が気軽に導入できる)が普及したことやその他諸々の環境面が整ってきたことを受けて、多くの団体がマンスリーサポーター制度を導入し、サポーターを募っています。月額で寄付をしてくれる支援者が増えるということは、毎月一定額の収入が見込めるということであり、活動資金に悩むNPOにとっては財源の安定性や成長性といった観点から非常に魅力的な施策であるといえます。
良くも悪くも寄付プラットフォームに登録しさえすればすぐに始めることができるような環境になっているのですが、後述するような本来制度導入に際して考えるべきことを一旦脇に置いて最速で始めようとしたとしても、どうしても考えて決めなくてはいけないことが出てきます。それが、一口あたりの金額をいくらにするかということです。
コンサルティング時に「一口500円」を勧めることはほとんどない
結論を申し上げるとこの問いに決まった答えはありません。正解の金額を選べれば自然と寄付者が集まるとか、活動資金が集まるといったことはありません。団体によって、そして状況によってさまざまな答えというか、設計が有り得る話なので、そもそも今回のようなタイトルをつけて記事化するような話ではないのですが、ご質問いただくことが多いので、背景や意図も含めて私の考えを記事に残しておきたいと思います。
マンスリーサポーター制度の金額設計は、利用する決済システムによって、口数制度(一口あたりの金額×口数、申込者は口数を選択する形式)、具体的な金額選択肢の提示(1,000円、2,000円、3,000円、5,000円、10,000円などをボタンもしくはプルダウン等で選択してもらう形式)のどちらかが多いかと思います(これに加えて、主に高額寄付者用に自由記述フォームを設けている場合もあります)。趣旨から外れてしまいますので、今回はこの辺りの細かな設計の話は省略しますが、いずれの形式の場合でも、大きな選択となるのが「500円」からとするのか、「1,000円」からとするのか、です。1,500円や3,000円が最低金額という設計の団体さんもありますが、多くの団体のマンスリーサポーター制度が、500円もしくは1,000円が最低金額となっています。
繰り返しになりますが、この金額設定について絶対的な正解はありません。金額を上げた場合、下げた場合それぞれにメリット・デメリットがありますので、想定する寄付者さんの特性などを加味しながら検討していくことになります。ただ、私がファンドレイジングのコンサルティングや伴走支援を行う際には「500円」の設計は避けていただくことが多いです。なぜなら、私にご相談・ご依頼をいただく団体さんは基本的には財源的な課題を解消することが重要な状況にあり、その解決のための施策としてマンスリーサポーター制度の導入を目指すことがほとんどだからです。
単価を下げれば間口は広がるが、平均単価も下がり財源安定への道のりは長くなる
最低金額を下げれば、申込みのハードルも下がりますので、より多くの人がマンスリーサポーターになってくださることを期待しやすくなります。参加の間口が広くなるということです。一方で、当然ですが、平均の単価は低くなり、マンスリーサポーター制度から得られる収益も低くなります。
例えば最低金額1,000円で制度設計した場合、一人のサポーターさんが寄付してくださることで年間で12,000円の寄付となります。ただ、実際には最低金額の1,000円ではなく、上の金額帯で申し込んでくださる方もいらっしゃいます。口数制度なのか選択肢制なのか、年齢など寄付者の属性によっても異なるので一概には言えませんが、年間の平均の寄付額は大体18,000〜24,000円ぐらいに落ち着くことが多いです。
最低金額を500円にしていた場合は、単純計算でもこの金額が半減することになります。必要としている財源がどの程度なのかは団体さんにもよりますが、同じ目標金額を掲げている場合、目標金額を達成するためには、2倍以上のサポーターさんを集めることが必要になり、これは参加の間口が広がるメリットでは補いきれないデメリットになってしまうことが多いです。私にファンドレイジングに関してご相談をいただく場合は、この点をまずご説明します。
寄付者コミュニケーションにもコストがかかるし、かけるべきである
そして、マンスリーサポーター制度を始めファンドレイジングに力を入れる際に忘れてはならないのが、寄付者コミュニケーションにもコストがかかるし、かけるべきでもあるということです。
寄付者さんとの関係はお金をいただいたら終わりではありません。むしろ逆で、寄付をいただくことから関係が始まり、続いていくものです。寄付者コミュニケーションについては、以下の記事で基本的な考え方をまとめていますので、良ければお読みいただければと思いますが、基本的なコミュニケーションとして「お礼」「報告」「再提案」を適切に行なっていくことが必要です。
こうしたコミュニケーションは、寄付金の使途や成果などを明らかにするという意味で説明責任を果たしていくという側面もありますし、財源的な安定性の確立を目指していく上では寄付者の継続性を高めていくためにも必須です。単発の寄付であっても適切なコミュニケーションを行うべきですが、毎月の寄付をいただくマンスリーサポーターに対してはより手厚いコミュニケーションが求められるのは当然のことです。
具体的なコミュニケーションの設計の仕方はさまざまですが、例えばお礼や報告では以下のようなコミュニケーションが代表的でしょうか。
お礼:入会時にお礼状・団体紹介資料等の送付
報告:年次報告書やメールマガジンの送付、寄付者限定イベントへの招待
その他:領収書の発行・送付
当然ですが、これらのコミュニケーションを設計し、準備し、運用するためには人件費や諸資料の作成・印刷費や郵送費がかかります。コスト減や資源の節約、寄付者さん側の要望にもお応えして郵送資料をなるべく少なくして、メール等のオンラインコミュニケーションの比率を増やすとしても、システム利用費用や人件費等はどうしても発生します。これらの諸経費のことも考えると、一口500円あるいはそれ以下の金額設定では、得られる収益が非常に少なくなってしまう(場合によっては赤字になる)ということが伝わるのではないでしょうか。
そして、これらの支援者コミュニケーションは寄付者に団体や受益者への共感性をより高めてもらい、社会参加の度合いを高めてもらうためのものであることを考えれば、単なる削減すべきコストということではなく、ビジョン実現に向けた重要な取り組みとしてきちんと労力も必要な経費もかけて行うべきものだと私は考えます。(できないのであれば寄付を募るべきではありません)
「一口500円」で設計すべき場合も、ある
では、マンスリーサポーター制度として一口500円という設計はすべきではないのでしょうか。必ずしもそんなことはありません。実際にそうした金額設定で運用されている団体さんも少なくありませんし、それが間違っているということは決してありません。
すでに述べましたが、最低金額を低く設定できれば参加のハードルが下がり、より多くの方がサポーターへの申込みを検討することができます。例えば団体によっては学生を始めとした若い世代の支援者が多い場合もあります。既存の会員制度(正会員・賛助会員等)からの移行も意識して、近い金額設定にするという考え方を取る場合もあります。想定する寄付者層に合わせた金額設定は非常に重要です。
また、そもそもマンスリーサポーター制度の運用を財源目的ではなく運用されているという場合もあります。寄付者さんというのは単に資金の出し手ということではなく、団体が掲げているビジョンや受益者・当事者の状況、またはそれに対する事業・活動内容、活動に従事する人の姿や想いなど何らかの共感を示して寄付をしてくださっていることが多いですし、マンスリーサポーターというのは継続的に関わりを持つことを示してくださっている存在なのですが、団体さんによっては、そのような継続的な賛同者、ビジョン実現の仲間であることの表明をしてくださるという側面を重視して、制度を設計・運用しているということもあります。この場合、金額よりもより多くの人数が賛同してくださる状態を目指すべきということになりますので、最低金額はできる限りおさえるべきという考えになります。
財源としての安定性と、ビジョン実現に向けた賛同者・仲間としての側面と、マンスリーサポーター制度はそのどちらの側面も強く備えるものですが、どちらの側面をより重視した設計を行うのかは、目的によって変わるということです。あなたの団体は何を目的にマンスリーサポーター制度を導入している、あるいはしようとしているでしょうか?ぜひ考えてみていただければと思います。
マンスリーサポーター制度を導入する際に考えるべきこと
マンスリーサポーター制度の金額設定を検討する際には、そもそもの目的や団体としての狙いを検討してから導入すべきということをお伝えしましたが、目的と合わせて制度設計時に検討すべきことはたくさんあります。基本的なところでは以下のような観点です。
- マンスリーサポーター制度導入の目的は何か
- 既存の会員制度(正会員・賛助会員等)との棲み分けはどうするか
- 定款への記載や、規約等を定めるか
- 一口の金額はいくらからにするか
- マンスリーサポーター制度の名称は定めるか、寄付者は団体にとって(あるいは受益者にとって)どのような存在か
- サポーターに対して、いつ・どのようなコミュニケーション(お礼・報告・再提案)を行うか
- どのようにサポーターを募るか、どのような人にサポーターになってもらうのか
上記のうち、マンスリーサポーター制度の名称と寄付者との関係の考え方については以下の記事でも詳しく書いておりますので良ければお読みください。
上記の観点は相互に影響し合うものなので、個別にではなく総合的に考えていくべきなのですが、寄付プラットフォーム等の登録上では金額設定などごく一部しか検討しないままでも開始することができてしまいます。多くの団体が気軽に寄付者やサポーターを募ることができるようになったことは歓迎すべきことですが、設計と課題が合っていない場合や、寄付者に対しての適切なコミュニケーションができていない場合など、不適切なファンドレイジングが広がることになってしまうのは残念だと考え、本記事を書かせていただきました。参考にしていただけると幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。記事を楽しんでいただけたら、ぜひSNS等でシェアいただけますと嬉しいです。
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