NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

NPOなど公益組織支援を行うコンサルタントのブログです。ファンドレイジング、NPOマーケティングなどのテーマについて発信しています。

当ブログはアフィリエイト広告を利用しています

マンスリーサポーター制度名称に宿る寄付者とのあるべき関係性②

スポンサーリンク

マンスリーサポーター制度名称に宿る寄付者とのあるべき関係性②

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。「マンスリーサポーター制度名称に宿る支援者とのあるべき関係性」と題し、NPOのファンドレイジングにおいて重要な施策であるマンスリーサポーター制度について考える記事の2回目です。
第1回の記事をまだお読みになっていない方は先に前回の記事をお読みください。

www.daisuketsutsumi.com

 

前回の記事では、マンスリーサポーター制度という施策が持つ特徴を紹介し、マンスリーサポーター制度がNPOにとって強力なファンドレイジング施策になり得ることをお伝えしました。そして、その強力で重要な施策に取り組む上でまずは「団体と寄付者との関係性」を考えるべきだということを述べました。今回は、実際に複数のNPOの事例を取り上げながら「寄付者との関係性」とはどういうことなのかを掘り下げていきます。

 

 

マンスリーサポーター制度を作るなら名称にもこだわりを!

マンスリーサポーターを始めとする寄付者との関係性を考える上で、今回着目していただきたいと考えているのが「マンスリーサポーター制度の名称」です。制度名称というのは必ずしも必要なものではないですし、実際に特別な名称がないまま「マンスリーサポーター」「月額寄付者」としている団体も少なくありません。しかし、制度名称には各団体が考える「支援者との理想の関係性」が端的に表れていることも多く、とても良い題材になります。

これからマンスリーサポーター制度を作ろうと考えていらっしゃる団体の方は、ぜひ自組織で制度を作る場合のことを考えながら読んでみてください。

今回の記事では実際にいくつかのNPOの事例を取り上げて解説いたします。

 

事例:ワールド・ビジョン「チャイルド・スポンサーシップ」

ワールド・ビジョン チャイルド・スポンサーシップの画像

まずご紹介する事例はワールド・ビジョンさんのマンスリーサポーター制度、その名も「チャイルド・スポンサーシップ」です。数あるNPOのマンスリーサポーター制度の中でも非常に有名なものですが、今回のテーマである「寄付者との関係性」という点についても非常によく設計されていると感じます。

制度名称には支援者とのあるべき関係性が端的に表れる、というのが本記事での私の主張なのですが、ワールド・ビジョンさんの場合その関係性とは、寄付者は受益者である子どもたちにとっての『スポンサー』であるというものです。

ワールド・ビジョンは緊急支援、開発援助などを行うNGOで特に紛争、災害、貧困などで苦しむ子どもたちを世界の数十カ国で活動している団体で、その財源の多くを寄付金で募っています。日本法人であるNPO法人ワールド・ビジョン・ジャパンのHPで公開されている2020年度の財政規模は約59億円でそのうち寄付金収入は約40億円です。チャイルド・スポンサーシップはその中でも個人向け施策の中心に当たるものです。

制度の特徴は名称にも表れている通り、子どものスポンサーになるというもので、入会すると各支援者には世界中の支援地の中から特定の子ども(チャイルド)を紹介され、マッチングがなされます。この子どもと寄付者のマッチングは、単に入会時の名目上のものとなるのではなく、寄付を続ける中で団体から定期的に届く活動報告でも単にワールド・ビジョンという団体が全体としてどのような活動を行っているのか、という通り一遍の報告をするだけではなく、”自分の子ども”の成長記録や子ども自身からの手紙が届いたり、自分から子どもに向けて手紙を書くことも出来ます。

マンスリーサポーターなどの寄付者に対して、いただいた寄付に対する「お礼」を伝えたり、いただいた寄付を使って事業・活動を行ったらその活動や成果についての「報告」をしたりといった支援者コミュニケーションを実施することは非常に基本的で大切なことですが、単に「お礼」や「報告」がなされていればそれで良いということではないと私は考えています。

チャイルド・スポンサーシップのすごいところは支援者コミュニケーションで寄付者との接点を持つたびに、寄付者の側が「自分はこの子のスポンサーである」と感じられるように設計されている、ということです。自分の寄付の価値をしっかりと感じられるということは、寄付を続けるモチベーションになります。マンスリーサポーター制度を続けていく上ではサポーターの数だけでなく、どのぐらいの期間継続してもらえるか(継続率)も重要になりますが、継続率を高める上で非常に重要なのが寄付者のモチベーション(自分の寄付が確かに役に立っているという感覚)であり、それを高める上での重要なキーワードが寄付者との関係性なのです。

チャイルド・スポンサーシップについては詳しくはワールド・ビジョンさんのWebサイトよりご確認ください。

www.worldvision.jp


寄付者との関係性は活動分野や事業内容によりさまざま

では、皆さんの団体では、寄付者との関係性をどのように表現することができるでしょうか?
チャイルド・スポンサーシップの場合は、子どもというにとってのスポンサーという関係であり、子どもというのはワールド・ビジョンさんにとっては「受益者」にあたる存在です。

「寄付者との関係性」を考える方向性は大きく「対受益者」と「対団体」に分けて整理することができます。さらにいくつかの事例を紹介しながら考えていきます。

受益者との関係性を表すもの

まずはチャイルド・スポンサーシップを代表的な事例としてご紹介した「寄付者と受益者との関係」を表現する事例をご紹介します。

認定NPO法人フローレンス「ひとり親家庭サポート隊」

フローレンス ひとり親家庭サポート隊の画像

病児保育や医療的ケア児のケアなど日本の子どもや親子を取り巻く課題の解決に幅広く取り組んでいる認定NPO法人フローレンスさんの「ひとり親家庭サポート隊」です。その名の通り、寄付者はひとり親家庭をサポートする「隊員」という位置づけです。収入面で課題を抱えることの多いひとり親家庭を支えることを目的としており、団体ウェブサイトには以下のように記載されています。

ひとり親家庭を支える取り組みの画像

この制度では、毎月の寄付金額の設定についても月8,400円で一家庭を支えることができるという形で、ひとり親家庭をサポートするという側面から分かりやすく設定されています。このような寄付金の使途や価値の提示を伴う金額設定があると、寄付者としては自分の寄付の価値を具体的にイメージしやすいですね。「サポート隊員」というネーミングも合わさって、「自分が支えている」という感覚を得やすい制度だと感じます。

ひとり親家庭サポート隊の寄付金額設定

なお、フローレンスさんでは上記のひとり親家庭の病児保育利用を中心としたサポート隊だけでなく、待機児童問題・障害児保育問題・赤ちゃん虐待死問題・ひとり親の課題など幅広い事業を行うようになってきているため、フローレンスの行う幅広い活動全体を支援するための「フローレンスマンスリーサポーター」という制度も別途作成しており、現在は主にこちらのサポーター募集に力を入れていらっしゃるようです。ご興味のある方はぜひ以下のページからチェックしてみてください。

florence.or.jp

ひとり親家庭サポート隊については以下のページよりご確認ください。

florence.or.jp

認定NPO法人ReBit「にじいろバトン」

にじいろバトンの画像

続いてご紹介するのはLGBTをはじめとするマイノリティ性を持つ子どもたちや若者への支援や啓発活動などを行っているReBitさんです。そのマンスリーサポーター制度は「にじいろバトン」という名称です。

にじいろ(虹色、レインボー)はLGBTのシンボルカラーであり、LGBTの尊厳と LGBTの社会運動を象徴するものとされています。「LGBTもありのままでオトナになれる社会へ」をビジョンとして掲げるReBitさんもそのシンボルカラーを制度名称に取り入れています。そして寄付者との関係性の表現に関しては「バトン」というイメージを提示しており、そこに込められた想いは団体ウェブサイトで以下のように表現されています。

にじいろバトンとは

受益者と一緒に歩み想いのバトンをつないで欲しいという願いが非常に分かりやすく表現されていますね。そして実際にこの制度を作成するにあたって、にじいろのバトンを作成しイメージ写真をしっかりと用意されていることも、世界観を醸成し、寄付者の方に自分の寄付の価値や自分と団体やイシューとの関係性を感じさせる効果につながっていると感じます。

ReBitさんのにじいろバトンについて詳しくは以下のページをご確認ください。

rebitlgbt.org

団体や団体のビジョンとの関係性を表すもの

続いてご紹介するのは受益者との関係を直接表現するというよりは、団体や団体が掲げるビジョンや理念との関係性を表現するような制度名称の事例です。

認定NPO法人テラ・ルネッサンス「ファンクラブ会員」

テラ・ルネッサンス ファンクラブ会員

平和教育・地雷・小型武器・子ども兵の問題に取り組む国際協力NGOであるテラ・ルネッサンスのマンスリーサポーターはシンプルに「ファンクラブ会員」と呼ばれています。NPOに対する寄付というのは団体や受益者に対しての応援であり、一人のファンとして寄付をしているという寄付者の方は少なくないと思いますが、テラ・ルネッサンスさんではシンプルにその名称をサポーターの名称としても利用しています。

テラ・ルネッサンスさんでは啓発活動の一環として講演会なども積極的に行っており、ファンクラブ会員向けの講演会や説明会なども開催されています。私自身も実際に講演会を見に行ったことがあり、直接ファンクラブ会員の方とお話をしたこともありますが、「私はもう◯回以上、鬼丸さん(テラ・ルネッサンス創業者)の話を聞いている」ということを何人もの方がお話していらっしゃり、一人ひとりがテラ・ルネッサンスさんのビジョンや現地での支援方法などについて強く共感を示しているということを強く感じました。

近年マーケティングの世界では「ファンマーケティング」という言葉もある程、「ファン」という関係性やその前提としての組織や事業に対する共感が重要だと言われるようになってきていますが、NPOを応援するマンスリーサポーターという形式をシンプルに強力に体現しているテラ・ルネッサンスさんの事例は多くのNPOに参考にして欲しいと感じています。

テラ・ルネッサンスさんのファンクラブ会員については詳しくは以下のページよりご確認ください。

www.terra-r.jp

NPO法人アクセプト・インターナショナル「アクセプト・アンバサダー」

アクセプトアンバサダーの画像

続いてご紹介するのも国際協力の団体です。アクセプトインターナショナルさんは、テロリストやギャングなどを受け入れ、彼らの脱過激化・積極的社会復帰支援を実施しテロと紛争の解決を目指すという国際協力分野の活動の中でも非常に特異な活動をされている団体です。

そのマンスリーサポーター制度の名称は「アクセプト・アンバサダー」と言います。
アンバサダーとは、英語で「大使」や「使節」を表す単語で、現在では商品やブランド、サービスなどを宣伝広告する人を指す言葉としても使われるようになっています。つまり、アクセプト・インターナショナルという団体についてやその理念、事業・活動について普及啓発する役割を担う存在であるということです。

団体ウェブサイトでは以下のように表現されています。

アクセプトアンバサダーはただの寄付者ではなく同志

マンスリーサポーターになった方には◯◯をお届けします、といういわゆる寄付者特典自体は多くのNPOで用意されていますが、アクセプト・インターナショナルさんの場合には「アンバサダーとしての役割を履歴書などにアピールとして書くことも可能」「団体職員と同じデザインの名刺を作成することができる」といった形で、特典についてもアンバサダーという観点から一貫して整理されています。

団体や事業・活動について広めて欲しいということは多くの団体の方が感じていらっしゃると思います。中には、支援者コミュニケーションの機会やウェブサイト・SNSなどで「周囲の方に伝えてください」などと実際に発信しているケースもあると思います。ただ、アクセプト・インターナショナルさんのように明確に役割として表現する、ということまでできているでしょうか。ぜひ参考にしていただきたい事例です。

アクセプト・アンバサダーについては詳しくは以下のページよりご確認ください。

accept-int.org

NPO法人コモンビート「がっつりバディ」

がっつりバディ画像

続いてご紹介するのはミュージカルを活用したプログラムなどさまざまな表現活動の推進を行っているNPO、コモンビートさんです。コモンビートさんの会員制度はマンスリーサポーターではなく年会費会員なのですが、とても素敵なネーミングをしていらっしゃるため紹介させていただきます。

その名も「がっつりバディ」です。
団体ウェブサイトには以下のように書かれています。

がっつりバディになって応援する

団体が掲げる理念「個性が響きあう社会へ」に賛同し、団体とがっつりとバディを組んで欲しいという願いが端的に表現されています。
NPOの寄付会員制度は国際協力を始めとして、社会的弱者を支援するような課題解決型の事業に対するものの方がどうしても注目を集めやすいのですが、コモンビートさんのように社会に新たな価値を創造、提供する団体を応援する関係性の表現の仕方としてとしても素敵な制度名称だと感じます。

がっつりバディについて詳しくは以下のページよりご確認ください。

commonbeat.org

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回はマンスリーサポーター制度の名称とそこで表現されている支援者との関係性のあり方について実際に複数のNPOの事例を取り上げてご紹介しました。

各団体の制度名称に表れる支援者との関係を読み解きながら「自組織の場合であればどうだろうか」とぜひ考えてみてください。

最終回となる次回は、事例を見ながら考えてきた「支援者との関係」やそれが表現されたマンスリーサポーターの制度名称について実際に自組織の視点で考えてみる方法についてお伝えしていければと思います。

 

LINE公式アカウントで新着記事のお知らせをしています。
よければ友だち登録お願いいたします!
友だち追加