NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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マンスリーサポーター制度名称に宿る寄付者とのあるべき関係性③

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マンスリーサポーター制度名称に宿る寄付者とのあるべき関係性③

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。「マンスリーサポーター制度名称に宿る支援者とのあるべき関係性」と題し、NPOのマンスリーサポーターのあり方について述べる記事の3回目となります。このテーマでの記事は今回で最終回です。
今回は実際に自組織のマンスリーサポーター制度の名称を考える際にどのようなことを考えれば良いのかを述べていきますが、他団体の事例などこれまでの記事で述べてきた文脈の中でお伝えしますので、第1回、第2回をまだお読みでない方はぜひ第1回からお読みいただけますと幸いです。

 

www.daisuketsutsumi.com

 

 

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マンスリーサポーターの制度名称をどのように考えるか?

第2回の記事ではワールド・ビジョンさんの「チャイルド・スポンサーシップ」を始めいくつかのNPOのマンスリーサポーター制度の名称を見ながら、制度名称にはその団体と寄付者の関係(あるいは受益者との関係)が表現されていることや、お礼や活動報告といった支援者コミュニケーションもその関係性を強化するという観点で設計されていると、寄付者のモチベーションが上がり、寄付者との関係性が長く続きやすいということをお伝えしてきました。

今回は実際に自組織の制度名称を考えてみるという観点のお話ですが、ここまで読んできたくださった方にはなんとなく話の趣旨は伝わっているのではないかと思います。考えるべきなのは制度の名称そのものではなく、あくまで「支援者との関係性」です。制度名称はその支援者との関係を分かりやすく伝わる形に表現し直すものです。

ここからは問いの形で、支援者との関係性の考え方をお伝えしていきます。今回は3つの問いを用意しました。3つの問いはすべてを順番に答えることで唯一の正解が導き出せる、という類のものではありません。発想を広げ、団体内での議論のきっかけとするための視点、切り口として捉えていただければと思います。

考えるべき問い①:寄付者は受益者にとって(あるいは団体にとって)どのような存在か?

まず1つ目の問いは「寄付者とはあなたの団体の受益者にとって(あるいは団体にとって)どのような存在だろうか」というものです。第2回の記事で、寄付者との関係性の発想の起点として「対受益者」と「対団体」の大きく二つに分けられるというお話をしましたが、自分たちはどちらのパターンだと決め打ちをするのではなくまずは両方の観点から考えてみることをオススメします。

「どのような存在か?」という問いに対して「それは寄付者だろう」と答えたくなる人もいらっしゃるかと思いますが、具体的事実としての関係ではなく、抽象的な関係性の中で想像をしてみてください。

社会課題の解決に取り組んでいるNPOであれば、受益者が課題を抱えている困難な状況の中から、本人の努力や団体からの支援を通して、課題が解決されたハッピーな状態に向かうまでの流れを一つの物語・ストーリーとして考えてみることも有効です。受益者の方はその物語の中で主人公にあたります。では寄付者の方はその課題解決ストーリーにおいて、主人公である受益者の方にとってのどのような存在として物語に登場するでしょうか?あるいは、して欲しいのでしょうか。

団体に対しての関係性ということであれば、課題解決ストーリーの中で困難を抱える受益者の方を支え、サポートするのが団体であり団体の事業・活動です。受益者を支え、サポートすることに対して寄付者の方はどのような位置づけでその物語に登場して欲しいでしょうか。団体と一緒に受益者を支える仲間なのか、受益者を支える団体をさらに裏から強力に支える縁の下の力持ち的な存在なのか。

これは正解があるような話ではありません。自分たちの団体の場合にはどのような形がしっくり来るのか、あるいは寄付者として自分たちの存在の意義を感じやすいのはどのような形なのか、そして実際に寄付者の方に実感してもらいやすいのはどのような関係性なのかということを考えてみてください。

この問いに対してストレートに答えが出ればそれをそのままマンスリーサポーターの制度名称として落とし込むことができます。前回ご紹介した事例でもワールド・ビジョンさんの「チャイルド・スポンサーシップ」や、アクセプトインターナショナルさんの「アクセプト・アンバサダー」などこのパターンに当てはまる事例はとても多くあります。

考えるべき問い②:寄付者は受益者に対して(あるいは団体に対して)どのような価値を提供する存在か?

2つ目の問いは「寄付者は受益者に対してどのような価値を提供する存在なのか?」というものです。
この問いは1つ目の問いと似ています。

寄付者は寄付をしてくださる方ですので、実際的な問題としては活動資金という資源を提供する存在なのですが、やはり考えていただきたいのは具体的事実のレベルではなく抽象概念の話です。

1つ目の問いの中で受益者にとっての課題解決ストーリーの中で考えてみるという話をしました。この課題解決ストーリーのあり方は、どんな社会課題についての話なのか、どんな事業・活動をしているのかといったことによって様々な形があり得るので、場合によっては寄付者が受益者(あるいは団体)を支える登場人物として描くということが想像しにくいということもあるかもしれません。

そのような場合には少し視点を変えて、寄付者は寄付という支援を通して受益者に対してどんな価値を提供しているのかということを考えてみましょう。受益者側に視点を移してみると、受益者は課題を抱えた困難な状況を克服する中で差し出される支援に対してどのようなことを感じているのか、ということです。感謝の気持ちを感じる、励ましを感じる、背中を押される感じ、一人ではないと感じる、包み込まれるような感じ、優しさやホッとする温かみを感じる…など、いろいろな価値の感じ方があるはずです。あなたの団体の場合にはどうでしょうか。

前回の記事でご紹介した事例ではReBitさんの「にじいろバトン」などはこの2つ目の問いのような発想から出てくる表現のように感じます。受益者と一緒に想いをつないで次世代につないでいって欲しい、その想いのリレーは受益者だけでは団体だけでは足りなくて多くの寄付者の方たちを一緒に走っていくことで実現できるものであるという願いが表現されているのだと思います。

考えるべき問い③:寄付をすることで寄付者は何を受け取るのか?

3つ目の問いは「寄付をすることで寄付者が受け取っているものは何か」です。寄付者はおカネ(活動資金)を提供することで団体や受益者を支える存在ですが、一方的に寄付者から団体に対して提供するだけの関係性ではありません。寄付者の方は寄付という体験を通じていろいろなことを感じており、それはいうなれば寄付という行為に対しての「対価」とも言えるものです。

寄付者の方は社会課題についての問題意識や受益者の方たちが抱えている困難な状況に対して共感し、寄付をしてくださっており、受益者が困難を克服したり被害状況から回復することや、社会課題が解決することを願ってくださっています。だとしたら一番に返すべき対価というのは「成果」です。最近では社会的成果・社会的インパクトという言い方がされることも増えていますが、団体としてどの程度課題を解決することができたのか・どの程度社会に価値を提供することができたのかということです。

だからこそいただいた寄付を使って活動を行ったらその成果をきちんと報告すべきなのであり、多くの団体が活動報告書であったり各種のニュースレターなどで事業や活動の結果・成果を報告しています。これは当然大切であり必要なことです。

ただ、報告という形だけを整えれば良いということではないと私は考えています。寄付者の方に、自分自身の寄付の価値をしっかりと感じて、モチベーション高く寄付をし続けてもらうためには、寄付者の方が寄付をする際にどのような想いで寄付をし、何を受け取っているのかということをぜひ考えて、その想いに応えられるような報告の仕方、報告の内容を考えてみてください。

寄付者の想いや寄付を通して受け取っているものも団体や寄付者によってさまざまなのですが、例えば「寄付を通して社会課題の解決に関わる機会を得た」という声を挙げてくださることは少なくありません。この場合NPOは「社会課題の解決に関わる機会」を提供し、寄付者はそれを受け取っているといえます。

他にも、子どもの貧困対策やひとり親支援の活動に対する寄付者の声として「自分も小さいころ貧困家庭で(あるいはひとり親家庭で)大変なこともあった。恩返しの気持ちで入会した」という声があるとしたら、寄付者の方は「(社会的な)恩返しの機会」を受け取っているのです。

このようにして、寄付者が受け取っているであろう価値を想像することができたとしたら、寄付に対するお礼や報告の際にも単に団体として〇〇な活動をしましたという通り一遍の報告をするだけではなく、「あなたは寄付を通じて社会課題の解決に参加している」「あなたの恩返しを確かに受け取っている人がいる」と寄付者の方の想いに応えるようなコミュニケーションをすることができるようになるはずですし、マンスリーサポーターの制度名称というのはそうした寄付者の想いが象徴化されて表現されているものだといえます。

どのような想いで寄付をしてくださる方が多いだろうか、どのような想いで寄付をしてもらいたいだろうかということから発想を始め、そこから制度名称としての表現を考えてみてください。

寄付者の声を聞いてみよう

ここまで寄付者との関係性を考える3つの問いについてお話してきました。これらの問いは寄付や広報担当者の方、ファンドレイザーの方がお一人で考えるものではなく、できれば団体の多くのメンバーであれこれと議論しながら話してみるべきものです。ぜひ団体のメンバーの方と一緒に議論してみてください。
(なかなかそのような議論を団体のメンバーだけで進めるのは難しいという場合もあると思いますし、実際に簡単ではありません。ファンドレイジングに関する伴走支援ではこのような議論のファシリテーションなども行っておりますので、もしお悩みの方がいらっしゃればお気軽にご相談ください)

また、今回はマンスリーサポーターの話なので寄付者に限って話をしていますが、必ずしも寄付者だけでなく、ボランティアさんなど他の支援の形においても上記の3つの問いを考えて、支援者との関係性やその関係性を強化するようなコミュニケーションについて考えてみることもオススメです。

団体内で3つの問いについて議論した際に、なかなか議論が深まらない、うまく考えられないという場合には実際に寄付者の方にお話を伺ってみてください

寄付者インタービューや寄付者アンケートなどの形で寄付者の方が感じていることや寄付に込められた想いを明らかにすることで、今後の寄付者とのあるべき関係性を考えることはとてもオススメです。マーケティングの世界ではペルソナマーケティングと呼ばれている手法で、代表的な寄付者像を明確にすることができれば、マンスリーサポーターに対するコミュニケーションも、新規サポーターを募るための施策もより考えやすくなるはずです。また、何より寄付者の方の想いをお聞きすることはNPOの寄付担当者、ファンドレイザーを始めとして活動を行うメンバーにとってとても励みになることが多く、寄付という手法の価値を改めて感じることができると思います。

特に関係性の強い寄付者の方がいらっしゃるようであれば、上記の3つの問いを考える議論に寄付者自身にも参加してもらいながら一緒に考えるということができると良い良いかもしれません。

まとめ:無闇にサポーターを募る前に「寄付者とのあるべき関係」を考えるべし!

さて、いかがでしたでしょうか。

「マンスリーサポーター制度名称に宿る支援者とのあるべき関係性」と題し全3回に渡ってお伝えしてきました。

第1回ではマンスリーサポーター制度の財源としての特徴や、決済システムなど環境面も踏まえて施策として注目を集めている背景についてお伝えし、第2回ではサポーターを募り始める前にまず考えるべきこととしての支援者との関係性とその表現型としての制度名称について複数のNPOの事例を見ながら考えました。そして今回第3回では、実際に自組織の寄付者との関係性や制度名称を考える際のヒントとなる視点について述べてきました。

記事のタイトルとしては分かりやすく「制度名称」を強調しましたが、今回お伝えしたい肝はおしゃれな制度名称をつけましょう、ということではありません。そして、良い制度名称さえつければサポーターが集まるということでもありませんし、事例でご紹介したようなマンスリーサポーター制度がうまく行っている団体は制度名称が良いから成功しているということでもありません。

大切なのは寄付者との関係性がどのようなものなのか、どのような関係であるべきなのかを徹底的に考えることです。そして、そのあるべき関係性を実現したり、維持・発展させていくために支援者コミュニケーションを設計したり、新規サポーター募集のための情報発信を考えていくべきであるということです。

第1回の記事でも述べましたが、マンスリーサポーターは毎月寄付をし続けてくれる存在です。ビジネスモデル的にいえば昨今隆盛しているサブスクリプション型のビジネスモデルにも通じるところがある会員型のビジネスであり、ビジネスモデルとしては非常に強い形です。

だからといってビジネスモデルの側面だけから考えて、寄付者を単にお金を払ってくれるだけの存在と考えてしまうようなことがもしあるとしたら、NPOとしては終わりです。もちろん、この記事を読んでくださっているNPOの方でそのような考えでマンスリーサポーターを始めとする寄付に向き合っている方はいらっしゃらないと思います。

でも、本当に寄付者とのあるべき関係性について本気で考え、それを伝えられるように、実現できるように自分たちの制度を作ることが出来ているか?と問われたらしっかりと答えることができるでしょうか。サポーターとして毎月寄付をしてくださる方に、何を感じてほしいのか、どうなっていって欲しいのか。それを伝えるために寄付者向けの情報発信や接点を考えることができているでしょうか。

もしそれができていないのだとしたら、言葉はキツイようですがマンスリーサポーターを、寄付者を単にお金を払ってくれる存在としかみなしていないということになってしまうのだと私は思います。第1回の記事で述べた通り、技術環境的には安価なシステムも導入しやすくなり元手となる資源もほとんど考慮することなくマンスリーサポーターを募り始めることはできますし、しっかりと情報発信すればサポーターになってくださる方もいらっしゃると思います。

でも、それだけでは不十分です。もし支援者との関係について考えていない団体のマンスリーサポーターに加入した方がいたとしたら、その方はどのように感じるでしょうか。寄付に対して、団体に対して、受益者に対して、様々なことを考えながら寄付をし続けることにしたけれど、その想いに対して何の反応もなく、自分の寄付が何につながっているのかも感じることができなければサポーターを辞めてしまうかもしれませんし、そのときには「寄付をしても何も変わらない」と感じてしまっているかもしれません。

そんな「寄付の失敗体験」をさせてしまってはいけません。無闇にマンスリーサポーターを募集する前にぜひ考えてみてください。

良い寄付体験をする人が増えれば、きっとその人はもっと寄付をしようと考えてくれます。あなたの団体にも、他の団体にも。そうすればきっと地域や社会はもっと良くなっていくはずです。マンスリーサポーターという制度、施策が一般的になりつつあるからこそ、多くのNPOやNPO支援者の方に考えていただきたいなと思っております。良い寄付体験が広がっていきますように。