NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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ロジックモデルで考えるNPOマーケティングの役割

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ロジックモデルで考えるNPOマーケティングの役割

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では『ロジックモデルで考えるNPOマーケティングの役割』と題し、ロジックモデルとNPOマーケティングという一見まったく異なるテーマの関係性を整理してお伝えします。NPOに関わるさまざまなテーマの中でも同じ文脈で語れれることは少ないですが、実は非常に関連の深いテーマ同士です。

 

 

ロジックモデルとは

まずはロジックモデル自体の説明を簡単にするところから始めます。

ロジックモデルとは、ある施策がその目的を達成するに至るまでの論理的な因果関係を明示するもので、NPOの事業・活動がミッションの達成、及びビジョンの実現に繋がることを整理・確認するために活用するフレームワークです。NPOの事業だけでなく、行政における政策実施において作成されることもあります。元々は国際協力の分野で開発的な援助を行う際にその支援プログラムの成果の確からしさを確認するために使われていたものが、他分野にも活用されるようになってきたものです。※1

NPO業界においてはこの数年(日本においては2015年頃から)は社会的インパクト評価(マネジメント)を求める動きが活発化する中で、評価の前提としてロジックモデルを作成するということが増えてきています。助成金の申請書に申請事業のロジックモデルを記述することを求めるものも少しずつ増えてきており、ロジックモデルという考え方に触れたことのある方も少しずつ増えてきているのではないでしょうか。

基本的な構成としては、

投入資源(Input)→事業・活動(Activity)→結果(Output)→成果(Outcome)→インパクト(Impact)※2

の5つで構成されており、実施しているあるいはこれから実施しようとしている事業・活動等のプログラムの実施から実施後に起こる変化・影響などを5つの構成要素に分けながら整理していく考え方です。論理的な因果関係を確認するものですので、基本的には左から右に、構成要素同士のつながりを因果関係でつなげて説明できるものとなります。

「投入資源」があれば「事業・活動」を実施できる→「事業・活動」を実施すれば「結果」出る→その影響・反応として「成果」が発生する→「成果」が創出されれば最終的に掲げていたインパクトにつながる

という形で説明できるということです。あなたが普段行っている事業は上記にあてはめて論理的につながりを説明することができるでしょうか。

※1なお、社会的成果(インパクト)と特定のプログラム(事業・活動など)の論理的なつながりを整理するフレームワークはロジックモデル以外にもTheory of Change(セオリーオブチェンジ)など複数のフレームワークが存在します(フレームワークとして大きく違うというより論者により名称・呼び名が異なりつつ、内容にも多様性があるという方が実態に近いかと思いますが)。全体としてはインパクト理論(impact theory)で総称されておりますが、さらに元をたどれば「プログラム評価」という分野から受け継がれているものや共通している考え方、議論も多いため関連する情報を探したい方はこれらのキーワードを元に情報収集をしていただければ幸いです。

※2インパクトの日本語訳として「波及効果」という言葉をあてる場合も多くありますが、「波及」という言葉に含まれる派生的に影響を及ぼしていくような意味合い、つまり自分たちが意図していなかった(意図していたものの先にある)効果を期待するようなニュアンスもあり、当ブログが想定している主な読者層であるNPOセクターで自組織の事業について考える際にはそぐわない場合もあるように感じています(コレクティブインパクトなどの文脈では変わってくる部分もあると思いますが)。そもそも欧米の研究者の間でもインパクト理論におけるImpactをどのような意味合いとするか(簡単に言えば狙って起こすものか/派生的なものか)は意見が割れており、「波及効果」という訳語はその一方の論説に依ったものと認識していますので、本記事ではカタカナ用語となってしまいますが、そのまま「インパクト」としました。

ロジックモデルにおけるNPOマーケティングの位置づけ

さて、当ブログでもロジックモデルや社会的インパクト関連の記事もそのうち執筆していければと考えておりますが、さしあたって本記事の目的はロジックモデル自体の解説ではありませんので、本題に移ります。

ロジックモデルはNPO等が行う事業が自組織のミッション(社会的な役割)達成やビジョン(実現したい社会や地域の姿)実現につながっているかを確認するものですので、社会的インパクト評価の文脈では自組織の事業が確かにビジョンにつながっているかどうかを「評価」するために、事業の実施状況や、それによる受益者等の反応・変化などを測定・観測するための指標や計測方法を検討する議論に進んでいったりします。助成金の申請書にロジックモデルを記述するような場合には、申請事業が創出する成果の確からしさを論理的に示すことでどの組織のどの事業が助成に値するかを助成元が判断するための材料になったりします。

もちろんこれらの活用方法にも意義があるのですが、個人的にはロジックモデルはもっと事業改善やNPO活動の向上のための色々な文脈に使われて欲しいと考えています。そのうちの一つが本記事でテーマとしている「NPOマーケティングの役割を考える機会となる」ということです。

先日書いた「NPOマーケティングとは?非営利組織の2種類の顧客」の記事の中で、NPOマーケティングは大きく2種類に分けることができるということをお伝えしました。自組織の事業・活動を届けるべき相手に十分に届けるために行う受益者向けのマーケティングと、受益者を支えるための事業・活動に必要な資源を募る活動である支援者向けのマーケティング(≒ファンドレイジング)の2種類です。この2種類のマーケティングはロジックモデル上でその位置づけを明確に示すことができます。以下の図をご覧ください。

ロジックモデルにおけるNPOマーケティングの位置づけ

ロジックモデルの一番左の構成要素は投入資源(Input)ですが、ロジックモデルを作成し自組織が出していきたい成果の量や程度の目標にまで話が及ぶと、最終的には「ではそれだけの成果を出すためにはこれだけの資源が必要になる」と、ビジョン実現に向けて必要な経営資源がどのようなもので、どの程度必要なのかという点までを明確にすることができます。必要な経営資源を募るために、誰にどうやって働きかけを行っていけば良いのかを考えていくのはまさにNPOマーケティングにおける支援者向けマーケティングやファンドレイジングの考え方なのですが、ロジックモデルを扱う研修等では時間の制約などもあり、ここまで議論が及ぶことはほとんどありません。ロジックモデルというフレームワークとしては投入資源という構成要素が一番左に位置づけられており、因果関係の起点となるものですが、実際のNPO活動においてはその経営資源をどのように集めるのかという議論も重要です。経営資源が潤沢でマーケティングを考えなくても良いという団体はほとんどないと思いますので。

続いて受益者向けのマーケティングについてですが、ロジックモデルにおいては事業・活動(Activity)と結果(Output)のつながりをより確かなものとするというのが受益者向けマーケティングの位置づけであり役割であると言えます。ロジックモデルにおける結果は具体的な指標としては、活動を行った回数やサービスを提供した人数など事業の実施状況そのものを測る指標が設定されることが多くありますが、長期的な成果や最終的なインパクトをより大きなものとしていくためには、現在自分たちがつながりを持ち活動を提供できている範囲だけでは不十分で、まだつながることのできていない受益者に対して自分たちの情報を届け、より多くの人に価値を提供できるようになる必要があります。それを考えていくのが受益者向けのマーケティングということです。

NPOにおけるWebマーケティングの役割

昨今は新型コロナウィルスの感染拡大の影響でオフラインでの活動がしにくいこともあり、マーケティングにおいてもWebマーケティングやデジタルマーケティングへの取り組みが増えていますので、本記事の文脈においてWebマーケティングはどのように位置づけられるのかについても簡単に触れておきましょう。

ビジョン・ミッションとWebマーケティングの関係

Webマーケティングは受益者向けマーケティングに活用することも支援者向けマーケティングに活用することもありますが、どちらにおいても大切なのは「特にWeb上で獲得すべきものは何か?」を明確にしておくということです。

例えば若者の就労支援活動を行っているとして、受益者向けのマーケティングは就労支援を必要としている受益者に情報を届け、必要性を感じてもらい、実際に活動に参加してもらうために行うものです。就労支援のためのトレーニングを提供しているとして、実際にそのトレーニングの受講を決めてもらうためにはその組織が提供している就労支援の特徴や強み、実績などを伝えていくことが必要です。その取組の一環としてはWebサイト上にページを作成して情報発信することもあるでしょうし、受講へのモチベーション喚起や不安解消のためにオンラインの説明会なども開くかもしれません。こうしたWeb上の活動は概ねWebマーケティングの範疇に入ってきますが、大切なのは先に述べた通り「特にWeb上で獲得すべきものは何か?」を明確にしておくことです。

ロジックモデルで想定したとおりに事業の成果を創出していくためには、◯人の若者への就労支援を行う必要がある。そしてその人数の受講者を獲得するためにはオンラインの説明会には◯人程度の参加者を集める必要があり、それだけの参加者を募るためにはSNSでの情報発信を◯回行う必要がある

といった形です。つまり、マーケティング全体としての目的や目標が明確になっていて初めてWebマーケティングの位置づけや目標を明確にすることができるということです。

NPOがマーケティングを学ぶことには意味がある

いかがでしたでしょうか。本記事では『ロジックモデルで考えるNPOマーケティングの役割』と題し、ロジックモデルとNPOマーケティングという一見異なるテーマが実は地続きのテーマであることをお伝えしてきました。研修や書籍等ではそれぞれのテーマが個別的に扱われていることが多いと思いますが、実際にNPO活動の改善を考えていく際には、物事の優先順位を考える必要もありますし、さまざまなテーマがどのようにつながっているかを理解し、その上で優先すべきことを判断できるようになるということは大切なことだと感じます。

最後に、特に実践的に役立つ何かを書いたわけではない本記事で私がお伝えしたかったことを一言でお伝えします。

NPOマーケティング全体に精通する必要はないが、NPOがマーケティングを学ぶことには意味がある

組織の状況や活動分野によって必要なマーケティングの種類や程度は変わっていくと思いますが、マーケティング的な活動や発想が一切必要ないというNPOはほぼありえないのではないかと考えています。活動・組織全体を見直す機会にもなるロジックモデルを通してNPOマーケティングの位置づけを捉え直すことで、自組織にとってのマーケティングの必要性をぜひ考えてみていただけると幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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