NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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「専門性がついたらプロボノやりたい」という幻想

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「専門性がついたらプロボノやりたい」という幻想

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では『「専門性がついたらプロボノやりたい」という幻想』と題し、ビジネスパーソンがソーシャルセクターに関わる有力な選択肢の一つとなり、受け入れ側であるNPOにとっても大きな助けとなっているプロボノという関わり方について、学生ボランティア・プロボノを経てNPOコンサルタントとして働く私自身の経験や、プロボノ希望者やプロボノを受け入れるNPOの皆さんとお話してきたことを踏まえて考えてみたいと思います。

 

プロボノとは何か?

そもそもプロボノとは何でしょうか。日本でプロボノという言葉の浸透に大きな影響を果たし、プロボノ希望者とNPOのマッチングを行っているNPO法人サービスグラントによると、プロボノという言葉の定義は以下のようなものです。

「プロボノ」とは、「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」を語源とする言葉で、【社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かして取り組むボランティア活動】を意味します。

NPO法人サービスグラントHP( プロボノとは? | サービスグラント)より

プロボノは広い意味ではボランティア活動に含まれるのですが、従来のボランティア活動との違いは”職業上のスキルや専門知識を活かして”というところです。

プロボノ活動の本場であるアメリカでは、元々弁護士たちの無償の法律相談活動から始まったと言われています。社会的弱者や生活困窮者など弁護士費用を支払う能力の無い方たちに対して、業務時間の一部を割いて無償で支援を行うことが弁護士の倫理的な義務だと伝統的に考えられてきており、この活動が弁護士等の士業だけでなく、さまざまな業種に広がっているのが近年のプロボノ活動です。

実際サービスグラントのWebサイトでは、以下のような様々な種類のプロジェクトの支援が受けられることが記載されています。

  • Webサイトリニューアル
  • パンフレット/チラシ作成
  • 映像制作
  • 営業資料作成
  • 業務フロー設計
  • 事業計画立案
  • マーケティング調査
  • 事業評価

( プロボノプロジェクトの種類 | サービスグラント より)

活動資金が潤沢でない多くのNPOにとって、このような専門的なサービスを受けられることは非常にありがたいことです。

また、こうした活動は支援を行うプロボノにとっても意義深いものです。職業上のスキルや専門知識をNPOに提供し、成果を出すという経験は、自分自身が社会人として培ってきた力が確かに社会の役に立つということを実感する機会となり、プロボノ自身の自己肯定感や自己有用感を高める効果もあります。

プロボノ参加者の声にはそのようなプロボノ自身の満足が多く表されています(詳しくは以下のページをご覧ください)

参加者の声 | サービスグラント


「専門性」という言葉がブレーキになってしまっていないか

一方で個人的には、「職業上のスキルや専門知識」つまり専門性の提供というプロボノの定義自体が、プロボノ活動普及のボトルネックになっているのではないかと考えています。

どういうことかというと、多くの社会人は自分の専門性に自信が持てていないのではないかということです。

プロボノの定義が専門性の提供(職業上のスキルや専門知識の提供)である以上、プロボノに参加するためには自分自身が提供できるものを専門的であると自己認識している必要があるということになるのですが、自分自身の社会人としてのスキルや知識がNPO等に提供するに値するだけの専門的なものであると、確かな自信を持てている人は実はそれほど多くないのではないでしょうか。

私自身は、大学卒業後6年間企業に務めている間にプロボノ活動・ボランティア活動を多く経験していたことや、その経験を経て現在はNPOコンサルタントとして働いていることから、これまでに多くの社会人の方からプロボノやボランティア活動に関する相談を受けてきましたが、そこで多く聞くのは、

「自分の専門性に自信がない」
「プロボノに興味はあるが、まだ専門性が足りないのでまずは会社で十分な専門性を身につけたい」

といった言葉です。

私自身が20代から30代前半にかけてこうした相談を受けてきたことから相談者の多くは若手社会人であり、だからこその悩み(要は社会人歴が浅く専門性が未熟である)という部分もあるかとは思います。就職活動中の学生などからはより強く「専門性を身につけなくては」と感じている方が多いようで、専門性という言葉は多くの若者にとってある種の強迫観念のようになっているように感じます

もちろん一般的にいって、特定の専門性を身につけるのにはある程度以上の経験が必要であり、その経験を積むのにある程度時間がかかるということはその通りだと感じています。

私が多くのプロボノ希望者(希望をしていながら「今は専門性がないからできない」と判断している方)とお話していて問題だと感じるのは

「まずは専門性を身につける」

という言葉を使うときに「何をもって専門性が身についたといえるか」が本人にも曖昧になってしまっているということです。(それを自分自身で明確に定めることができているのであれば全く問題ないと思いますし、本来そうあるべきだと思います)

どうなったら専門性を有しているといえるのか、その目標が曖昧なままでは、目標達成のために何をすれば良いのかも明確にならず、いつまで経っても目標を達成することはできませんし、いつまでもプロボノ活動を始めることはできないでしょう。

資格や職業そのものが専門性ではない

ここで一つ考えていただきたいのは、専門性とは必ずしも資格や職業と紐づくものではないということです。もちろんその専門性が資格や職業と紐付いている例もたくさんあります。

例えば、本記事でも触れた弁護士などはその最たるものですし、他にも会計士や税理士などのいわゆる「士業」と呼ばれる職業の方たちはその資格が専門性を有していることを表しているわかりやすい例です。

また、士業以外にもデザイナーやエンジニアといった職業の方は提供できる専門性が提供するプロボノ側としても提供を受けるNPO側としても非常にわかりやすい例です。

このようにわかりやすく資格や職業名と専門性が紐づく方たちもいる一方で、その他の多くの業種・職種の方の社会人としての経験やスキルは一言で言えるようなわかりやすいものではないことが多いのではないでしょうか。

こうした感覚というか悩みは社会人として働き始めた頃の私自身が強く感じていたことでもあります。私は大学卒業後に楽天に新卒入社し、社会人一年目の秋頃からプロボノとして活動するNPOを探し始めたのですが、当時の私には「これができる」という明確な専門性をその時点で持っていないどころか、この先楽天で働き続ければ「●●の専門性がつく」と思えるようなものすらもありませんでした。

当時私が楽天の中で携わっていたのは楽天のポイント関連のサイトの(一部コンテンツの)運用や広告の運用管理(リスティング広告等の運用型広告ではなく、メール広告等の純広告の審査や配信設定、レポート作成など)といった業務でした。Webビジネスに関する知識や経験が積める、という漠然とした想いでいた私が未熟だったと今では思いますが、当時の私にとっては自分が担当している業務はあまりにもつまらなく、ビジネス全体の中での意味や意義をほとんど感じることができない業務であり、それが何らかの専門性につながるとはまったく想像もつきませんでした。

私が新卒入社したのは2010年で、新卒一年目も終わりかけた2011年の3月に東日本大震災が発生しました。当時千葉県浦安市に住んでいた私自身も液状化の影響で数ヶ月自宅に住めなくなるという被災体験をしましたが、私にとってショックだったのは自身の被災体験よりもむしろ、楽天に入って一年経ったのにいざというときに何ら社会の役に立つ方法を考える発想も具体的に行動を起こすのに必要なスキルも何も身についていなかったという事実でした。インターネットを見ればたくさんのWeb系、IT系のビジネスパーソンが被災地支援のサービス開発を行っているのを横目に私は打ちひしがれていたのでした。

少し私自身の話が長くなってしまいましたが、私と同じように自分の社会人としての経験がどのような専門性に結びつくのかがわからないという悩みを持っている方はプロボノ活動を希望しているかどうかに関わらずたくさんいらっしゃるのではないかと思います。

そうした方たちにこそ伝えたいです。まずプロボノを始めましょう!と。

まずは飛び込んでみるべし

自分自身の仕事がどのような専門性に結びつくのかが明確になっていたり、「●●のスキルを身に着けたい」という専門性が明確に持てているという方はぜひそのまま突き進んでいただければと思います。

そうではなく、

「いつかプロボノをしてみたいと思うけれども自分にはまだ専門性がないからとりあえずは専門性をつけようと思う」
「何年か働いているけれど自分の専門性に自信がない」
「自分の仕事が何の専門性に結びつくのか分からない」

このように感じている方がいらっしゃれば、まずプロボノを始めてしまうことをオススメします。

必要なのは発想の転換です。

専門性があるからプロボノを始める

これが多くの場合想定されているプロボノの始め方ですが、

プロボノ活動をすることで初めて自身の専門性が分かる

ということも実は多くあるのです。

私自身はそうでした。実際に社外の活動をしてみて初めて、社会人になっても何のスキルも身についていないと思い込んでいた自分に、NPOの人からはありがたがられるスキルが身についていることがわかりました。それは「デザイン」や「プログラミング」のようにわかりやすいスキルではなくとも「KPIを策定する」ことやそのKPIの「管理表を作成すること」「管理表を使って施策の振り返りや簡単な分析ができること」という、それまでスキルとすら認識していなかった自分の会社では当たり前の業務の一部が求められたり、SNSやその他のWebサービスの利用経験が重宝されたりといった経験です。

また、ひとくちにスキルといっても、社会人のスキルには評価基準が明確なハードスキル(士業を筆頭にTOEIC等も含めた資格全般は最たるものですし、プログラミング言語やSEO対策など明確に伝えやすいものはハードスキルに分類されることが多いでしょう)だけでなくコミュニケーションスキルや問題解決能力、アイディアの発想力といったチームで働く上で重要となるけれどもいわゆる「スキル」「専門性」とは認識されにくいソフトスキルと呼ばれるものもあります。そうしたスキルの種類や、自分自身のそうしたスキルの習熟具合は会社といういつもと同じ人たちといるだけではなかなか気づきにくいものだったりします。

さらに、NPO等の現場で必要とされた業務やスキルがすぐに自分自身が引き受けられないものだったとしても、NPO等の社外の活動において、どのようなスキルが必要とされているのかを目の当たりにすることで、今後自分が会社の中でどのような経験を積むとそれが会社の外でも使えるものなのか具体的に考えられるようになります。

つまり、曖昧なままでは強迫観念にすらなりかねない「専門性」をプロボノという社外活動を実際にすることで具体的な課題や目標に変えることができるということです。

まとめ

ということで、本記事では『「専門性がついたらプロボノやりたい」という幻想』と題し、プロボノという活動としばしばその前提とされる「専門性」について考え、お伝えしてきました。

「いつか専門性を得てからプロボノをやりたい」と考えている方にはぜひすぐにその一歩を踏み出していただければと思います。

ただし、当然のことですが、自分自身ができない・自信のない業務を安請け合いして活動先の現場に迷惑をかけることはないようにご注意ください

プロボノ活動も広い意味ではボランティア活動であり、個人の自発的な意思に基づく自由な活動ですので、やりたいと思ったことにはどんどんと挑戦すべきなのですが、自由であることは無責任でいても良いということではありません

やったことがないけれども、自分の専門性に自信はないけれども挑戦したいというものがあれば、経験の不足も含めてお伝えした上でチャレンジさせていただけるように話してみたりすることも場合によってはできると思います。また、社会人がNPOに関わるのは必ずプロボノでなくてはいけないということでもありません。特定の業務やスキルの提供とは直接は結びつかないボランティアという関わり方もありますし、NPOによってはチャレンジの姿勢や意欲を重視したインターン制度を社会人向けにも用意している団体もあります。そうした関わりでまずは現場を知り、自分が身につけたいと思える専門性を明確にする機会をつくっていくこともできますので、「いつか身につくはず」という専門性の幻想に埋没すること無く、積極的にNPOに関わってみていただけると良いなと思います。

 

ちなみに。何の専門性を得たいかはもう明確になっていて、そこから先のステップをうまく考えることができない、という方は以下の記事をぜひ読んでみてください。

 

www.daisuketsutsumi.com

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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