NPO支援家堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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NPOマーケティングとは?非営利組織の2種類の顧客

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NPOマーケティングとは?非営利組織の2種類の顧客

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では『NPOマーケティングとは?非営利組織の2種類の顧客』と題し、NPOにとってのマーケティングについて、その基本的な捉え方や考えるべきポイントを整理してお伝えしたいと思います。

 

 

マーケティングの定義や捉え方は様々

冒頭から明確でない話となり恐縮ですが「NPOマーケティングとは◯◯」と一言できれいに定義をすることは難しいです。そもそもマーケティングは一般的に営利事業において使われる考え方ですが、営利の世界におけるマーケティング自体に様々な定義の仕方や考え方が存在しており、わかりやすく一言でまとまった”正解”のようなものはなかなか見つけることができません。

例えばマーケティングをWikipediaで調べると以下にように記載されています。

企業などの組織が行うあらゆる活動のうち、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」ための概念である。また顧客のニーズを解明し、顧客価値を生み出すための経営哲学、戦略、仕組み、プロセスを指す。

一般的な企業活動のうち、商品・サービスそのものの企画・開発・設計やブランディングから、市場調査・分析、価格設定、広告・宣伝・広報、販売促進、流通、マーチャンダイジング、店舗・施設の設計・設置、(いわゆる)営業、集客、接客、顧客の情報管理等に至る広い範囲がマーケティング活動の対象となり、様々な手法や論点がある。

また、企業活動のうちで、直接顧客と関係しない製造ライン、研究、経理、人事などの部門は、一見マーケティング活動とは距離があるが、顧客価値を生むという視点ではこれらの部門や組織もマーケティングと有機的に結び付いて機能する必要がある。

マーケティング - Wikipedia

非常に幅広い概念であることが分かりますが、特に一番最初の行の「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」ための概念という点は、NPO活動においても理解しやすい捉え方ではないでしょうか。

マーケティングとは「売れるための仕組みづくり」

NPOマーケティングの定義

歴史的にはマーケティングという考え方は大量生産時代に入って大きく発展してきた考え方で、より大量に製品・サービスが売れるために行う活動という捉え方もできます。この文脈において印象的な言い方として

マーケティングは売れるための仕組みづくり

という言い方をされる場合もあります。この考え方をNPOにおいて適用するとどうなるでしょうか。

そもそも営利組織においてなぜ「売る」必要があるのかといえば、それは営利組織の存在理由が「利益の最大化(利潤の最大化)※」であり利益を最大化するために製品やサービスを「売る」ことが必要なのです。つまり、営利組織としての存在理由(言い換えれば社会から求められている役割)を全うするための仕組みづくりをするのがマーケティングである、と捉えることもできます。

では、非営利組織の場合にはどうでしょうか。営利組織の存在理由が「利益の最大化」だとすれば、非営利組織の存在理由は「社会課題の解決(あるいは社会への新しい価値の提供)」ということができます。このように考えるとNPOにおけるマーケティングのは「社会課題解決のための仕組みづくり」と捉えることができます。

ここで先に引用したWikipediaの定義「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」に戻ると、活動の対象者が求めるサービスを作り、対象者がその価値を得られるようにするための仕組みを作るための取り組みと考えることができます。では次に、そもそもNPOにおける活動の対象者とはどのように捉えることができるのかを考えてみましょう。

※営利組織の社会的な役割は「利益の最大化」であるとするのはノーベル経済学者で新自由主義の始祖とされるミルトン・フリードマンです。彼は「企業の社会的責任とは株主のために(本業で)利益を追求することで、それ以外(の社会的活動)で責任を引き受けるのは自由社会の基盤を崩す恐れがある」と主張していますが、近年ではCSR(企業の社会的責任)活動を行うことは一般的になってきており、SDGsなどの文脈も絡めて地域社会への貢献も企業の社会的役割の一つであるという考え方が徐々に広がってきています。

NPOマーケティングの対象:NPOの2種類の顧客

受益者向けマーケティングと支援者向けマーケティング

NPOマーケティングの2種類の顧客

上記のようにマーケティングの定義や考え方自体はさまざまにありますが、顧客に対して価値を提供する取り組みであることは確かです。では、NPOにとっての顧客とは誰でしょうか。顧客という言葉自体に製品やサービスに対して対価を支払ってくれる存在という営利活動における関係性と結びついた印象をお持ちの方も少なくないと思いますが、営利であれ非営利であれどのような活動、組織であっても何らかの目的を持って活動を行う組織であれば必ず顧客は存在します。そもそも顧客を満足させることが組織が存在する理由であるという捉え方もできますので、この意味では顧客のいない組織というのはありえません。

アメリカの経営学者でマネジメント研究の第一人者であるピーター・ドラッカーは非営利組織の経営に関してもさまざまな考えを示しており、その中でNPO(非営利組織)には2種類の顧客がいると述べています。

まずひとつ目の顧客は「活動の対象者」です。活動の内容や種類によって「受益者」「当事者」「参加者」「利用者」など呼び方はさまざまあるかと思いますが、そもそも誰を支えるために、誰に届けるために活動を行っているのか?という問いの答えとなる存在です。主な事業・活動の対象者であり、これは営利組織における一般的な顧客のイメージからも捉えやすいものではないかと思います。活動の対象者に対するマーケティングというのは、つまりは社会課題に直面しているなど困りごとを抱えている方(受益者)に対して、自組織の事業・活動・製品を提供することを指します。

もう一方の顧客はNPOならではの存在です。ピーター・ドラッカーは「活動のパートナー」という言い方をしています。具体的には寄付者やボランティアなど活動を支える支援者のことです。NPOにマーケティング等のコンサルティングを行っている長浜洋二さん(私の元上司です)は著書の中で支援者向けのマーケティングを

寄付やボランティアなどの支援を獲得するための活動

と定義し、その具体的な種類を「金銭的支援(寄付・会費など)」「物品支援(物品・会議室など)」「人的支援(ボランティア・プロボノなど)」の3つの分類で示しています。

ピーター・ドラッカーと長浜さんの言葉はそれぞれ以下の書籍をご確認ください。

ピーター・ドラッカー『非営利組織の経営』

長浜洋二『NPOのためのマーケティング講座』

従業員・メンバーなど仲間集めはどちらに分類されるか

NPOマーケティングの対象は受益者向けと支援者向けの2つがあるという話をしてきましたが、NPO活動に関わる重要な存在として活動を担う「従業員・メンバー」などを募る活動はどちらに分類されるでしょうか。

この点については活動の種類によって変わると私は考えています。

例えば国際協力分野の活動においては受益者というのは支援国の現地の人びと(例えば「紛争地の子ども」など)のことを指しており、その活動を担う従業員やスタッフ、そしてボランティアなどは有給・無給の違いはあってもどちらも受益者を支える存在であり、同じ「支援者」と捉えることができます。こうした活動の場合には従業員としての仲間を募る取り組みは支援者向けのマーケティングの一環として捉えることができます。

一方で、例えばアルコール依存症の方の自助グループ活動を運営しているような場合には、活動を担うメンバー自身が「当事者」であり、事業・活動の主な対象者となります。このような場合の仲間集めの取り組みは「受益者向けマーケティング」に分類する方が適しているでしょう。

このように活動の内容によって「仲間」とはどのような関わり方の人かが変わり、それに応じてNPOマーケティングにおける捉え方も変わるといえるでしょう。

ファンドレイジングとの関係(支援者向けマーケティング≒ファンドレイジング)

続いてファンドレイジングとNPOマーケティングの関係についても考えてみましょう。

ファンドレイジングはNPOを支え、広げていくためのリソースを募る活動としては業界内では広く認識される考え方になってきました。ファンドレイジングという言葉自体にも定義は色々あり、寄付・会費を募る活動という狭義の捉え方から、NPO活動やそのビジョンの実現に必要な資源は金銭的なものも人的なものもすべてについて考えていくものであるという広義の捉え方までさまざまあります。
(なお、ファンドレイジングの定義については以下の記事で詳しく解説していますので良ければお読みください。)

 

www.daisuketsutsumi.com

 

ファンドレイジングの定義のうち最も広い定義のものは、NPOマーケティングのうち「支援者向けマーケティング」とほぼ同じことを指しているといえます。

ただ、ファンドレイジング自体もさまざまな活動を含みますので、ファンドレイジングで行う活動すべてをマーケティングの考え方だけで捉えきることはできません。例えば金銭的な側面としてのファンドレイジングの中には、寄付・会費の他にも、助成金や委託などの他の財源を含む場合もあり、これらはマーケティング的な発想だけでは捉えきれない部分もあります。また、寄付・会費収入もその対象は個人ではなく、法人が対象となる場合もあり、法人を対象としたファンドレイジングにおいてはマーケティング的な発想が使われる場面もあれば営業的な発想が必要になる場合もどちらもあります。

実際の活動においてどの言葉を使うかということ自体がそれ程問題になることは少ないと思いますが、情報収集をする際や戦略の練り直しなどを行う際には、自組織がいま必要としているものは何かということを上記の定義や共通点などを参考にしながら考えていただけると良いでしょう。

すべてのNPOに2種類の顧客向けのマーケティングが必要な訳ではない

さて、ここまでNPOマーケティングの考え方についてその基本的な捉え方をお伝えしてきましたが、これからマーケティングに取り組みたい・取り組む必要があると考えているNPOの方や、NPOのマーケティングを支援していきたいと考えている方にぜひ意識していただきたい点をお伝えします。

それは「すべてのNPOに受益者向けマーケティングと支援者向けマーケティングのどちらもが必要な訳ではない」ということです。組織の形態や成り立ち、活動の内容によってはいずれかのマーケティングがそれほど重要ではないということがあり得えます。この辺りにNPOマーケティングという言葉や考え方があまり業界内でも(「ファンドレイジング」などと比べると)日常的に使われる言葉にはなっていない原因があるのではないかと私は考えています。

受益者向けマーケティングがあまり必要ではない場合はあり得る

例えば私は学生時代に児童養護施設での学習支援活動を行うボランティアサークルに所属していたのですが、この活動においては受益者向けのマーケティングは必要ではありませんでした。活動の内容としては、週に一度サークルのメンバーで児童養護施設へ訪問し、そこで生活している小学校1年生から高校3年生までの子どもたちに1時間程度の学習指導を行うというものです。子ども一人に対して担当の学生がつき、最低一年間は同じ担当で毎週の学習を行う、という形式の活動でした。この活動における「受益者」とは児童養護施設の子どもたちを指しますが、ボランティアサークルとしての私たちが児童養護施設により多くの子どもたちを集めるためにマーケティング活動を行う、ということはありえません。

毎年3月には高校を卒業した子どもが退所し、4月からは新一年生に上がる子が学習指導の対象に入ってきますし、学生の側も毎年卒業していってしまいますので、一対一の学習指導の体制を維持し続けるために「今年度は◯人の新メンバーを迎える必要がある」という形で新歓活動という名のボランティア向けのマーケティングは必要になりますし、毎週施設に向かうための車のガソリン代や教材購入の補助費とするなどの理由で学生団体向けの助成金に申請するなどのファンドレイジング(金銭的な意味での支援者マーケティング)は行っていましたが、受益者向けのマーケティング自体はそれほど重要ではありません。もちろん、受益者の数を増やすということだけがマーケティングではなく、受益者のニーズに応えより良い活動を提供することもマーケティングに含まれますが、「子どもたちとより良い関係を築くためにどうしたら良いか?」「より良い学習指導を行うにはどうしたら良いか?」といったことは、マーケティングという言葉にとらわれずとも当たり前に考えていましたので、特段マーケティングという側面を意識する必要はなかったのです。

かなり具体的な例を出してしまいましたが、このように特定の福祉施設や既存のコミュニティを対象として活動しており、その対象の拡大ということを望む必要がない場合には受益者向けのマーケティングがそれほど重要ではないということがありえるといえます。

支援者向けマーケティングがあまり必要ではない場合はあり得ない?

続いて支援者向けマーケティングについてです。支援者向けのマーケティングというのは要は寄付者やボランティアなどの活動を支えるための資源を募る取り組みのことですが、例えば事業収入が中心で寄付・会費収入をほとんど得ずにビジネスモデルを成立させている場合や活動内で必要とされる専門性が高く、ボランティアが活用しにくい活動などは支援者向けのマーケティングがあまり重要ではないケースと言えるでしょう。

ただし、こちらのケースについては少し注意が必要です。NPO活動は成り立ちとして市民活動の流れも汲んでおり、社会課題の解決だけでなく市民の社会参加の促進もその社会的な役割であるという考え方もあります。この文脈で考えると寄付やボランティアといった市民が参加する機会を設けないとしたら、それはNPOとしての重要な意義に欠けていると言えるかもしれないのです。何より自組織が理想として描くビジョンが実現に至るためには、少なくとも多くの市民がそのビジョンに共感を示していることが必要なはずで、寄付やボランティアによる参加というのはその行動自体がビジョンに対する共感や賛同を示しているものとも言えます(言い換えれば、寄付者やボランティアが増えるということは、一歩ずつビジョンの実現に近づいている、と捉えることもできます)。

事業収入型などビジネスモデルによっては経営資源としての寄付財源が重要ではない場合や、人的資源としてのボランティアが活動内容的に活用しにくいということはありうると思いますが、それでもビジョンの実現に向けて市民参加をどのように捉えれば良いのかと少し広い視野で捉えれば、基本的にはどのような非営利組織においても何らかの支援者向けマーケティングは考える必要のあることだと私は考えます。

まとめ:自組織がいま必要としているのはどのようなマーケティングか

いま必要としているのは何か?

いかがでしたでしょうか。本記事では『NPOマーケティングとは?非営利組織の2種類の顧客』と題し、NPOマーケティングの基本的な考え方や活動の内容や状況によっての必要性の違いなどを整理してお伝えしてきました。

NPOのマーケティングには2種類の顧客が存在するというのが営利組織におけるマーケティングとの一番の違いであり、その対象によって受益者向けのマーケティングと支援者向けのマーケティングに分けることができます。そして、すべてのNPOが2種類のマーケティングのどちらもに力を入れなくてはいけない訳ではなく、活動内容やビジネスモデルによってはどちらか一方はそれほど重要ではない場合もありうることをお伝えしました。ただし、支援者向けのマーケティングというNPOならではのマーケティングは市民の社会参加というNPOの社会的な存在意義にも関わる点なので、理想とする地域や社会の実現に向けて自組織ならではのあり方を考える必要があるということを意識していただければ幸いです。

まずは本記事の内容を踏まえて、自組織のマーケティングにおける課題は何で、受益者向けマーケティング/支援者向けマーケティングのどちらを強化していく必要があるのかを検討してみることから初めてみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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