NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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受益者目線で発想するNPOにとっての「競合」とは

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受益者目線で発想するNPOにとっての「競合」とは

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では、「受益者目線で発想するNPOにとっての「競合」とは」と題し、マーケティング戦略を考える上で重要な概念である「競合」について、NPOとしてどのように捉えるべきなのか、ポイントを整理していきます。ご自身の団体の戦略、事業の改善のために意識できていなかった点がないかチェックしながら読んでいただければ幸いです。

 

 

競合とは顧客にとって比較検討の対象となり得るもの

そもそも「競合」という言葉の意味は

①せりあうこと。きそいあうこと

②(法)私法上、単一の事実または要件について、評価あるいはその効果が重複すること。また、刑法で、一個の行為が数個の罪名にあたること

競合とは - コトバンク

 というもの。NPOも含めた組織運営やビジネスにおいて使われる意味合いは主に①にあたります。自社(自組織)が進出する分野や業界において競い合う他の事業者のことを「競合他社」と呼び、通常ビジネス文脈における「競合」とはこの「競合他社」を略した意味合いとして使われていることが多いでしょう。

マーケティング戦略を考える上では非常に基本的かつ重要な概念で、「競合」という単語自体を聞いたことのない方は少ないのではないかと思います。事業戦略・マーケティング分析の有名なフレームワークに「3C分析」というものがありますが、これは「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」という3つのCの視点から分析を行う考え方です。このシンプルですが非常に強力な分析フレームワークにも「競合」の視点が含まれているように、事業戦略・マーケティング戦略を考える上では非常に重要な視点であるといえます。

このビジネスにおける「競合」という概念を考える際に大切にして欲しい点は、自組織にとっての視点だけではなく、自組織の顧客にとっての視点で広く捉えるという点です。自組織と同様の分野で類似の事業や活動をしている他組織・他団体が分析すべき「競合」であることは間違いありませんが、それだけでは不十分だということです。

競合とは、顧客にとって比較検討の対象となり得るもの

NPOにとっての顧客とは、事業・活動について言えば「受益者(対象者・利用者・参加者…呼び方はさまざま)」ですし、ファンドレイジングにおいては「寄付者(ボランティアなどヒトも含む場合は「支援者」)」です。顧客視点で競合を考えるとは、自組織の受益者にとって、自組織の事業以外に比較検討できる対象は何か?という点を考えることが大切だということです。

居酒屋「和民」の競合は携帯電話という発想

居酒屋「和民」の渡邊社長は「競合はどこか?」という問いに対し、携帯電話が自社にとっての競合であると答えたという逸話があります。

居酒屋和民の売りの一つは安価であることで、主なターゲット顧客層を若者としていましたが、当時携帯電話が若者世代に普及し、若者は携帯電話の利用や携帯電話上のコンテンツ(着メロなど)にたくさんのお金と時間を使うようになり、居酒屋に来なくなってしまう、という風に捉えたからです。

当然居酒屋という業態を経営する中で、他の居酒屋チェーンや他の飲食店なども競合他社として分析はしていたと思いますが、それだけにとどまらず自社の顧客にとって他の選択肢になりうるものは何か?という視点で自社にとってのリスクを広く捉えることで、リスクに対応するための新たな戦略を考えることができるようになります。

このように顧客にとっての目線で捉える競合のことを「代替品」という言葉で捉えることもあります。

(競争戦略論のマイケル・ポーター氏が提唱した業界分析手法「ファイブフォース分析」では「売り手の交渉力」「買い手の競争力」「競争企業間の敵対関係」「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」の5つからその業界の収益性を分析します。この文脈では既存製品・サービス以外に顧客のニーズを満たす新たな製品・サービスが現れることで収益性が低くなる可能性があるというものですが、本記事で私がNPOの皆様向けにお伝えしたいのはどちらかというとNPOの事業・活動の方が新規に参入する立場であり、それは既存製品・サービスに変わりうるだけの魅力・価値を持つものだろうか?という視点です)

NPOの事業・活動で考える受益者目線の競合例

ここからはNPOの事業・活動の例を挙げながら受益者目線で捉える「競合」について考えてみましょう。

イベントを開催する場合の競合の捉え方例

NPOの活動の中では何らかのイベントを企画・開催することも少なくありません。この場合「競合」はどのように考えることができるでしょうか。

まずは、基本的な「競合他社」の視点です。イベントの場合であれば例えば「同じ時期に同じ地域で開催される他のイベントや催し物」が該当するでしょう。

では、次に顧客目線で比較の対象となり得るものと広く捉えるとどうでしょうか。イベントに参加して欲しい主な対象者にとってイベントに行く以外に、同じように時間を使う対象となるものは何か、ということです。これはそのイベントがどのような人(例えば年齢やジェンダーなど)を対象としているかによっても変わります。

例えば高齢者を対象とした健康増進を目的としたカンタンな運動を体験できるイベントを企画していたとして、普段その高齢者の方たちがイベント開催と同じ時間帯にはいつも何をして過ごしているのか?ということを考えてみるのも良いかもしれません。普段は家の中でテレビを見て過ごしている、ということであればテレビを競合と捉えて、その魅力にまさるような伝え方ができないとイベントには来てもらえない(つまり、「テレビを見るより面白そうだ」と思ってもらう必要がある)、ということになります。

NPOなどの非営利の社会貢献活動をしている方の中には、「社会に良いことをしているのだから来てもらえるハズだ」と(言い方は悪いですが)居直ってしまっているような印象を受けることもあります。社会にとって、受益者の方にとって良いものであるということを信じて場をつくることは大切ですが、そこで思考を停止させ相手目線で考えることを止めてしまってはせっかくの価値も相手には届きません。相手にとって何が価値を持つのか、比較対象は何なのか、どうすれば比較の土俵に登り、こちらを選んでもらえるのか、相手目線で徹底的に考え抜きましょう。

また、昨年から今年にかけては新型コロナウィルスの感染拡大により多くの団体のイベントがオンライン化しています。これによって競合と捉えなければならない対象も大きく増えたといえます。多くの団体のイベントがオンライン化していますので、イベントの開催地域や対象者の住んでいる場所ということが問題にならなくなり、一気に競合が全国化していますし、NPOだけでなく、企業等の手間やお金のかかった豪華なイベントとも競合してしまうことも起こっています。このように社会や顧客の状況の変化によっても競合の捉え方や考えなければならないポイントは変わってきます。

子ども向けの居場所事業を実施する場合の競合の捉え方例

続いては子ども向けの居場所事業を実施する場合について考えてみましょう。地域内の他の事業者と比較して居場所としての居心地の良さや、支援スタッフの質、アクセスのしやすさ…など様々な観点で比較分析を行う「競合他社」の視点での分析を行った上で、やはり受益者目線での競合分析も必要です。

これもそもそもどのような子どもを対象に、どのような居場所事業を行っているのかということによって考えるべきポイントはさまざまですが、対象者である子どもにとって、居場所に来ることと比較の対象となりうるものは何か?という視点で考えます。

例えばそれはゲームやアニメ、漫画かもしれません。あるいはSNSなどインターネット上のものかもしれません。そうしたものの中には子どもたちにとって必ずしも良いものばかりではなく、有害になりうるものも含まれる場合もあるでしょうし、そもそもの動機としてそのような有害なものから子どもたちを守るために居場所事業を運営しているという場合もあるでしょう。

しかし、子どもたちにとって良い(と自分たち大人が考える)居場所だからといって、それが子どもたちにとって魅力的に映るかどうかや子どもがそこに来てくれるかというのは別問題です。いくらサービスを提供する大人目線では”良い”ものだったとしても、子どもたちにはその価値は伝わらないかもしれないのです。

子どもたちの身の回りにあるもの、子どもたちが時間や関心を向けているものが、子どもにとってどのような魅力を持ち、どのような価値を提供しているのかを子どもの目線で捉えてみましょう。その上で、そうした既存の価値から顧客(子ども)を「奪う」という発想ではなく、連携をしたり、共存していくという発想をしてみることも大切です。

(例えばですが、子どもたちがYouTubeやYouTuberにハマっているとしたら、YouTuberとコラボすることであったり、「YouTuber配信体験」のような企画をすることは魅力的に映る可能性がありますよね)

先日書評ブログで芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』の書評を書いたのですが、発達障害の主人公にとってアイドルを応援する「推し活」が生活上の拠り所としての居場所になっているという側面について、本記事の「競合」という文脈に触れつつ書いておりますので、よければお読みください。

daisuket-book.hatenablog.com

まとめ:競争相手としてだけではなく将来的な「協働」相手として捉える

本記事では事業戦略・マーケティング戦略における「競合」の捉え方について「競合他社」的な視点での同業者だけでなく、顧客(受益者)目線で他に比較検討の対象となり得るものは何かという視点で広く捉えることが重要であるということをNPOの活動場面も例示しながらお伝えしてきました。

最後に、NPOにおける「競合」の捉え方として忘れてはいけない大切な点をお伝えします。

それは、競争相手としてだけではなく将来的な「協働」相手として捉える、ということです。

特にこれは「競合他社」としての同業者の場合に強く言えることですが(受益者目線で広く捉える対象についても当てはまる場合もあります)、顧客を奪い合う競争相手として捉えるのではなく、同じ受益者と対象として、受益者にとってのより良い社会、地域づくりに取り組んでいる仲間として「協働」的な動きをしていくことのできる将来的なパートナー候補として捉えることもできるのではないか、ということです。

NPOが掲げるビジョンや理念は多くの場合非常に大きなもので、その実現には自組織だけの力では足りないということも少なくありません。その場合には、地域内の他のプレーヤー、ステークホルダーと協力して課題解決にあたっていくことが受益者にとってより良い地域社会を作っていくのに必要な一手となることもあるでしょう。

将来的に手をとりあって一緒に課題解決にあたっていくためにも、他の組織と自組織の特徴を分析し、自組織の強みは何かということを認識して事業づくりをしていくことは重要なことですので、本記事の視点を参考に自組織にとっての「競合分析」に取り組んでみていただけると幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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