こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では「NPOでも対応するべきデジタルマーケティングの5つの特徴」と題し、デジタルマーケティングの基本的な特徴をNPOマーケティングの現場においてどのように理解し、対応するべきかについてお伝えしていきます。先日公開した「デジタルファンドレイジングとは?新たな言葉をどう受け止めるか」の記事の続編として、主にファンドレイジングの文脈に沿って書いていきますが、ファンドレイジングだけでなく、受益者向けのマーケティングにおいても転用いただけるものだと思います。
- デジタルファンドレイジング?デジタルマーケティング?Webマーケティング?
- NPOでも対応するべきデジタルマーケティングの5つの特徴
- ①検索性
- ②双方向性
- ③即時性
- ④ターゲティング
- ⑤パーソナライゼーション
デジタルファンドレイジング?デジタルマーケティング?Webマーケティング?
先日の記事で、デジタルファンドレイジングとは「デジタルマーケティングの知見を活用してファンドレイジングを行う手法」であると解説しました。ただ、その定義は正直明確ではないと考えています。デジタルファンドレイジングという言葉が使われる場面はまだまだ少なく、業界内で統一した定義がなされるには程遠い状況ですし、そもそもその知見を活用するとしている「デジタルマーケティング」すらまだその定義や範囲はかなり曖昧なものだと感じています。
本記事では以下で「デジタルマーケティングの5つの特徴」を解説していきますが、その5つの特徴も必ずしもデジタルマーケティングならではというものではなく、「Webマーケティング」の特徴として語られていたものと共通しているものも少なくありません。それでも同じキーワードの中でも特にデジタルマーケティングにおいて重視される「データの活用」という点を考慮しながら、NPOマーケティングにおける文脈から意識すべき点を読み解いていきたいと思います。
ということで、まだまだ体系立った情報にはなっていないことには留意しつつお読みいただければと思いますが、全体の定義はともかくとしてもご紹介する「特徴」のそれぞれの観点は、各NPOが日々のファンドレイジングや情報発信において十分に理解しながら取り組んでいくべきものだと感じていますので、自組織の日々の振り返りをしながら読んでいただけると幸いです。
NPOでも対応するべきデジタルマーケティングの5つの特徴
ここからはデジタルマーケティングのさまざまな特徴のうち、NPOでも意識して対応することを目指すべきものを5つお伝えします。皆さまの組織では、ファンドレイジングや情報発信において、それぞれの特徴を活用できているでしょうか。
①検索性
まず一つ目は「検索性」です。NPOや市民活動の文脈では「情報発信」という言葉が非常によく使われますが、どのような情報をどのように発信するのか?ということを考えるだけでなく、インターネット上では「検索されるものである」ということを常に意識する必要があるということです。
検索され、比較検討される
寄付においても、団体スタッフと個人的に関係性のある方でなければ、寄付先を選ぶ際に検索され、比較検討されることは多くあります。例えば「子ども 寄付」といった形で特定の分野や受益者に対する関心から寄付先候補となる団体を検索して比較する、ということです。
検索される側であるNPOとしては、他のNPOと比較検討される中で選ばれる理由をきちんと示す必要があります。あなたの団体では、なぜ他団体ではなくあなたの団体に寄付すべきなのかを自信を持って説明できるでしょうか?
選ばれる理由の伝え方を含めてWebサイト上での表現方法については以下の記事で詳しく書いておりますので良ければお読みください。
②双方向性
二つ目の特徴は「双方向性」です。企業や団体だけが一方的に情報発信をするのではないという点はこの二つ目の特徴においても重要で、誰もが意見や要望を発信する時代だということを意識する必要があります。双方向性というキーワードが特に分かりやすく表れているのが各種のSNSです。FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSの活用を考えていく上では、各SNSの機能や文化を理解して「自組織としてどのように発信をするか」という点ももちろん大切ですが、それだけでは足りません。
発信してもらう
自組織がいかに発信をするか、だけでなく「発信してもらう」ことを考えましょう。例えば寄付やイベント参加者を募るにしても、団体から「寄付してください」「イベント参加を受け付けています」と呼びかけるだけでなく、実際に寄付した人やイベントに参加した人からの「NPO◯◯に寄付しました」「イベント参加しました」という発信がしてもらえると良いということです。
これは単純にSNS上での露出が増えるということだけでなく、実際に体験した個人からの発信の方が信頼される度合いが高く、より効果的だという点が重要です。インターネットショッピングをする際にはレビューを調べ評判の良い商品を購入する方は多いと思います。また、インターネット以外でも寄付者やボランティア参加者のきっかけとして「クチコミ」が重要な経路となっている団体も少なくないと思います。こうしたクチコミの効果はインターネット上でも同様に強力であるということです。
SNS等での個人の発信はあくまでも自然な「クチコミ」ですので、強制となってしまっては意味がありませんが、寄付した事実やその想いを「共有してください」と促すこと自体はぜひどんどんとやるべきことです。また、イベントの際などには「感想を投稿してください」と率直にお願いすることも大切ですし、「投稿したくなるような機会や場をつくる」という視点も重要です。
写真投稿SNSであるInstagramを象徴する言葉として「インスタ映え」が流行語になりましたが、「映える写真を撮ったら投稿したい」というのはInstagramに限らず、SNSを利用している人の多くに共通する想いです。イベントなどの場では思わず写真に撮りたくなるような場面やタイミングを用意して発信してもらうことを自分たちから狙いにいくという視点の持ち方もときには大切になります。
一方で、逆に考えると意図しないものも容易に「発信されてしまう」環境であるということも意識をしておくべきで、特に活動現場などで受益者の様子などインターネット上へ公開されては問題のある場合にはしっかりと注意するようにしましょう。
コミュニケーションする
「双方向性」という特徴をより活用していくためにはコミュニケーションを行うという点も意識していただきたいです。例えばSNSなどはそもそも企業や団体が情報発信をするためのメディアなのではなく、友人や知人とつながりコミュニケーションをするためのサービスです。発信をしてもらったら「いいね」などの反応をしたり、「ありがとう」とコミュニケーションを取りに行くようにしましょう。Webサービスの機能を使いこなすというより、日常のコミュニケーションとして当たり前のことやしてもらったら嬉しいと感じることをSNS上ではどのように表現できるかという視点だと捉えやすいかもしれません。
③即時性
三つ目の特徴は「即時性」です。編集・印刷・配送などに時間がかかり、一度完成すると変更の効かない紙の情報とは異なり、Web上では即時に発信することができ、一度発信したものも随時更新ができます。Webサイトが更新できていなかったり、SNSでの発信ができていない、ということは論外で、即時の情報発信ができる時代になっているということです。(論外ではありますが、現状できていないのであればまずはそこから受け止め少しずつレベルアップしていかなければなりません)
例えばNPOの情報発信で即時性を活かした対応として、以下のような場面が考えられます。
寄付決済やイベント申し込みの即時お礼
インターネットショッピングでモノを購入した際には即時で購入に関する情報がメール等で送られてきます。NPO向けの寄付決済システムやイベント申し込み管理のツールにおいてもこのような機能は標準対応していることが多く、Webサイトからクレジットカードでの寄付が発生した際に即時に(自動で事前設定した)お礼メールを送ることができ、団体側にもリアルタイムで寄付の発生が通知され、自動のお礼メール以外の対応もすぐに動きはじめることができます。
なお、決済システムの種類や選び方については以下の記事をお読みください。
活動・事業の現場からのリアルタイムでの発信
即時性は寄付等の申込みがあった際の反応だけでなく、情報発信そのものに対しても活かすことができるものです。活動や事業の現場からリアルタイムでその様子を伝えるような発信もできます。例えば国際協力系の団体では、現地駐在員の方が帰国した際に「活動報告会」を開催して現地の様子や活動の状況・成果を報告することが一般的でしたが、最近は国際協力の支援対象地域であってもインターネット環境が整ってきていることもあり、現地からの動画やライブ配信で情報発信をすることができます。ライブ配信であれば現地のスタッフとリアルタイムで会話もできますので「双方向性」も加味していくことも可能です。
スピーディな緊急対応
デジタルマーケティングにおける「即時性」はリアルタイムという意味合いが強いため少しズレてしまうかもしれませんが、NPO等の活動において重要な側面である「緊急支援」についても触れたいと思います。特に最近は大雨や台風、地震など自然災害が毎年のように発生しています。事業・活動としての緊急支援活動の立ち上げノウハウは多くの組織で整えられてきていると感じますが、情報発信等においてどのような緊急対応ができるのか、すべきであるのかという点にすいても合わせて整理が必要なところです。
WebサイトやSNSで素早く情報を発信していくということも重要ですし、ファンドレイジングにおいてはクラウドファンディング等のプラットフォーム運営者が緊急支援のための利用については手数料を無料にする対応をとっていることもあります。自組織は何をどこまで対応すべきなのか、しっかりと組織内で話し検討しておけると良いですね。
④ターゲティング
四つ目は「ターゲティング」です。
デジタル以前から言われている重要なマーケティング・プロセス
ターゲティングという概念自体はデジタル以前から長く言われていることで、自組織の活動や寄付等において働きかけるべき相手が誰なのか、年齢・ジェンダー・地域・興味/関心…といったさまざまな観点から絞り込んでターゲット像を明確化することや、ターゲット像を具現化した象徴的な人物像であるペルソナを作成することなどがマーケティングの基本的なプロセスの一つとして言われてきました。
データ活用でより正確に
データを活用するということが容易になったことで、ターゲティングはより精度を増すようになっています。例えば実名制のSNSであるFacebook上には個人に紐付いたさまざまなデータが集積されており、Facebookの広告ではそうしたデータを活用することができるため、非常に精度が高いことが特徴です。
⑤パーソナライゼーション
五つ目の特徴は「パーソナライゼーション」です。
住所や氏名だけが「顧客管理」ではない
Salesforceなどの顧客管理システムがNPO向けに提供されているため、多くの組織が導入していますが、その機能を十分に活用できていない組織も少なくありません。文字通り顧客情報を管理することのできるシステムですが、住所や氏名などを従来紙の名簿やあるいはExcelで管理していたものがSalesforceというクラウドサービスに移行したというだけではその真価を発揮できているとはいえません。紙やExcelでは手間がかかりすぎて管理することができなかったような情報も管理することができるということを十分に意識し、活用していくことが大切です。
例えばファンドレイジングにおいては、支援者一人ひとりが寄付をしたタイミングや金額が記録され、その合計の回数や金額も集計することができますので「寄付回数が◯回以上に達した人には特別なお礼状を贈る」といった対応を取ることもできます。
また、活動やその成果の報告に対しても「Aの活動に興味がある人にはAの情報を多めに報告をし、Bのの活動に興味がある人にはBの情報を多めに報告をする」といった形で情報を出し分けることも実現しやすくなります。
前回の記事でもお伝えしましたが、デジタルの特徴を活用することで一人ひとりに合わせた個別丁寧なコミュニケーションに近づけることができるということです。
以上、デジタルマーケティングの特徴から5つを取り上げ、NPOマーケティングの文脈でのポイントをご紹介しました。自組織でも取り入れたいのはどのような点なのかをぜひ考えてみてください。
次回は、デジタルマーケティングやデジタルファンドレイジングに取り組み始める際にどこから、どのように考え始めれば良いのかという点についてお伝えできればと思います。