こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では「デジタルファンドレイジングとは?新たな言葉をどう受け止めるか」というタイトルでファンドレイジングの新たな潮流を表すキーワードについてお伝えしていきます。新たな流行り言葉を殊更に強調したい訳ではないのですが、ここ数年目にする機会が徐々に増えてきていますし、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて自組織のファンドレイジング戦略をWeb活用を中心に練り直そうとしている団体も多くいらっしゃる状況ですので、関連するテーマでの研修講師やコンサルティングをする機会の多いNPO支援者として、各NPOの皆さまにどのようにこの新たな言葉に向き合っていただきたいかを整理してお伝えできればと思います。
- ”デジタルファンドレイジング”と私の関わり
- 今やスマートフォン(インターネット)はテレビよりも重要な情報源!
- Webマーケティングからデジタルマーケティングへ
- デジタルマーケティングでどのようなことができるのか?
- デジタルファンドレイジングとは?
- まとめ
”デジタルファンドレイジング”と私の関わり
まずは私自身とデジタルファンドレイジングというテーマとの関わりからお伝えします。
私は2016年4月頃からNPOコンサルタントとして仕事をしており、さまざまなご支援テーマでNPOの皆さまと関わっておりますが、特にご依頼数の多いテーマが「ファンドレイジング」「Webマーケティング」です。NPOコンサルになる前に楽天に勤めていたことやその知見を活かしてNPOのWebマーケティングについての記事発信などをしていたことから登壇依頼やコンサルティング依頼をいただくようになってきました。実際コンサルティング支援の中でもデジタル施策を含むテーマを扱うことも少なくありません。
そして、昨年からは「デジタルファンドレイジング」をテーマとした講座の依頼もいただき複数の場に登壇させていただいています。それぞれ詳しくは講座情報を記載した記事をご確認ください。
デジタルファンドレイジングゼミ
にいがたNPOカレッジ
このように私自身が「デジタルファンドレイジング」を冠した講座を担当するようになったことから、改めてその言葉が何を指すのか、そしてNPOとしては何をどこまで対応すべきなのかということを考えてきました。
流行り言葉を作って危機感を煽ったり、注目度だけを意識して派手な言葉を使ったりということはなるべくしたくないので、新たな言葉を提唱していくこと自体にはあまり関心がなかったのですが、改めて整理をしてみると、NPO業界としてきちんとこの言葉に向き合う必要があるということを感じ始めました。しっかりと向き合っていかなければ業界として社会課題を解決する力が停滞したり、業界内の格差が不健全な形で広がってしまう。それぐらい大きな環境の変化が起きていると感じています。
ということで、本記事を始め数回の記事でデジタルファンドレイジングという新たな言葉をNPOとしてどのように受け止め、対応を考えていけば良いのかについてなるべく分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
なお、一連の記事でお伝えする内容は上述した「デジタルファンドレイジングゼミ」の第一回講義の前半で、前提情報としてお伝えした話です。「デジタルファンドレイジングゼミ」は2021年度も開催に向けて相談中ですので、関心のある方はぜひ受講いただけると幸いです。
今やスマートフォン(インターネット)はテレビよりも重要な情報源!
まずは「デジタル」というキーワードが影響力を持つようになってきている環境的な要因の一つとして、スマートフォンやスマートフォンを通したインターネットの活用が大きく伸びているということを見ていきましょう。
株式会社ジャストシステムが調査し、発表している『モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査 2018年総集編 【トレンドトピック版】』によると、「ニュースなどの情報収集に使うメディア」としてスマートフォン(75.7%)は2018年の時点でテレビ(70.9%)を超えて使われているメディアとなっています。2019年分の調査結果では同じ質問がなくなってしまっているため、直近の数字は確認できないのです(2020年総集編についてはまだ未発表)が、スマートフォンがテレビを上回っているという傾向は変わらないと予想されます。
なお、上記の数字は全年代を統合したものです。同調査では年代別の調査結果も公開されておりますが、10代から50代までは「スマートフォン>テレビ」となっております。そして60代についてはスマートフォンよりもテレビの方が回答率が高いのですが、実はそのテレビよりも「パソコン」の方が高い回答率を得ています(調査対象者は17〜69歳)。つまり、全年代において、ニュースなどの情報収集源として「インターネット>テレビ」という状況になっている、ということです。
同調査はジャストシステム社のネットリサーチのモニターに対して行ったものですので、前提としてインターネットを活用できる人しか対象に入っていないという大きなバイアスがかかっていることには十分に注意をする必要がありますが、それでもすでにかなり広範な世代にとってインターネットでの情報収集が当たり前のものになりつつあることは確かなことでしょう。
※ジャストシステム社のWebサイトより調査結果資料をダウンロードすることができますので、同調査について詳しく知りたい方は以下のサイトよりご確認ください。
※なお、世代別のインターネット活用状況の違いなどについては総務省が毎年行っている「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」も合わせて参照すると良いでしょう。
Webマーケティングからデジタルマーケティングへ
次に、そのような環境的な変化が起こる中ではなぜ新たに「デジタル」という言葉が注目されるようになってきているのか、という点について考えます。「ファンドレイジング」というキーワードについて考える前に、より一般的に使用されている「マーケティング」のキーワードの方から考えてみましょう。
マーケティングの世界ではこの数年特に「Webマーケティング」という言葉に変わるようにして「デジタルマーケティング」という言葉が使われるようになってきています。そもそもこの二つの言葉は何を指しているのでしょうか?色々な書籍や記事を調べましたが、定義はあまり明確には整理されていないようです。それでもなるべく分かりやすく整理するなら、以下のように説明することができるようです。
Webマーケティング…Webサイトを軸にインターネットを活用するマーケティング
デジタルマーケティング…Webサイトに限らず、活用できる情報や接点などデジタルで得られるデータを活かして行うマーケティング
1990年代にインターネットの活用が大きく広がり始め、さまざまな個人や企業が「Webサイト(ホームページ)」を立ち上げるようになりました。マーケティングの一連の流れの中でこのWebサイトをどのように活用すべきか?Webサイトはどのような役割を担うべきか?ということを考え、発展してきたのが「Webマーケティング」です。
一方のデジタルマーケティングは「Webサイトに限らず」という言葉があるので、範囲が広がったという捉え方もできますが、どちらかというとポイントは「デジタルで得られるデータを活用」というところにあるように感じます。
先の調査結果でも「スマートフォン」の活用が大きく伸びていることが示されていましたが、スマートフォンが大きく普及したことを始めとしてインターネットに接続された機器の機能が増えたり、インターネット上にさまざまなサービスが増えことで、得られるデータの種類や機会が大きく増えました。また、そうして得られるようになった莫大なデータを分析することも年々容易になってきています。(「ビッグデータ」という言葉はこうした文脈で言われますね)(機能的な拡充としては例えば「位置情報」や「ヘルスデータ」などが挙げられます。サービス的な拡充としては「SNS」の他さまざまな「アプリ」が挙げられますし、それを受けて「レビュー・口コミ」が重視されるようになった変化などもあります)
このような流れを受けて提唱されるようになったデジタルマーケティングでは、単にWebサイト以外も活用するということではなく、データの力を活かしてサービスや製品を届けるということに主眼があるということです。
Webマーケティングとデジタルマーケティングでは注目している視点が違う、ということですので、「WebサイトだけでなくSNSも活用しているからデジタルマーケティングだ」というような切り分け方にはあまり意味がありませんし、両者を明確に分けること自体にもそれ程の意味はないのではないかと思います。
デジタルマーケティングでどのようなことができるのか?
では、データの力を活用するデジタルマーケティングとは具体的にどのようなものでしょうか?
ここでは具体例をご紹介します。
中国の盒馬鮮生(フーマー)というスーパーマーケットです。
スーパーマーケットと書きましたが、フーマーは単なるスーパーではありません。中国では新小売(ニューリテール)と言われています。
ビジネスモデルとしては
- スーパー
- ネットスーパー
- フードコート
- 食品倉庫
が一緒になったものだと言われています。
フーマーは通常のスーパーのように店舗を構えておりますので、そこに買い物に行くことができます。店内にはたくさんの店員さんがいます。この店員さんたちは店舗に来た顧客への対応も行いますが、メインの業務はネット注文に応えるための商品のピックアップです。店員はそれぞれ手元に端末を持っており、ここでネットスーパーとしての注文を受け、商品を次々にピックアップし、同じ端末でバーコードを通して配送用のバッグに詰め込みます。詰め込みが完了したバッグはベルトコンベアーでバックヤードに運ばれ、デリバリー専用のドライバーが配送を行います。対応エリア内であればいつでも30分以内に自宅まで配送してもらえます。つまり、店舗としての役割と同時にネットスーパーの食品倉庫としても位置づけられているということです。
それだけではありません。店内の生簀では生きた魚がたくさん泳いでおり、その新鮮な魚を買うことは当然のこととして、併設されているフードコートでその魚を使った料理を食べることもできます。
そしてこれらすべての購入時の決済はアプリに集約されています。つまりどのような人がどのようなものを書い、どのようにフーマーを活用しているのかはすべてデータ化されているということです。フーマーは中国のネット大手アリババグループで運営されているため、そもそも多くのデータを事前に保有しており、フーマーが十分に活用され利益が出るであろうエリアを選んで出店されているそうです。
このようにデータ活用を中心としたビジネスの構築が進んでいるのがデジタルマーケティングの世界です。
世界のビジネス上の事例ということでNPOの世界とは少し離れた話をしましたが、「SNSの活用をどうするか」というのとは次元の違った話が広がっている世界であることのイメージは少し掴めたでしょうか。(もちろんこういうことをNPOとしても目指しましょう、という話ではありませんのでご安心ください)
なお、フーマーの事例を始め「デジタル」の世界がどのように進んでいるのかを理解するためには以下の本がオススメです。
デジタルファンドレイジングとは?
かなり前置きが長くなりましたが、いよいよ本題に入ります。NPOのファンドレイジングにおける新たなトレンドワード「デジタルファンドレイジング」とは何か?
ここまでの議論をまとめると、次のように定義することができます。
デジタルマーケティングの知見を活かしたファンドレイジング
デジタルマーケティングのポイントは「データの活用」というところにありましたので、ファンドレイジングにおいてもデータを活用できるかどうかというところが重要になります。例えば「SNSの活用」「インターネット広告の活用」自体がデジタルファンドレイジングなのではなく、SNSやインターネット広告に取り組んでいてもデータが活用されている場合もあればそうでない場合もどちらもあります。
実際に「データを活用」している場合、NPOでも以下のような取り組みを行っている団体は徐々に増えてきています。
- 一度Webサイトを見に来てくれた人にだけ広告を出す
- 自組織のマンスリーサポーターに「似ている人」にだけ広告を届ける
単にインターネット上に広告を出すということだけではなく、「Webサイトへのアクセス履歴」や「自組織の会員データ」を活用することでインターネットを活用している多くの人の中から自組織に共感してもらいやすいと考えられる人に優先して情報を届けるという取り組みです。
また、新規寄付者の募集時だけでなく、
- 寄付の回数や共感しているプロジェクトの内容に合わせて、「お礼」や「報告」のメール内容を変える
このように寄付をいただいた後の「お礼」や「報告」といった支援者コミュニケーションにおいても、ひとりひとりの支援者が特にどのようなことに関心があるのか、といったことを自分たちで定義してデータ化しそのデータを溜めて、コミュニケーション施策に活用していくことができるようになります。
「デジタル」というと非人間的で冷たい印象を受ける方もいらっしゃるかもしれませんが、活用の仕方によってはむしろ逆にデータの力を活用するからこそ相手の興味や関心、関係性に合わせた個別の丁寧な対応が実現しやすくなるともいえます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。本記事では「デジタルファンドレイジングとは?新たな言葉をどう受け止めるか」と題して、ファンドレイジングに関わる新たな潮流としてのデジタルファンドレイジングという言葉についてその定義や、背景としての環境変化などをお伝えしてきました。
ポイントをまとめると、以下のようになります。
- スマートフォンが普及し、インターネットの活用が広がった。また、それにより取得、利用できるデータが増えた
- そうした変化を受けてマーケティングの世界では「Webマーケティング」から「デジタルマーケティング」への変化が起きている
- デジタルマーケティングのポイントは「データの活用」
- デジタルファンドレイジングとはデジタルマーケティングの知見を活かしたファンドレイジングのこと
- 「データを活用する」ことはNPOの世界でも徐々に進んでおり、データをうまく活用することで個別丁寧な対応に近づけることができる
新たな聞き慣れない言葉に抵抗感のある方もいらっしゃると思いますが、データを上手に活用できるようになることは、団体にとっても寄付者にとっても気持ちの良いファンドレイジングにつなげていくことのできる可能性を持ったものだと考えています。
本記事を読んで少しでも取り組んでみたいと思われる方が増えれば幸いです。
新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、インターネットを活用したファンドレイジングに取り組むことを検討している方も少なくないと思います。次回は、デジタルファンドレイジングに取り組むためには実際にどのような観点を考えていけば良いのか、NPOでも具体的に意識するべきデジタルマーケティングの特徴についてまとめてお伝えしたいと思いますので、ぜひ次回も楽しみにしていただけると幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。