NPO支援家堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

NPOなど公益組織支援を専門に仕事をしている人間のブログです。ファンドレイジング、NPOマーケティングなどのテーマについて発信しています。

当ブログはアフィリエイト広告を利用しています

SDGsと企業寄付とNPO 〜寄付プレスリリースに見るトレンドとNPOが考えるべきこと〜

スポンサーリンク

SDGsと企業寄付とNPO 〜寄付プレスリリースに見るトレンドとNPOが考えるべきこと〜

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では「SDGsと企業寄付とNPO 〜寄付プレスリリースに見るトレンドとNPOが考えるべきこと〜」と題し、SDGsと寄付というキーワードについて考えてみたいと思います。特に、企業からの寄付とSDGsというキーワードの関係について、実際のプレスリリースにおいてどのように発信されているか、寄付先NPOやコミットが表明されているSDGs目標についてのまとめをご紹介しつつ、ファンドレイジング支援を仕事としているコンサルタントとして感じたことをお伝えします。その上で、企業連携や寄付の獲得などファンドレイジングに取り組むNPOとして考えるべきことについても考えていきます。

 

本記事の対象者

本記事は主に以下のような方を読者として想定しています。
  • NPOで広報やファンドレイジングを担当する方
  • 特にファンドレイジングにおける法人営業など企業との連携を担当する方
  • 企業でSDGs推進あるいは、NPOとの協働など社会貢献活動の推進を担当する方
「SDGs」や「寄付」というキーワードにご自身の仕事として関わっていらっしゃる方の参考となるような観点からご説明を行っていきます。
 

SDGsとは

最初に各キーワードの確認から行っていきましょう。まずは「SDGs」です。
 
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称で、読み方は「エス・ディー・ジーズ」です。日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。
 
目標というからには、誰が立てて、誰がいつまでに達成を目指しているのかという点が大切です。SDGsは2015年の9月に国連サミットで採択されたもので、2030年までに持続可能でより良い世界を目指していくための目標とされています。世界の国連加盟国全体で決め、2030年までに、世界全体で達成を目指していく目標である、ということです。
 
具体的には「貧困をなくそう」「飢餓をなくそう」というようなテーマ別の17の大目標(ゴール)と、さらにその17の大目標を細分化した169の小目標(ターゲット)に分かれており、これらのそれぞれの目標の達成を目指すことで地球上の「誰一人取り残さない」世界を作っていくという誓いが込められています。
 
実はSDGsにはMDGs(ミレニアル開発目標)という2001年に採択された前身となる目標があるのですが、あくまで各国政府の取り組みへの期待という点が大きかったMDGsと比べるとSDGsでは「誰一人取り残さない」ために「世界全体で」取り組んでいくという姿勢が強く打ち出されており、政府だけでなく、企業やNPO等の団体、そして私たち市民一人一人の日々の行動や意識の持ち方を変えていくことが大きく期待されています。
 
このSDGsに現在企業から大きな注目が集まっています。世界的にSDGsに対しての関心が高まっていることに加え、企業セクターにおいては環境や、顧客や従業員や地域社会に対して責任ある経営を行っている企業に対して投資を行っていく社会的責任投資(ESG投資)の動きも加速しており、自社の事業のあり方や地域社会とつながり方を改めて検討し直す企業が増えています。
 
なお、17のゴールと169のターゲットの内容などSDGsについてより詳しく知りたい方は以下のサイトをご確認ください。
 
日本としてどのように取り組みを行っているかや各地の事例などについては以下の外務省のサイトが詳しいです。
 
 

寄付プレスリリースとは

続いては「寄付プレスリリース」についてですが、「寄付プレスリリース」という言葉自体が存在するわけではなく本記事を執筆する上での私の造語です。意味はそのままで「『寄付』に関する『プレスリリース』」です。
 
企業にしろNPO等の非営利組織にしろ法人の広報活動においては、製品やサービスの新発表や「◯◯の利用者が100万人を突破」など事業活動上のアピールすべきニュースがあった際にマスメディア向けにプレスリリースとして情報を発信することが一般的ですが、寄付プレスリリースというのはプレスリリースの内容として「企業として寄付を行った」ことを伝えるもののことです。
 
プレスリリースはマスメディアに取り上げてもらいたいポジティブなニュースを能動的に伝えるために行うことが多いですので、寄付やあるいは社員のボランティア活動などの社会貢献活動の実施をプレスリリースとして発信する企業は少なくありません。
 
実際に私は日々「寄付」や「ボランティア」などのキーワードでニュース検索を行いさまざまなニュースをチェックしているのですが、企業からの寄付に関するプレスリリースやその内容を取り上げたニュースメディアの記事は月に何十件も見かけます。
 
もしあなたがNPOで法人連携等を担当していて、これまでの企業からの寄付等の支援に関してプレスリリースなどを発信していなかった場合にはぜひ今後はプレスリリースを発信し、積極的にアピールすることを検討してください。(プレスリリースの発信には支援元の企業側と事前に調整が必要ですので、企業側の担当者とまずは相談をしてみてください)
 
 

寄付プレスリリースの一般的な内容

プレスリリース文の内容自体に絶対的な正解があるわけではありませんが、概ね以下のような内容で構成されることが多いようです。今後プレスリリースの発信を検討されている方は参考にしてみてください。
 
  1. 企業名と代表者名、寄付を行う事実
  2. 寄付を行う理由、支援先を選んだ理由
  3. 支援先のNPOの概要(ビジョン、活動内容など)
  4. 企業概要
 
寄付に関するプレスリリースの実例については以下のサイトよりご確認ください。
プレスリリース配信サイトである「PR TIMES」で「寄付」のキーワードを含むリリース文を検索した検索結果一覧です。
 
本記事で特に注目したいのは「2. 寄付を行う理由、支援先を選んだ理由」です。この箇所で企業が社会貢献活動として寄付を行う理由や支援先のNPO等を選定した理由に触れられることが多いのですが、この部分でNPOに対して寄付を行う理由として「SDGs推進のため」が挙げられることが増えています。
 
 

SDGs推進を謳うプレスリリースまとめ

実際に「SDGs推進」を理由としてNPOへの寄付を行うことを報じるプレスリリースの例を見ていきましょう。
本記事でご紹介するのは以下の7つの企業のプレスリリースです。
  • 株式会社フレーベル館
  • Buildsalon合同会社
  • ハリウッド株式会社
  • 株式会社ジーアイビー
  • スパイスファクトリー株式会社
  • 三井住友カード株式会社
  • Unipos株式会社

それぞれのプレスリリースについて、「プレスリリースタイトル」「発信元企業」「ビジネスカテゴリ」「寄付先団体」「コミットするSDGs目標」「SDGs推進に関する説明(プレスリリースから該当箇所を引用)」を示した上で、そのプレスリリースの特徴や私が感じたことを解説していきます。

株式会社フレーベル館

タイトル      :持続可能な社会の実現に向けて!書籍売上の一部を寄付する「本でこどもの未来を守るキャンペーン」を開始!
発信元企業     :株式会社フレーベル館
ビジネスカテゴリ  :雑誌・本・出版物自然・天気
寄付先団体     :地球環境基金
コミットするSDGs目標:「12 つくる責任つかう責任」「13 気候変動に具体的対策を」「15 陸の豊かさも守ろう」
SDGs推進に関する説明:
世界中で地球温暖化に伴う気候変動などの問題が表面化している昨今、事業活動を通して社会的な課題の解決を目指し、SDGs の達成に取り組むことが、喫緊の課題となっています。フレーベル館では社業の一つである「児童書の出版・販売」を通して、全国のパートナー書店と協力し、主たる対象読者である乳児〜中学生までのこどもたちにより良い地球環境を残していくために活動いたします。
まずご紹介するのは「持続可能な社会の実現に向けて!」とプレスリリースタイトルにもSDGsをイメージしたキーワードが表現されている株式会社フレーベル館のプレスリリースです。「事業活動を通して社会的な課題の解決を目指し、SDGsの達成に取り組むこと」が課題であり、自社の事業を通して「主たる対象読者である乳児〜中学生までのこどもたちにより良い地球環境を残していくために活動」することが示されています。本記事では以下にもいくつかのプレスリリースを見ていきますが、SDGsの文脈として自社事業を通じた貢献の必要性を示した上で、その具体的なコミットとして売上の寄付を行うという形式は最も基本的な形といえそうです。
 

Buildsalon合同会社

タイトル      :弊社の収益の一部を、貧困・不登校・被災など、本人に非がない問題を抱える子どもたちの学習を支援するNPO事業に寄付しています。
発信元企業     :Buildsalon合同会社
ビジネスカテゴリ  :システム・Webサイト・アプリ開発ネットサービス
寄付先団体     :カタリバ
コミットするSDGs目標:「04 質の高い教育をみんなに」
SDGs推進に関する説明:
どのような状況でも「未来は創り出せる」と信じられる社会を目指す、認定NPO法人カタリバ様の活動内容と共鳴するところがあり、継続的な寄付を決定した次第です。弊社代表の上村には、子どもの頃、周囲には貧しい家庭で育ち、希望する進路を諦める友人もいたという、忘れられない思い出があります。当時は助けられなくても、事業を立ち上げた今なら、寄付活動を通じて、希望する学びのチャンスを失いそうになっている子どもたちを助けられると信じています。
 
ぜひプレスリリース本文をお読みいただきたいのですが、「カタリバへの寄付を決めた理由」と冠して本文中で17行に渡って寄付に対してや寄付活動を通したSDGs目標に対するコミットへの想いが表明されています。上記に引用した通り、企業としてのミッションと支援先であるカタリバのミッションに通ずる部分があったことの他、代表者自身の経験を元にした支援先団体の活動の先にいる受益者への共感が示されています。
 
特に中小企業の寄付等の社会貢献活動の意思決定に関しては、創業代表者の想いが支援決定の同期の一つとなることも少なくないですが、プレスリリース中にもその想いを強く表明されているのは珍しいケースのように感じます。企業連携を模索するNPOとしては、どのような点が企業側の共感を呼ぶのかという点で参考になる事例ではないでしょうか。
 

ハリウッド株式会社

タイトル      :総額1,492,128円の寄付を達成~被災地支援から生まれた商品売上の一部を寄付~
発信元企業     :ハリウッド株式会社
ビジネスカテゴリ  :スキンケア・化粧品・ヘア用品
寄付先団体     :一般社団法人AWSEN
コミットするSDGs目標:「05 ジェンダー平等の実現」「12 つくる責任つかう責任」
SDGs推進に関する説明:
寄付金は引き続き気仙椿ドリームプロジェクトの一般社団法人AWSEN(https://awsen.net)を通じ、SDGs目標5にあたる女性の地位向上に貢献するための活動に使われており、2015年からは、被災地の女性起業家とアジア・アフリカの女性起業家をつなぐイベントの支援にも活用されました。被災地支援から始まった商品開発が、その後、東北、日本、アジアをつなぐ活動の輪へと広がっています。SDGs目標5の「ジェンダー平等の実現」に加えて、目標12の「つくる責任、つかう責任」にも配慮しながら、化粧品メーカーとして開発したコンセプト商品が、このような世界中の若者や女性の活動支援につながることを願っています。
こちらのプレスリリースは寄付決定や寄付キャンペーン開始のお知らせではなく、これまで行ってきた寄付活動による実績を知らせるものです。東日本大震災の復興支援プロジェクトとして2011年から開始された取り組みということで、プロジェクト開始時点ではSDGs目標策定前ですのでSDGsについての考慮はされていなかったはずですが、取り組みが続く中で企業と団体でコミュニケーションを行いその位置づけを見直したのかもしれません。
 
実際に上記引用したプレスリリース文の中にもSDGsが策定された2015年以降に寄付金の使途として女性の地位向上に貢献するための活動に使われている旨が示されています。寄付による支援活動が継続的に行われる場合に、寄付金という支援方法自体は同じものだったとしても、企業側及びNPO側でその捉え方や位置づけが変わるということはありえます。企業とNPOの双方で意思のこもったコミュニケーションを続けることが重要です。
 

株式会社ジーアイビー

タイトル      :【株式会社ジーアイビー】SDGsの取り組みとして、コインランドリー業界初となる還元型コインランドリーを始動
発信元企業     :株式会社ジーアイビー
ビジネスカテゴリ  :環境・エコ・リサイクル
寄付先団体     :ウォーターエイド
コミットするSDGs目標:「06 安全な水とトイレを世界中に」
SDGs推進に関する説明:
これまでコインランドリー業界では目立ったSDGs活動がありませんでした。毎日のお洗濯をするのは生活の一部であり、洗濯をすることが世界の役に立つとは誰しもが考えていなかったと思います。ジーアイビーでは、毎日の洗濯が何かに役立てることはできないか、という思いから、毎日の洗濯を社会貢献につなげる取り組みを実施することにしました。
そんな中、NGO団体のウォーターエイドが2030年までに、清潔な水とトイレ、適切な衛生習慣がすべての人とすべての場所にとってあたり前になることを目指して活動されているということを知り、水に関わるサービスを扱っている弊社としてもこの活動に協力できればと思い、NGO団体のウォーターエイドへ寄付することを決めました。 

www.work-master.net

コインランドリーを運営する企業が「毎日の洗濯が何かに役立てることはできないか、という思いから、毎日の洗濯を社会貢献につなげる取り組みを実施する」ためにという自社事業とSDGs目標を分かりやすくつなげた取り組みです。このような形でそれぞれの事業に合わせた取り組みを検討しやすいのも、さまざまなテーマに渡る目標が設定されているSDGsならではといえます。また、寄付金額のあり方については「1回洗濯すると、1円をNGOに寄付」という形で設定されており、「1 cycle for 1 smile!~洗濯する度に笑顔を!~」というキャッチコピーも冠されています。これは、有名なVolvic社がユニセフに対する寄付キャンペーンとして行った「1ℓ for 10ℓ(ワンリッター フォー テンリッター)」の影響も受けていると考えられます。Volvic社の取り組み自体は2007年から2016年にかけて10年間に渡って行われたもので、SDGs目標策定よりも前の取り組みです。この事例からも企業寄付という以前から行われきている社会貢献活動のあり方の中に、SDGsという潮流が入ってきていることが分かります。
 
 

スパイスファクトリー株式会社

タイトル      :私たちが、今すぐにできることを。SDGsの17の目標すべてに対するアクションを始動。
発信元企業     :スパイスファクトリー株式会社
ビジネスカテゴリ  :ネットサービスシステム・Webサイト・アプリ開発
寄付先団体     :ワールド・ビジョン・ジャパン、カタリバ、ジョイセフ、ウォーターエイドジャパン、世界自然保護基金ジャパン、日本自然保護協会、国連UNHCR協会、TABLE FOR TWO(CSR支援プログラムへの参加)
コミットするSDGs目標:17の目標すべて(NPOへの寄付を通したコミットはうち8つの目標)
SDGs推進に関する説明:
SDGSに関連するプロジェクトは問題背景の複雑さや因果関係の推察など、 複雑性が高いものが多くあり、一筋縄ではいかないことも多々あります。当社がそれらの課題に対して挑む過程で、この取り組みが様々な企業にも波及し、支援や寄付についても国内のトレンドを超えた活動になりSDGSの課題の解決の一歩となることを信じています。
企業のデジタル変革やマーケティング支援などを行うスパイスファクトリー株式会社では17の目標全てに対してのコミットを表明しており、本業として取り組む「09 産業と技術革新の基盤をつくろう(本業として企業のデジタルトランスフォーメーションを推進し、技術革新を産み出す)」ものや、社内制度の整備による取り組み「08 働きがいも経済成長も(会社のあらゆる人事制度を通じて人間らしい雇用 (ディーセント・ワーク)を促進)」を目指すものなどに並ぶものとして、自社だけでは取り組めない領域の目標については各分野への取り組みを行うNPOへの寄付による支援という形を取っているようです。「01 貧困をなくそう」「03 すべての人に保健と福祉を」に対しては、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンの「チャイルドスポンサー」を通じた寄付活動、「04 質の高い教育をみんなに」の目標に対しては認定NPO法人カタリバへの寄付を通じて日本全国の勉強する機会を奪われた子どもたちを支援などのように、8つの目標へのコミットのために7団体に対する寄付を表明しています。また、単純な寄付だけでなく、「02 飢餓をゼロに」の目標では「食事を通じて寄付ができる「CSR支援プログラム supported by TABLE FOR TWO」への参加」という形で自社社員が日々の社食利用等で社会貢献活動に触れられる機会を作ることや、「11 住み続けられるまちづくりを」における「知床斜里町にてICTを通じた地域活性化のPoC活動を定期的に実施」のように自社として直接的なコミットを行うものなど、それぞれの目標に対してどのように関わることができるかをしっかりと検討して決定している印象を受けます。
 
スパイスファクトリー社では自社コーポレートサイト内にもSDGsに関するページを用意して説明を行っており、本気度が伺えますね。今後各目標に対しての取り組みが実際にどのように進んでいるのか、自事業や社員、ステークホルダーに関する変化なども見えてくると非常に面白いなと思います。この意味ではこうした企業から支援を受けるNPOとしては、支援に対するお礼や事業報告を行い際に全方位的な報告を行うだけでなく、SDGs目標に関連する形でどのように事業の成果を出すことができたのかという点について分かりやすく報告することができると、支援元企業にも伝わりやすくなりますし、企業としてもステークホルダーへの発信がしやすくなり、そのことが企業としての支援活動の継続性を高めることにもつながると考えられます。
 

三井住友カード株式会社

タイトル      :ハッピーな未来にタッチしよう!三井住友カード、サステナブルな世の中づくりを応援する「タッチハッピープロジェクト」始めました
発信元企業     :三井住友カード株式会社
ビジネスカテゴリ  :クレジットカード・ローン
寄付先団体     :セカンドハーベスト・ジャパン
コミットするSDGs目標:「1 貧困をなくそう」「12 つくる責任つかう責任」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」
SDGs推進に関する説明:
今回のタッチハッピープロジェクト第一弾では、国連が定めるSDGsの「1.貧困をなくそう」「12.つくる責任つかう責任」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」の3つのゴールに寄与するものと考えています。企業の社会的責任として、プロジェクトを通じてお客様とともに誰もが幸せになれる社会を目指します。
寄付先団体のミッションや受益者への共感を示しているBuildsalon合同会社や17の目標それぞれに対してのコミット方法を検討した上でNPOの選定を行っていることが示されているスパイスファクトリー株式会社の例と比べると、こちらの三井住友カードの例は非常にシンプルな触れ方です。とはいえ、今回のプレスリリースは第一弾であり、第二弾、第三弾を準備中であることも示されています。コミットする目標や寄付先団体も増えていくことになるようですので、全体としては大きな取り組みになりそうです。三井住友カードに限らずクレジットカード会社はこれまでにも利用金額に応じた寄付という形での社会貢献活動は長く行ってきているため、似たような取り組みとしての慣れからこのようなシンプルなプレスリリースになっているのではないかと予想しています。
 
 

Unipos株式会社

タイトル      :同僚からの称賛がワクチンや熱帯雨林保護に!?働きがいを高めるUniposがSDGsプランを提供開始
発信元企業     :Unipos株式会社
ビジネスカテゴリ  :ネットサービスシステム・Webサイト・アプリ開発
寄付先団体     :ジャパンハート、カタリバ、注文をまちがえる料理店
コミットするSDGs目標:「3 すべての人に健康と福祉を」「04 質の高い教育をみんなに」「10 人や国の不平等をなくそう」(寄付先及び対象となる目標は今後拡充予定)
SDGs推進に関する説明:
今回Uniposが発表する新プランは、SDGs達成に向けた全く新しいアプローチです。従業員同士が互いの日々の貢献に対して感謝の言葉とともに送り合うポイント(ピアボーナス)を、Unipos社が選定、協力をしたNGO・NPO団体などへと寄付し、各団体にどれだけ貢献できたかが分かるレポートを働く一人ひとりが受け取るというサイクルを回すことで、働きがいの向上と持続可能な社会の実現に同時にアプローチし、サステナブル経営を加速させます。Unipos社が介在することにより、煩雑な寄付先選定や寄付のオペレーション、従業員へのレポート送付を簡単に実現することが可能になります。
こちらはこれまでご紹介したものとは少し毛色の異なる取り組みです。企業が直接NPOへ寄付を行うのではなく、BtoBサービスである自社サービスの利用企業が自社サービスの利用を通してSDGs目標へのコミットのための寄付を行うことを可能とする「SDGsプラン」の提供を開始する、という内容です。利用企業からのコメントを見ると「Uniposを利用することで社員の積極的な貢献を認識・賞賛するだけでなく、組織内で交換されたすべてのポイントを支援団体に寄付することで、サステナビリティの取り組みに貢献することができます(LafargeHolcim社)」、「従業員一人一人が、日々の仕事が自社のみならず、社会貢献にも結び付くことを実感する機会は、一人一人の仕事の意義を高め、自然に、前向きにESGやSDGsと向き合うきっかけを与えてくれるのではないでしょうか(株式会社メルカリ)」のように、従業員一人一人のSDGsへのコミットを可視化できる点が魅力として語られています。市民一人一人の取り組みが期待されているSDGsの文脈がしっかりとアピールされていますね。
 
 

寄付プレスリリースに見るトレンド

7つのプレスリリースをご紹介してきました。
本記事でご紹介したプレスリリースはすべて2020年に入ってからの2ヶ月半の中で発信されたもので、特に今年に入ってから同様のプレスリリースが増えているように感じます。
 
株式会社ジーアイビーの事例でご紹介した通り、こうした寄付プレスリリースのトレンドはSDGs単体によるトレンドというよりは、コーズ・リレーテッド・マーケティング(寄付つき商品によるマーケティング)の様々な取り組みの盛り上がりや、CSR・CSVといった従来の企業社会貢献活動の文脈の延長線上として、企業の社会的責任をアピールする観点の一つとして採り入れられているという面も大きいように感じています。単に流行り言葉になっているだけ、という穿った見方もできるのですが、それだけ企業としては売上につながる本業との兼ね合いの中で考えるべきものであるという意識が働いていることの裏返しともいえます。
 
企業側の流行りの姿勢に引っ張られていいように使われてしまうことはNPOとして良くないですが、自組織のビジョン実現ミッション達成のための力を得るために企業連携や企業からの支援獲得が有効だと考えられるのであれば、こうしたトレンドをしっかりと捉えていきたいですね。
 
また、こうしたSDGsに関連した寄付プレスリリースを発信している企業は必ずしも大手企業だけではなく、スタートアップを含め企業規模が小さな企業でも取り組んでいる例があるという点にも特徴があるといえそうです。
 

企業連携・企業からの寄付獲得を目指すNPOが考えるべきこと

本記事では企業からの寄付に関するプレスリリースについて実際のプレスリリース文を見ながらSDGs目標へのコミットやNPOへの寄付がどのように位置づけられているかを考えてきました。最後に、企業連携や企業からの寄付獲得を目指すNPOとして、こうした企業側のトレンドに対応していくためにどのようなことを検討していけば良いのかについて考えていきます。
 

①自組織の活動とSDGsの関係を考える

まず真っ先に取り組むべきことは自組織の活動とSDGs目標の関係を整理するということです。自組織のビジョンや事業活動はSDGsの17の目標のうちどの目標と親和性が高いのかを検討しましょう。本記事で紹介してきたプレスリリースに表れている通り、企業側では「SDGs目標へのコミットとしてNPOへの寄付を行う」というニーズが高まっていますので、事前にNPOとして自組織はどの目標にコミットしているのかという点が発信されていると話が早くなりますし、SDGsという関心でNPOを探している企業に見つけてもらいやすくなるといえます。
 
実際世界中で活動している大手のNGOでは専用のページを用意して、自組織がどのようにSDGs目標に関わっているかを示しています。
 
ワールド・ビジョン・ジャパン
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 

www.savechildren.or.jp

 
ジョイセフ
 
プラン・インターナショナル・ジャパン
特にジョイセフやプラン・インターナショナル・ジャパンのページは、自組織やその事業が具体的にどの目標に対して関わりがあるのかという点が非常に分かりやすく示されていますし、実際にジョイセフは本記事で紹介したプレスリリースの中でも寄付先団体として選定されています。
 
あなたの団体ではどのようにSDGsとの関係を表現することができるでしょうか。改めて検討した上で上記のような特設ページを用意しておくと、企業との連携をすすめる上で話しがスムーズになるかもしれません。
 
 

②企業のニーズ・課題に応える提案を行う

2つ目のポイントは企業への提案を行う際に大切な視点として、一方的に「支援をいただく」という関係性で捉えるのではなく、NPOに支援を行うということが「企業側が抱える課題の解決」につながること、つまりNPO側として「価値提供」を行うことができるという視点をもって提案を行うべきであるということです。
 
例えば、本記事で扱っているSDGsについては企業側に「SDGs目標にコミットしたい」というニーズがあること共通点として挙げられます。ただ、そのニーズの具体度にはさまざまあり、NPOへの寄付を検討し始めた段階で企業としてどの目標にコミットしたいのか決まっている場合もあれば、どのように関わることができるだろかと漠然としていた場合もあると思います。いずれの場合も自組織への寄付がどのようにSDGsと関連するのかをしっかりと説明を行った上で、企業側のニーズに応える方法を提案し、一緒に作り上げていくことができればNPOに対して大きな価値を感じてもらえる可能性があります。
 
さらに、ひとえにNPOへの寄付といってもそのやり方はさまざまで、本記事で紹介してきたプレスリリースでも「企業からの直接寄付」「売上の一部を寄付」「BtoBサービスにおける利用企業からの寄付」と異なる寄付の方法が存在します。さまざまな寄付の方法があることを情報提供できることもファンドレイジングに詳しいNPO側として提供できる価値の一つとなることもあるかと思います。
 
また、この企業の課題に応えるという視点はSDGsのトレンドに限った話ではなく、NPOとして企業からの支援獲得を考える際には必ず意識すべき点です。例えば企業側として意識していることが株主や顧客などのステークホルダーに対して社会的責任姿勢を打ち出すことであれば本記事で紹介したようにSDGsという観点を打ち出した寄付やそのプレスリリースを行うことは有効だと考えられますし、一方で人材育成や社員エンゲージメントの向上などの課題を持っている場合には、単純な寄付ではなく社員へのボランティアやプロボノ機会の提供という形が最もニーズに応えるものとなるかもしれません。(実際に寄付ではなくNPOへのプロボノ提供のプレスリリースもありますし、その中でSDGs目標へのコミットが表明されているものもあります)
 
企業とコミュニケーションを行う上では、企業側の課題や状況をしっかりと捉え、自組織に対しての寄付が企業として抱えている課題の解決につながるということを示すことが有効です。
 
 

まとめ

以上、本記事ではSDGsというキーワードがNPOへの寄付においてどのように位置づけられているのか企業が発信する実際のプレスリリースを題材に検討してきました。ファンドレイジングにおいては個人寄付者獲得の動きのみに力を入れている団体も少なくないですが、支援金額や地域や社会に対しての信頼性獲得という点では企業からの寄付獲得も検討する余地のあるものといえます。特に企業側ではSDGsへの取り組みの模索が盛り上がっている時期でもありますので、改めて自組織とSDGsとの関係や、企業連携のあり方について検討してみることもおすすめです。
 
また、本記事は私が日々「寄付」などのキーワードでニュース検索を行いさまざまな情報に触れている中で感じたことをまとめることで作成した記事です。個人や企業の関心とNPOとしての事業の関連をどのように表現していくかという点もファンドレイザーとしての腕の見せどころの一つですので、日々様々なニュースに触れるという点もファンドレイジング担当者として意識していけると、よりよいファンドレイジングの実践につながるのではないかと思います。