NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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課題解決型と価値創造型 NPOの2つの戦略発想タイプ

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課題解決型と価値創造型 NPOの2つの戦略発想タイプ

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本記事では「課題解決型と価値創造型 NPOの2つの戦略発想タイプ」と題し、NPOの活動分野やビジョンの描き方によって、事業計画や組織戦略の考え方が異なるということをお伝えしていきます。

 

 

NPOの社会的役割は課題解決だけではない?

「NPOは社会課題解決をするものである」

このような表現を聞いたことのある方は多いと思います。”NPO=社会課題解決”のイメージは年々強くなってきており、社会貢献活動や社会課題の解決を仕事にしたいと考える人にとてNPOはキャリアの有力な選択肢の一つになっていると言えます(収入面など課題は多く残っていますが)。

一方で、私はNPOコンサルタントとして多くのNPOの伴走支援や研修講師を行ってくる中で、「課題解決」という言葉だけでは自分たちのやっていることや考えていることを捉えにくいという悩みを抱えているNPOの方にも多くお会いしてきました。

私たちが暮らしている社会には、社会全体の問題として捉え解決をしていくべき物事が少なからず存在をするということや、その解決には資本主義的(営利的)なルールや既存の行政サービスだけでは不十分で、課題解決に専門に取り組む人材や組織が必要であると、こうした認識が広がってきたこと自体は喜ばしいことです。

一方で「NPO=社会課題解決」のイメージが強くなりすぎることで、当のNPOの担い手自身(もっと広く言えばこれは私たち社会に暮らす市民すべてのことです)の発想が狭まってしまうのであればもったいないことだと感じています。

NPO法にはどのように書かれているのか?

こうした観点について、NPO法(特定非営利活動促進法)にはどのように書かれているでしょうか。

私が本記事や当ブログで「NPO」と呼んでいるのは法人としての「NPO法人」に限定はしておらず、任意団体や他の法人種別も含めて広く公益的な活動を行っている方を想定しておりますが、実態的にはNPO法人が法人種別として選択されていることが多いですし、NPO法の成立過程を鑑みても市民活動や他の公益的活動の経緯や要望を踏まえて成立している法律ですので、そこには広い意味での「NPO」に求められる精神も表れていると考えています。

NPO法の第一条及び第二条には、次のように書かれています。

第一条(目的)
(略)ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的とする。

第二条(定義)
「特定非営利活動」とは、別表に掲げる活動に該当する活動であって、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするものをいう。

 そして「別表に掲げる活動」とは以下の20の活動を指します。

1. 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2. 社会教育の推進を図る活動
3. まちづくりの推進を図る活動
4. 観光の振興を図る活動
5. 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
6. 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
7. 環境の保全を図る活動
8. 災害救援活動
9. 地域安全活動
10. 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
11. 国際協力の活動
12. 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
13. 子どもの健全育成を図る活動
14. 情報化社会の発展を図る活動
15. 科学技術の振興を図る活動
16. 経済活動の活性化を図る活動
17. 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
18. 消費者の保護を図る活動
19. 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
20. 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動

元々NPO法の中には「社会課題解決」という言葉自体が含まれているわけではありません。特定の誰かの利益を目的とするのではなく「公益の増進に寄与する」活動を広くNPO活動と呼ぶということですね。

そして、具体的に20個掲げられた特定非営利活動の分類を見てみると、そこには「社会課題解決」という言葉のイメージにぴったりと当てはまるものもあれば、そうではないものもあるのではないでしょうか。(「社会課題解決」という言葉をどのように捉えているか、ということも人によって幅があると思います)

このように本来の定義としては非常に広い活動が想定されているのですが、話題となった『FUCTFULNESS』という本でも触れられたように、社会全体の中での課題の深刻度が増してきている(と多くの人が感じている)ことや、深刻な情報の方に私たち人間の注意は向かってしまいがちであることなども背景にある中で、多くのNPOの担い手たちが自分たちの活動を「社会課題解決」という言葉の中で捉え、伝えていく必要があると感じているのではないでしょうか。

広報やマーケティング、ファンドレイジングの具体的な施策の中で「どのように伝えれば伝わりやすいか、受け取ってもらいやすいか」ということを考えることは非常に大切な視点ですが、そもそもの団体の存在意義や戦略を考える段階で視野が狭くなってしまうのは良くないことだと考えています。

NPO法(特定非営利活動推進法)について詳しくは内閣府のホームページをご確認ください。

www.npo-homepage.go.jp

課題解決型と価値創造型

前置きがやや長くなりましたが、ここからはNPOの戦略発想のタイプを二つに分けて解説します。ここまでに述べてきた通りNPO活動とは非常に多様なものでその組織や戦略のあり方は本来は組織の数だけ存在するというのが正しいと思いますが、課題解決にあたる活動とそうではない活動の大きく二つにわけることで「課題解決という言葉だけでは捉えきれない」という点を分かりやすくするという意図です。

一つ目は社会課題解決にあたる活動として「課題解決型」と定義します。そして、もう一つは「価値創造型」です。いわゆる社会課題の解決ではなく公益の増進に寄与する活動とは、特定の課題状態にある人を対象とするのではなく、広く市民に対して価値を創り出し、提案、提供する活動と捉えることができるからです。

課題解決型

課題解決型とは字の通りですが「社会に存在する課題を解決する」ことを目的とした活動です。ここでいう社会に存在する課題とは何か特定のテーマについて、(本来社会的にあるべきだとされる状態に対して)マイナスの状態にあるものを指しており、課題解決型の活動はそのマイナスの状態を±0の状態に近づけることを目指す活動です。※

例えば「子どもの貧困」は日本の子どもに関わる社会課題として広く認知されていますが、以下のようにその「マイナスな状態」が定義されています。

日本における「子どもの貧困」とは「相対的貧困」のことを指します。
相対的貧困とは、その国の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯のことを指し、子どもの貧困とは相対的貧困にある18歳未満の子どもの存在及び生活状況のことを指します。

日本財団 子どもの貧困対策

子どもの貧困対策 | 日本財団

子どもの貧困対策以外にも社会的な弱者を支援するような活動は課題解決型に分類されることが多いでしょう。また、同じ子どもの貧困というテーマに関わる活動でも、貧困状態にある子どもを直接支援する活動もあれば、貧困状態にある子どもが生まれないように政策提言などの根本的対処に関わる活動など実際の活動の形態は様々です。

課題解決型に含まれる活動の例

差別対策、虐待対策、貧困対策、ホームレス支援、自殺防止、被災者(地)支援、就労支援、環境保護など

※本記事では社会課題について「マイナスの状態」という表現で表しましたが、社会学の社会構築主義の考え方では「社会問題とは特定の害悪(マイナス)状態のことを指すのではなく、多くの人が害悪である、問題であると認識していること」という社会の側の認識や捉え方で成り立つものだという考え方もあります。自組織が関わる社会問題自体の認知を広げていく必要性を考えているNPO関係者にはぜひ一度触れていただきたい考え方です。『社会問題とは何か(ジョエル・ベスト)』という書籍に詳しく書かれており、私も書評を書いておりますのでよければお読みください。

daisuket-book.hatenablog.com

価値創造型

もう一つの活動は、価値創造型です。「社会に対して新しい価値を創造し、提供する活動」です。課題解決型が「マイナスの状態を±0に近づける活動」だとすれば、価値創造型は「±0の状態から5にも10にも増やす活動」といえます。

例えば音楽や美術などの芸術を振興するような活動やスポーツの普及振興、地域でのスポーツチーム運営といった活動は特定の課題(マイナス)状態の解決を目指しているわけではありませんが、その対象は広く開かれており、公益的な活動です。そこで目指されているのは文化や芸術、スポーツに触れることで、あるいはそれらを通して他の人との関わりあうことで、それまでには感じていなかった新しい価値を感じてもらうということです。こうした活動が増えていくことはそれだけ社会に新たな価値が増えていくことですので、価値創造型の活動が多い社会はそれだけ豊かで幸福な社会といえるのではないでしょうか。

価値創造型に含まれる活動の例

文化や芸術の振興、スポーツ振興、生涯学習、地域振興・観光振興、サークルやサロンの運営など

戦略の立て方や組織のあり方が異なる

課題解決型と価値創造型

課題解決型と価値創造型、二つのタイプを分けて整理をしているのはどちらのタイプに属するかで戦略の立て方や組織のあり方が変わるからです。例えば社会課題解決という文脈においては「NPOの最終目標は課題が解決され、そのNPOが必要なくなることであり、最終的には解散することを目指す」という言い方がなされる場合がありますが、これは主に課題解決型の組織に当てはまる一方で、価値創造型の組織には当てはまりにくいです。社会に提供される新しい価値はいくら増え続けても良いし、増え続けていく方が望ましいからです。

上の表では課題解決型と価値創造型の組織について、戦略の発想や組織のあり方にどのような違いがあるかを、組織運営に関わるいくつかの観点からキーワードで整理しています。あくまで大まかな分類ですので、参考程度にご確認いただければと思いますが、それぞれのタイプで発想の仕方が大きく異なることを捉えていただければ幸いです。特にご自分の組織が価値創造型に分類されるという方は、「NPOの役割は社会課題解決」という発想に囚われて課題解決型のように戦略や事業を捉えすぎていなかったか、これまでの発想に何か違和感はなかったかという点を意識してみてください。

戦略タイプを考える際の3つの注意点

ここからは二つの戦略タイプを元に自組織の戦略や組織を考える際に、注意していただきたい点をお伝えします。

二者択一ではなくバランス、掛け合わせ

注意点①二者択一ではない

まず一点目は二つの戦略タイプは二者択一ではないということです。明確にどちらかのタイプに分類される組織もあると思いますが、多くのNPOは一つの組織の中に両方のタイプの要素を持ち合わせています。

例えば子どもの貧困という象徴的な社会課題に関わるテーマで、子どもの支援を行っているとしても、子どもたちに提供される支援は食料であったり、学習指導であったり、あるいはさまざまな経験や機会の提供であったりとさまざまです。他にも、例えば国際協力の活動で貧困国の子どもを支援する活動を課題解決型として行っていたが、子ども支援に関わる大勢の日本の学生ボランティアにとっては非日常の中での経験が大きな成長の機会になっていることに気づき、日本の若者に対しては価値創造的な発想で事業をブラッシュアップしていくことが有効だという組み合わせもありえます。どこまでがマイナスから0に近づける活動で、ここから先はプラスを増やす活動だと明確な線引ができるわけではありませんし、そのような線引に意味はありません。

また、音楽やスポーツなど価値創造型に分類されるような活動をしていたとしても、例えば福祉施設で音楽の演奏を行ったり、スポーツを障害者との交流の場として位置づけるなど課題解決の要素を取り入れていくこともありえます。

NPOは多様で自由な発想で成り立っていますので、唯一の正解があるわけではありません。自組織なりの掛け合わせやバランスはどのようなものかを認識することと、その認識にあ合った戦略の立て方や組織のあり方を意識的に選択できるようになるということが大切です。

注意点②状況やフェーズによって変わる

注意点の二つ目は、一度自組織の戦略タイプを明確にできたらそれで終わりということではなく、同じ組織でも状況やフェーズによって戦略タイプの分類やそのバランスは変わるということです。

例えば組織側の目線で考えると、設立当初は課題解決型の事業一つだけに集中する必要があったが組織や事業が成長していく中で、受益者に対して新たな価値提供を行うような価値創造型の活動にも事業・活動を広げていくという場合があります。

また、受益者や社会の状況によって必要な発想が変わってくるということもあります。例えば、特定の難病の患者やその家族を対象として活動をしてきたが、医療の研究が進む中で患者の方が社会生活を問題なく送ることができるようになり、課題解決としての生活支援だけではなく、より豊かな人生を送ることができるような機会提供を模索するというような場合には、従来の課題解決型の発想から価値創造型の発想への転換が求められる、ということもあるかもしれません。

このように組織の側の状況だけでなく、受益者や社会の側の状況の変化によって、必要とされる発想が変わってくることもあります。社会状況の変化の大きさや急激さは新型コロナウィルスの感染拡大により多くの人が痛感していると思いますが、予測のつかないVUCAの時代と言われるようにもなってきていますので、定期的に自分たちの戦略の立て方、発想の仕方を変える必要がないかを自問していくことが大切です。

注意点③NPO向けの情報は「課題解決型」に偏りやすい

注意点の三つ目は、世の中に出回るNPO向けの情報は「課題解決型」に偏りやすいということです。書籍や各種の講座やセミナーで学ぶことのできる情報や、あるいはコンサルティングで受けることのできる支援なども含めて基本的に「課題解決型」の情報が多いと感じています。私自身もコンサルタントや研修講師としてNPOの支援に関わっていますが、私自身がお伝えする情報もどちらかと言えば課題解決型に寄っています。

これはNPO支援者の好みや流行りということではなく(それもあるのかもしれませんが)構造的な問題です。書籍や講座で学ぶことのできる情報というのは、基本的に体系的に整理された情報です。情報を体系的に整理すること、フレームワークなどを使って課題を明確にすること、計画に基づいて振り返りを行うこと…、乱暴な言い方になりますが要は「このやり方でやれば答えが出る、うまくいく」というのが講座やコンサルティングで伝えられることなのですが、こうした発想が当てはまるのは主に課題解決型です。そもそも価値創造型は定義として社会に新しい価値を提供するというあり方ですので、過去の何かを参考にしたり、形式に当てはめて再現性があるというものではありません。

世の中に存在するNPO向けの情報が課題解決に偏りやすいからこそ、本来は価値創造型に分類されるような活動に関わっている方も、自組織の戦略や組織のあり方を考える上で参考になる情報が課題解決型向けのものばかりで違和感を感じていたり戦略策定等に課題を感じているという方が多いように感じています。

価値創造型の情報収集や支援はどうすれば良いか

価値創造型の組織はどのように情報収集をすれば良いのかということについては私自身もまだ明確な答えを見つけることはできていませんが、一つには近しい分野で実際に価値創造型の組織運営を行っている方のお話をお伺いするということだと考えています。もちろんそれをそのまま真似するというわけにはいかないと思いますが、戦略の立て方や組織運営についてのヒントを得ることができるでしょう。セミナーなどでも、テキストを元に説明されるようなものではなく、組織運営者同士の対談やパネルディスカッション、ワークショップなどセミナーやイベントの立て付け自体が予定調和でない場所では価値創造型のヒントが詰まっていることがあります。

またコンサルタント等の外部支援者による支援を受ける場合も、単純なフレームワーク分析などではなく、スタッフ同士の対話から新たな価値を導き出すようなワークショップを主体としていくことは有効な手段だと感じています。

また、特にビジネスの世界では「イノベーション」というキーワードで語られる情報は本記事の文脈で言う「価値創造」と近しい発想のものも多いと感じていますので、さらに情報収集をしたり、考えを深めたいという方は調べてみていただければと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。本記事では「課題解決型と価値創造型 NPOの2つの戦略発想タイプ」と題し、NPOの経営戦略や組織のあり方に関する発想の違いや自組織の戦略タイプを考える際の注意点についてお伝えしました。

多くのNPO関係者が自組織の戦略タイプを見極め、事業計画や組織戦略を考えるヒントになれば幸いです。

 

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