NPOコンサルタント堤大介のブログ│朝ぼらけタイガー

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団体の10年後と目の前の子どもの10年後。NPOにとっての中長期視点とは?

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団体の10年後と目の前の子どもの10年後。NPOにとっての中長期視点とは?

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。本日は「団体の10年後と目の前の子どもの10年後。NPOにとっての中長期視点とは?」と題し、NPOにとって中長期視点を持つことの意義や必要性について考えてみたいと思います。団体として中長期計画を検討したことがない方やその必要性がイマイチわからないという方にぜひ読んでいただけると幸いです。

 

 

中長期計画は中小の組織こそ考えるべき

NPOコンサルタントとして日々多くの組織に関わる中で、中長期計画を作成している組織にはあまり出会いません※。特に中小規模の組織ではほとんど聞きません。ただ、私は中小の組織こそ考えるべきものだと考えています。

「中長期計画」「事業計画」という言葉にするときれいな計画書としてのアウトプットをイメージしすぎてしまい、難しそうという印象を持ってしまう方もいらっしゃると思いますので、まずはざっくりと「中長期の視点を持つとはどういうことか」から考えていきましょう。

中長期でNPOのことを考える際には大きく2つの視点の持ち方があると考えています。

(※自組織内で中長期計画を作成できる組織の場合、私が多くご支援しているような”伴走支援型のコンサルティング”はすでに不要なフェーズであり、そもそものニーズが発生しにくいという側面も大きいと思います)

団体の10年後、あるいは社会課題の10年後を考える

中長期視点のひとつ目は「団体の10年後」を考える、という視点です。(数字は分かりやすく「10年」としていますが、5年後でも3年後でも構いません)

いわゆる「中長期計画」というときにイメージするものの多くはこの「団体の10年後」ではないでしょうか。今後10年間で団体がどのように成長、発展していくのかを示したものやその論拠としての分析などをまとめたものなど。また、中長期での団体の成長を見据えた取り組みということで「組織基盤強化」という言葉をイメージする方もいらっしゃるかもしれません。どちらも中長期計画の中身に含まれることがあります。

でも本来はこれだけでは足りません。そもそも何のために団体がそれだけの成長、発展をしたいのか、という点が必要です。組織基盤を強化をするのはあくまで手段であって目的ではないはずですから。

 

では「目的」とは何でしょうか?

 

NPOにとっての目的とは、端的に言えば「社会課題の解決(あるいは社会への新しい価値の創造、提供)」です。つまり、10年後までには自組織が取り組む社会課題はどの程度解決されているのかを考える必要があるということです。

 

10年後にはあなたが解決に取り組んでいる社会課題の状況はどうなっているでしょうか?
受益者や当事者の方へのケア・サポートの体制・方法はどの程度質や量が洗練されているでしょうか?
そしてそもそもその社会課題はどの程度社会的に認知が広がっているでしょうか?

 

そうした状態にたどり着くという目的のために、手段としての団体や事業がどのような体制・状態になれていると良いでしょうか、あるいはなっている必要があるでしょうか。

組織や活動が前に進み改善、発展していくためにはたどり着きたい「到達地点」が明確に定まっている必要がありますが、NPOが掲げるビジョンはとても大きく抽象度の高いものであることも少なくありませんので、ビジョンだけでは明確な到達地点として組織内外に共有しにくい場合もあります。

だからこそ、ビジョン実現に近づくために10年後(あるいは5年後、3年後)までには何をどの程度成し遂げていたいのかという到達地点を明確にすることが必要で、その明確な到達地点があるからこそ、現状の事業・活動や組織をどのように変えていけば良いのかを考えられるようになるのです。

目の前の子どもの10年後を考えて日々の活動を選択しているか?

中長期で考えるというときにもう一つ大切にして欲しい視点があります。

それは「目の前の子どもは10年後どうなっているだろうか?」という視点です。

(活動の分野や種類によって対象となる受益者は変わりますので、「子ども」の部分はご自身の活動に合わせて適宜読み替えてください。「子ども」を例に出したのは私自身が元々児童福祉の対人支援の現場出身だからです。ここからは子ども支援の活動を例に考えていきます)

例えば児童養護施設などの児童福祉施設での学習指導を行っているとして、学習指導の現場においては日々子どもたちとのさまざまなやりとりがあります。

「問題が分からないからやりたくない」とか。
「勉強ではなくて遊びがしたい」とか。

子どもにそう言われたとしてどのように答えるべきでしょうか。

もちろん、これ自体に答えがあるわけではありません。どのような子どものどのような状況なのか、子どもとの関係性はどうなのか、個別指導なのか集団指導なのかなどさまざまな状況によってあるべき対応は変わるはずです。そして何よりもその活動が何を目指しているのかによっても対応は変わるはずです。

「何を目指しているの活動か?」という問いに対しては、よく団体のビジョンが持ち出されます。例えば「すべての子どもが自信を持ってイキイキと生きていけること」を目指している、といった形です。

でも、じゃあ「イキイキと生きているってどんな状態か?」という問いに自信をもって答えられるでしょうか。

目の前の子どもの10年後がイキイキとしているために、例えば半年後までに活動の中でのその子どもの態度や行動や意欲はどのように変わっていると嬉しいのでしょうか。

そして子どもに対する声掛けや関わりの仕方をその視点をもって選ぶことができているでしょうか。自分の声掛けや関わりのひとつひとつが目の前の子どもの10年後にとってどういう意味があるのかを想像することはできるでしょうか?

「分からない」「遊びたい」という目の前の子どもが発する言葉や行動には思いもよらないものもあるでしょうし、思い通りにいかずイライラする事だってあるでしょう。

そして子どもへの関わりがうまいスタッフさんもいれば、まだまだ子どもの関わり方に慣れていない新人スタッフさんもいるでしょう。

すべての子どもを支援の上手な誰かが、ずっと面倒見きることなんてできませんし、だからこそ「団体」として活動をつくるようになったはずです。

だとしたら、ちゃんと少し長い目線から考えて、「団体としての子どもへの対応」を選べるようにするべきだと、私は思います。

中長期でものごとを考えるというときに、団体がこの先どうなるのか、社会課題自体がどうなるのか、ということももちろん大切な視点で、それがなければ課題自体は解決していくことはないと思います。ただ、目の前の子どもの10年後を想像しながら一つ一つの活動現場での自分たちの振る舞いを見直していくという視点も同時にとても大切です。

目の前の活動に手一杯で忙しいから中長期のことなんて考えている余裕がないという気持ちもとても分かります。私自身が対人支援の現場経験が長く、児童養護施設の非常勤職員も務めたことがあるので疲弊した現場があることも十分にわかります。

でも、順序が逆なのです。目の前の活動が手一杯に大変だからこそ、先のことを想像した上で活動を作り一つ一つの行動や声掛けを選べるようになければいけないのだと、厳しいようですが私はそう思います。

ビジョンと目の前の子どもへの関わりのつながりを確かめるロジックモデル

団体の10年後(あるいは社会課題の10年後)と、目の前の子どもの10年後。

この二つの中長期視点をつなげ、そして日々の活動の見直すべき点を考えるために有効なのがロジックモデルという考え方(フレームワーク)です。

ロジックモデルは最近は助成金の申請書に組み込まれることも増えたり、社会的インパクト評価の文脈で語られることも多く、第三者からの評価やそれに準ずる外部向けの信頼性確保のためのもの、という認識をお持ちの方も少なくないかもしれませんが、ロジックモデル自体は第三者評価のためだけでなく、自組織の活動を見直すためや、スタッフ同士の共通認識醸成のためにも活用できるものです。地域で活動している中小のNPOにとってはそのような自組織内での活用のための作成の方が有効な場面が多いかと思います。

ロジックモデルにおいては、最終的に出したいインパクト(インパクトの定義の仕方については色々な考え方がありますがひとつには分かりやすくいえばビジョンが実現している状態)に近づくために、自分たちの事業・活動の受益者に対する影響がどのようにつながっていくのかを整理し、そのつながりを確かなものとしていくために、どのように活動を改善すれば良いのかを検討します。(ロジックモデルの説明としてはかなり大雑把な説明です)

活動で関わる子どもが、どのような表情になったり、どのような行動をとったり、どのような態度になることが、自分たちが子どもたちのために目指すビジョンにつながりうる変化なのか。中長期のあるべき状態から導き出した、目の前の活動の中で起こって欲しい子どもたちの嬉しい変化とはどんなものか。これまで関わってきた子どもたちの嬉しい変化の瞬間とはどんなときだったのか。それをスタッフ間ですり合わせることができます。その嬉しい変化を全員で共有できるからこそ、自分たち支援者が子どもたちにどのような声掛けや関わりをすべきなのか、あるいはすべきでないのかということのすり合わせもできるようになります。例えば日々の活動の振り返りを行うときにも「今日のあのときの子どもの発言や行動」に対してどのように対応すべきだったのかなどを話す際の、解像度がグッと上がるはずです。

そして、そうした自分たちの日々の活動をどのぐらい積み重ねて、広げていきたいのか、そのためにはどのような資源や体制が必要なのか、社会課題自体の10年後はどうなっているのか。そうしたことを行ったり来たりして考えて、改善すべきこと、変えていくべきことの洗い出しや優先順位判断をできるようになるというのがロジックモデルというフレームワークを活用することや中長期視点で考えるということの一つの意味ではないかと思います。

まとめ

本記事では「団体の10年後と目の前の子どもの10年後。NPOにとっての中長期視点とは?」と題して、中長期視点で考えることの意味や必要性について考えてきました。この記事でお伝えしてきたことのポイントを箇条書きでまとめます。

  • 中長期視点で考えることは必ずしもアウトプットとしての計画書ありきではない
  • きれいな計画に落としきれない、忙しい活動の改善点を考える際にも有効
  • 中長期の視点には2種類がある「団体の10年後」「目の前の子どもの10年後」
  • どちらかではなく、どちらも重要
  • 忙しくて目一杯大変だからこそ中長期の視点を持てるようになりたい
  • ロジックモデルを使うと二つの視点をつなげて、活動の改善ポイントを考えるヒントを考えることができる

中長期視点や中長期計画というものを自組織でも考えるべきことの一つとして捉えてくれる人が増えると嬉しいなと思います。

最後に少し宣伝となりますが、2021年4月13日からNPOサポートセンターさんで私が講師を務める「基礎から学ぶ中期事業計画作成ゼミ」が開講します。本記事でお伝えしてきたような内容も含めて分かりやすくお伝えする講座となっておりますので、ご興味のある方はぜひご検討ください。(講座について詳しくは以下をご確認ください)

 

www.daisuketsutsumi.com

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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